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スパイダ掃討作戦

 兵の損失2000。



 数字で見ると少なそうに思えるがそうじゃねえ。



 ギルバートの連れて行った兵はすべてウォーレンの魔法使い。

 エルメドラによって魔力強化された疑似勇者だ。

 残ったウォーレン兵は魔力を持たない一般兵ばかり。



 痛い。

 痛すぎる損失だ。

 泣きたくなってくる。



「ギルバートを追いますか?」


「……いや、いい。副官にも何か考えがあってのことだろう」



 仮に追って戻るよう命令しても、ギルバートがおとなしく従うとは思えない。

 連中はもう使いものにならないと考えるべきだ。



「ではどうしますか? ウォーレン魔法兵団抜きでは作戦遂行が困難になります」


「……」



 スパイダのレーザー攻撃を疑似勇者の紋章の力で防ぎつつ戦うというのが、今までのおれたちの戦術だった。



 おかげでたいした被害もなくここまでたどり着くことができたわけだが……ここから先は敵の巣窟。

 攻撃はますます激しくなるし、疑似勇者の盾なしでは大きな被害は避けられないぞ。



「我らが前に出よう」



 おれが困っていると、見かねたリチャードさんが立ち上がってくれた。



「我らエルナは人間よりはるかに屈強。魔法を使える者も多く盾役としてはうってつけです」


「だが、あんたたちの兵はエルメドラの加護を受けてねえ。スパイダどもの強力な攻撃を受けたら……」


「聖王軍を舐めてもらっては困りますぞ。これでも我らは擬似勇者たちと互角以上に戦い続けてきたわけですからな」



 あ、ありがてえ……ッ!


 なんかおれ、魔族に寝返りたくなってきた。

 この戦いで生き残れたらマジでイドグレスの親善大使になろうかな。



「この借りは、いつか必ず返すよ」


「もともとが我らの首都を守護するための作戦。こちらが借りてる側ですよ」



 おおっ、なんという男気に溢れた発言。嬉しくて涙が出てくらぁ。

 ギルバートもちっとは見習えや。



 でもまあ『そういうこと』なんだろうな。



 ギルバートからすりゃ敵の首都の奪還なんざまるで興味関心がねえんだ。

 いや、それどころか陥落してくれりゃ落とす手間が省けて美味しいぐらいに思っているんだろうよ。



 てことはギルバートの狙いはオルドのエルセクトだな。



 あいつが独力で首級を挙げればウォーレン軍は英雄だ。

 その力が今なお健在であることを世界に知らしめることができる。

 戦後のイニシアチブを取るにはうってつけの作戦だ。



 ついでにおれに嫌がらせもできるんだから一石二……いや三鳥だな。

 やたら部隊を分けろ分けろといってたのもその一環。

 おれが突っぱねることを想定した上であえて進言してたんだ。

 戦後、おれの無能を強く世間に訴えかけられるしな。



 さすがはギルバート、戦後の政治まで考えてるとはとっても賢いなぁ。

 早く死なねーかなぁ。



 いつものおれなら喜んで受けて立つところだが、生憎今回はそんな気分じゃない。



 おれは二兎を追わない。

 ギルバートも追わない。



 勝とうが負けようが軍事に関わるのはこれが最後だから、あいつが戦後何を訴えかけようがどうでもいい話だしな。



 とはいえ……戦力低下は無視できない問題だ。



 リチャードさんたちが体を張ってくれるとはいえ、確実な勝利のためにはどうにか戦力は補充したい。



 戦力の補充、戦力の補充、戦力の補充…………あっ!



「魔法騎兵隊と合流しようッ!!!」







 ルルザーネを立ったおれたち連合軍は、今や鉄蜘蛛の巣と化したロンデリオンの眼前に陣を張った。



「魔法騎兵隊、来てくれるんですかね」



 臨時副官に任命したレイラが心配そうな声でつぶやいた。



「すでに伝達は済ませた。これ以上、おれたちに出来ることはねえよ」



 魔法騎兵隊は世界最強の軍隊。

 たかだか蜘蛛ごとき相手にあっさり全滅なんてするはずがない。

 きっとどこかで潜伏して機を伺っている。



 ルルザーネの町長に頼んで、各町におれが兵を挙げて掃討作戦を実行しているという旨を喧伝してもらった。



 おれの名を聞けば、

 おれが兵を挙げたことを知れば、

 きっと合流してくれるはずだ。



 来なかったら来なかったで、それもしかたない。

 リチャードさんを信じて戦うだけだ。





 ――……さあ時間だ。始めるぞ。





 おれたち連合軍のスパイダ掃討作戦は正午きっかりに始まった。



 疑似勇者の代わりに先頭に立った魔王軍はよく戦ってくれた。

 スパイダのレーザー攻撃を魔法で塞ぎつつも勇猛果敢に前に出ていき、他の兵もそれに奮起して突き進んだ。



「戦況はこちら側が有利です!」



 レイラが部下からの吉報を嬉しそうにおれに伝える。


 最初は「なんで私が副官なんて大役を」と嫌がってたが、今ではわりとノリノリだ。

 意外なことにそこそこ有能でもある。



「一時はどうなることかと思いましたが、杞憂でしたね」



 まあな。

 ていうかリチャードさんたちが有能すぎんだな。

 つうか、おまえらこんな連中を相手にしてよく今までもったな。



「損耗率1割未満か。3割を越えたら後備部隊と交代する予定だったが、この調子ならまるで問題ねえ。このままロンデリオンを奪還する!」



 ロンデリオンを奪還できれば補給線が確保できる。

 となればレギンフィアはそう簡単には落ちなくなる。

 守ったも同然といっていい。

 ロイヤルズと合流すればエルセクトと戦うための戦力も確保できる。



 なんだギルバートがいなくても割と余裕じゃないか。



 ていうかこの調子だとエルセクトのほうもたいしたことねえかもしれねえな。

 おれたちと合流するより先にギルバートが破壊しちゃうかもしれねえ。

 まあ、それならそれで一向に構わねえ。

 勝つんなら圧勝してえ。

 できればおれたちが大陸を渡ってシグルスさんを援護してえからな。



 あ、もちろんおれはシグルスさんが負けるなんて微塵も思ってねえよ?

 でもさ、念には念を入れてってな。

 何しろゴルドバの野郎が不吉なことばっかいいやがるからな。



 リンチはおれの得意技。

 あのガラクタ野郎をみんなでボッコボコに……。



 ……気のせいか?


 突然周囲が暗くなった…………って、うおおおおおおおっ!




 ドガァァァァァァァン!




 い、いきなりおれの眼前に蜘蛛が降ってきやがったッ!!!




 まさか前線からここまでジャンプしてきたのか!?


 蜘蛛じゃなくてバッタだったのかよオメェ!



「指令、危ない!」



 レイラがすかさずおれの前に飛び出すが――――ハッキリいって邪魔だ!



 てめえがいるとおれが剣を振れねぇよ!



 ヤバイ! 蜘蛛が口を開けた!

 このままじゃレイラが吹き飛んじまう!



「レイラ、そこをどけぇ! そいつはおれが斬るッッ!!!」


「いいえ、どきません! 指令を守るのが私の任務なので!」



 今やってるからわかると思うが、てめえの剣じゃスパイダの装甲は抜けねえんだ!

 だから後方に陣取って魔法を食らって機能停止したところに止めを刺す役をやらせてるんだよ!


 作戦会議でちゃんとそう話したよな!?

 もっとも、わかってて壁役としてやってるんだろうけどな!



「私がこいつを押さえているうちに、指令はお逃げください!」



 まったく、職務放棄するおっさんもアレだが職務に忠実すぎんのも困りもんだなァ!

 だから人の上に立つ仕事は嫌いなんだよッ!!!




「どうやら苦戦しているようだな」




 聞き慣れた声と同時に、レイラを襲っていたスパイダの動きが止まった。



 蜘蛛の装甲の隙間にカードが突き刺さっている。



 こいつは『魔法のタロットカード』だ。



 魔道具の一種で、使い手の念により様々なタイプの魔法に変化させることができる。



 今放り込んだカードの暗示は『愚者イディオト』!


 能力は『対象の知能低下』!!


 おれはこの魔道具の使い手を一人しか知らねえ!!!




「私が力を貸そうか?」




 まるで太陽のように輝く金色の髪から、ついた渾名あだなは『黄金のマリィ』。

 自他共に認めるリグネイア随一の魔道具使いだ。



 マリィ・マーマネス。



 死んだはずの師匠がなぜこの戦場にいる!?


復活!

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