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最終決戦 その2


「そろそろご理解していただけたと思うのですガ」


「……ちっ。うっせーな。まだわかんねえよ、ボケ」



 デンゼルとの戦闘が始まってどれだけ経っただろうか。

 体感時間ではとんでもなく長ぇーんだけど、たぶんたいした時間は経ってねえだろうなぁ。



 何しろずぅーっとあいつにられっぱなしだもんな。

 そういう時間は長く感じるもんだ。



「オラァ!」



 威勢良く剣を振り下ろすが、やはりあっけなくかわされる。

 そしてかわし際に必ずかぎ爪の一撃もらってしまう。

 さっきからその繰り返しだ。



「いい加減負けを認めてくださいよゥ。手加減するのも大変なんですかラ」


「舐めんじゃねぇぞてめえ! おれはまだ負けてねえ!」



 つうかこいつ、こんなに強かったか?


 今のおれの実力ならもう少し勝負になると思っていたんだが……。



「舐めてるのはソッチのほうでショ。私が何の準備もなくあなたの前に立つわけないじゃないですカ。これでも一度、負けてるんですかラ」



 なんだ、やっぱり研究されてたのか。

 おれごときを相手に念入りな対策を練ってくれて嬉しく思うぜ。



「あなたの攻撃のタイミングは丸わかり。目をつぶってたってかわせますよ。それでもマダやりますカ?」


「当然やるさ。実はてめえだってそうとうプレッシャー感じてるクセに」



 おれの剣は竜鱗の剣。

 一度でも当たればデンゼルの装甲だろうと容易く貫く。

 反面あいつはおれをころせないという厳しい縛りがある。

 つまり、勝機はまだ充分あるってことだ。



「プレッシャーなんてまったく感じてませんヨ。出血のせいですかネ。今日のあなたは頭が回ってませんネ」


「……その発言でだいたい理解したわ」



 やっぱ、こいつの本体はエルセクトなんだな。

 ここで子機であるこいつを倒しても痛くもかゆくもねえってか。



「別にそれはいいんだよ。おれの標的はあくまで陽介とスフィア本体だ。てめえの本体は後からゆっくり始末してやるよ」


「ホラやっぱり理解していない。私がプレッシャーを感じていないっていってるのは、仮にあなたに負けようがどうでもいいって話でスから。スフィアを失ってくたばるのは陽介さまだけですしネ。こんな人工惑星にせもの、無くなったらむしろせいせいするぐらいです」



 そういやレギンパレスでも渋々といった感じで陽介を助けていたな。


 つうか、なんでこいつ陽介に従っているんだ?

 ゲームに負けたとかいうしょうもない理由で従っているとも思えんし。



「ゼノギアさまやエルセクトのロックを解除できるのは陽介さまだけでスからね。得になるから従っているだけでス。その辺はだいたいあなたの推測通りですヨ」


「まるで全機解除されたら裏切るみてえな物言いだな」


「まるでじゃないですよ。その通りでス」



 マジか。

 まあこいつらに友情なんてあるわけねえけどさ。



「だいたい私個人は陽介さま……いえ陽介には恨みしかありませんかラ」


「なんでだ。てめえは陽介の助手で、あいつの影響を受けたんじゃねえのかよ」



 しゃべりながらおれは手持ちの携帯回復魔道具で傷を癒す。


 ……これが最後の回復アイテムだ。

 次からは怪我に気をつけねえとな。



「もちろん受けましたヨ。でもだから何だというのです。地球を潰されて恨みを抱かない人間ガ、いったいこの世のどこにイルっていうんですカ?」


「なんだ、意外とまともな感性してるんだな」


「意外は余計でス。私はこれでも敬虔な愛星者。あんなイカレポンチと一緒にしないでくだサイ」



 なるほどね、それでこのスフィアを地球みたいに蒼く塗ってたってわけか。

 こりゃちょっと意外だわ。



「ああそウだ。何なら一緒に従ったフリをしてあの男の寝首をかきませんか? 我々はその一点に置いては同志のはずですヨ」


「実に魅力的な提案だが、そんな博愛精神に溢れたてめえが、なんで機人による世界征服なんてもくろんでるんだ?」


「なんでッて、そりゃア現行人類が地球に害を為すだけの害獣だったからですヨ」



 旧人類は地球環境を考えない粗暴な生物。

 欲望のままに公害を垂れ流し自然を破壊し、ただいたずらに地球の寿命を削るぐらいなら、いっそのことすべて滅ぶべきだろうとデンゼルは憤る。



「その点、機人は地球にとってとてもエコロジーな存在でス。エネルギー源は陽光ですし、その精神も完全に電子制御されているため余計な欲望は持ちません。同種間での無益な戦争も起こさないしむやみな環境破壊だっていたしませン。これこそまさに進歩した人類。人の新たな形でス。

 まぁこんなことをいってもあなたには、馬の耳に念仏でしょうけどネ」


「いや、そんなことはねえ」



 てめえの言い分は充分理解できるよ。

 人類がこのまま繁栄を続けりゃ地球が汚れて滅ぶなんて誰しも一度は考えることだ。

 最初からそういう風にいってりゃ、おれも一理あると納得しただろうな。



「おまえのいうことはもっともだ。実にエコで正しい考え方だと思う。ちょっとした敬意すら感じるぐらいにな。狂人という評価は撤回させてもらう」


「だったラ――――」


「だがおれはエコではなくエゴで生きる人間でね。悪いがおまえのような聖職者と相容れるのは不可能だな」



 もちろん地球は大事だ。

 だがあくまでそれは人間ありきだ。人類が滅ぶべきだとはまったく思わねえ。

 おれにとって地球はただの生活スペース。それ以上でもそれ以下でもない。綺麗事をいう気は毛頭ねえよ。



「おれが大事なのは人類だけだ。星のためにここの人間を犠牲にするってぇのなら、てめえをぶっ壊してでも止めるだけよ」


「残念。結局あなたもただの俗物でしたカ。まあ知ってましたケど」



 デンゼルがここで初めて構えをとる。



「やはりあなたはここでコロします。私の目論見を知った以上、生かしてはおけない」



 その口調は真剣そのもので、普段の道化ぶりは陰も形もない。



「嬉しいぜデンゼル、ようやくおれに本当の顔を見せてくれたな」



 おまえにはおまえなりの考えがあり、おれにはおれの考えがある。

 どちらにも譲れないものがあるのなら、戦って決めるしかねえわな。



 デンゼル、おまえとは色々あったけど……もう恨みはねえよ。



 こいつはただの生存競争。

 己が種族の滅びを回避するために、明鏡止水の心境にておまえを倒す。




 おれは剣を上段に構えてデンゼルを迎え討つ。

 タイミングを読まれようが関係ねえ。

 最速、最高の一撃をあいつの脳天にぶち込むだけだ。




 一方デンゼルは、まるで短距離走者のクラウチングスタートみてえに前屈みになっている。

 低い姿勢から一気に懐に突っ込んで、剣が振り降ろされる前におれの命を奪うつもりなのだろう。

 おれの得意技である上段打ち下ろしへの対策であることは間違いない。




 ははっ、まさかこのおれが対策される側に回るとはねぇ……。




 だが、関係ないね。

 おれはおれのベストを尽くすのみ。



 いざ尋常に――――勝負ッ!





 デンゼルが大地を蹴るのと、おれが剣を振り下ろすのはほぼ同時だった。




 だった、はずだ。




 にも関わらず、おれの剣が振り降ろされる前に、デンゼルはすでにこっちの懐に入っていたのだ。



 なんてスピードだ!

 しかもデンゼルの頭が遠い!

 このままではこいつの脳天を叩くより早くおれの心臓がぶち抜かれる!





 せ、せめて相討ちに――――ッ!!






 ザン






 おれの見立てでは、奴の攻撃のほうが一瞬早かった。


 最高の結果でも相討ちがせいぜいだと考えていた。


 だが、なぜかおれの剣のほうが先にデンゼルの脳天に届いていた。


 おれの心臓をえぐろうとした刹那、あいつの手が一瞬止まったのだ。



 なんでだ?



「ば、馬鹿な……エルセクトが、人ごときに破壊されるなんテ…………ッ!」



 ……なるほどね、そういうことか。



 納得したおれは剣を閃かせ、デンゼルの全身をバラバラに切り裂いた。



「あばよデンゼル。あんた強かったぜ」



 少なくとも、おれがまるで歯が立たない程度にはな。



 だが、たとえおれ個人がおまえに劣っていようと、人類は決して負けない。

 たとえ地球ふねが沈もうとも、すぐに新たな地球ふね創造つくってみせる。そんな人間の醜いエゴが、一切のエゴを持たぬ心清らかな機人に劣るはずがないのだから。



 どれだけ汚く醜かろうとも、生きる意志のある奴らのほうが強い。

 この生存競争、人間に軍配があがるのは必然だった。


デンゼル戦、決着

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