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レギンフィア包囲網

 ロンデリオンの復旧作業は超絶ハイスピードで行われた。

 行われたっつうか、やらせた。このおれが。



 ルルザーネを中心に被害の少ない町に援助を要求しまくり、主要施設の再建に必要な人員を召集したり、継戦に必要な補給物質をガンガン運ばせた。


 リグネイアの技術者もすべてロンデリオンに集結させ、飛空艇等の破壊された兵器の修復作業に当たらせた。



 復旧っつうか軍事拠点化かな?



 まあ、細けえこたぁいいんだよ。



 そんな悠長なことをやってないでさっさとレギンフィアに攻め込めという意見も多々出たが、それでもおれは作業を強行させた。



 どこの世界でも戦の基本は兵站へいたん

 万全の後方支援なくして完全なる勝利などありえない。



 何度もいうが、今回のおれは勝利以外に興味がない。

 時間も、効率も、政治も、地位も、名誉も、何もかもどうでもいい。

 どんなに泥臭い形だろうと勝つ。

 ただそれだけだ。



 だが軍内にはおれのやり方を嫌う者も多い。



 イチイチこいつらの相手をしていると骨が折れる。

 よって現連合軍の首脳陣は、おれの息のかかった者のみで構成している。



『己の周囲はイエスマンで固めろ』



 ちょい昔にじっちゃんがいっていた格言を実践している形だ。



 トップの提案に頭から反発する奴はただのアンチだ。

 感情で反発しているから次第に意固地になり、途中から自分の論の正しさを証明することだけに躍起になる。

 そういう人間は、最終的には人の足を引っ張る側に回るのだという。

 だったら最初からそいつらはすべて切り捨てて、自分の派閥の人間だけで回せばいいというありがたいご高説だ。



 おれがいうのも何だが、じっちゃんは人としてちょっとどうかと思うわ。



 これでもおれが子供の頃はまっとうな人間だったんだがなあ。

 人間何がきっかけで豹変するかわからんから怖いよな。



 だが今回に限っては、そんな変人の言い分も参考にする。

 何度もいうが勝つこと以外に興味がないからな。

 わずかでも理があるなら何でも使う。



「あの……私、副官の仕事何もしてないんですけど、いいんですかね?」



 急設した司令室でレイラが申し訳なさそうにいうので、



「おれのいうことに『イエス』と答えるのがおまえの仕事だ」



 と、教えてやる。


 副官なんてちょっと頭が悪いぐらいでちょうどいい。

 悪知恵が働くとどこかの誰かさんみたいに勝手な行動をとりだすからな。

 おかげでおれが自由に行動できなくなっちまったよクソったれ。



 今回の連合軍はいうまでもなく超巨大戦力。

 ここまででかいと「勝ちは当然」と余裕が出てくる。

 余裕があるといらぬ功名心も出てくるものだ。

 そいつを抑えるのが今回のおれの仕事だ。

 果たしきれてねえけどな。



「『ノー』と答えるのは幕僚長に任せておけばいい」



 おれは書類仕事をしているリチャードさんに話を振る。



「指令の判断は正しいですよ。私から進言することは何もありません」



 リチャードさんとは何度も話し合って、軍事に関する考え方がおれと似ていることは確認済み。

 よって憎まれ役も兼ねて幕僚長に任命し、参謀事務を一手に任せている。



「戦というのは政治ですよ。イチかバチかの博打ではありません。他の指令官もマサキ指令のように常に盤石の体勢を整えるようにしてくれると現場が助かるのですがね」



 あんたら、ロギアの無茶な命令にさんざん煮え湯を飲まされてきたもんな。



 支援物資もろくに送らずに敵地に放り込む。

 それどころか本土に支援どれいを送ってこいだもんな。

 仲介してたおれがいうのも何だが、ちょっとどうかしてるわ。

 あんたらが不利になるのは大歓迎だから黙ってたけど。



 だから、おれみたいに何事も慎重な司令官の側につきたがるのは当然といえる。

 ノーというのがリチャードさんの仕事だが、よほどのことがないかぎりノーとはいわんだろうね。彼もまたおれのイエスマンの一人よ。



「タロットカード量産の目処がついた。これでいつでも行けるぞ」



 兵器製造担当のマリィがワイツを切ってから報告する。


 あっという間に通信環境を整えて兵器の製造ラインを作っちまうんだから、あいかわらずすげえ辣腕だな。


 我が師ではあるが、こいつだけはちょっと警戒しとかなきゃならんな。

 あんまり権限を与えすぎるとぜったい要らん悪事を働くわ。



「魔法騎兵隊の再編成完了。こっちもいつでも行けるぞい」



 兵士召集を任せていたマジックさんからも連絡が飛んでくる。

 スパイダ強襲で散り散りになった魔法騎兵隊を、マジックさんがイドグレス各地を回ってもう一度集め直したのだ。


 ちなみに戦死者はほとんどいないとのこと。

 さすがは全員、マリィと同等かそれ以上の実力を持つ化け物集団。

 頼りがいがあるぜ。



「またリグネイアのインテリどもがしゃしゃり出てくるのかい? 次は私たちにも暴れさせな。後衛はヒマすぎてあくびがでそうだよ」



 オーネリアスが竜鱗の剣の手入れをしながらおれに愚痴る。


 シグルスさんの剣で武装したあんたらアマゾネス部隊は、一人一人がおれと同レベルの猛者どもだ。

 そう焦らずとも活躍の機会はあるさ。

 最高に気持ちよくなれる場面を用意してやるからちょいと待ってな。



 ちなみに田中とミチルは首脳陣に加えてない。

 あいつら典型的な兵士体質だからな。いても邪魔なだけ。



 今はオーネリアスの部隊に編成されてるけど、女だらけだからめっちゃ浮いてるわ。

 一緒に魔族と戦ってた仲だから、まあ妥当な人事だろう。



「ではそろそろ始めるか。レギンフィア奪還作戦を」



 準備は万端。

 勝率は100%。

 後の課題は自軍の被害をどれだけ減らすかだけ。



 ド派手な展開など一切ない。

 美談や英雄なんぞ作るヒマすら与えない。

 戦争にすらさせない。



 これは害虫駆除だ。



 歴史の教科書にはたった一行、こう記されるだろうね。



『連合軍はスパイダを掃討しレギンフィアを奪還した』と。



 もっともレギンパレスは陥落したわけじゃねえから、奪還っつうのはちとロイヤルズに失礼かもしれんがな。

人事を尽くす

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