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連合軍

 電光石火の早さで編成された人類・魔族連合軍は、勢いそのままイドグレス大陸奪還のために動き出した。


 兵は神速を尊ぶからっていうのもあるが、これほど急いだのはレギンフィア陥落まであまり時間がねえと判断したからだ。



 レギンフィアには何かがある。



 それが何かまではわからないが、とにかくヤバいということだけは確信できる。

 レギンフィアの陥落は、人類の存亡に関わってくる重要な事態だという気がしてならないのだ。



 この予感はおれだけが感じているものじゃない。

 ゴルドバはもちろん、たぶんソルティアも感じている。

 だからこそ二人ともおれに協力的なんだ。



 もう悠長なことはいっていられない。

 エルメドラによって強化された魔法使いを全面に押し出し、ゴリ押しでレギンフィアを奪還する。







 リグネイアの飛空艇はスパイダのせいでほとんどオシャカになっちまったため、おれたちは海路を用いてイドグレス大陸へと到達した。

 ここから先は陸路を使ってレギンフィアを目指すこととなる。



「マサキ指令、本当にこのまま全軍でレギンフィアを目指すのですか?」



 港町に着いて早々、副官が今更そんなことを訊いてくる。



「作戦は予定通り決行する」


「しかし我が連合軍はあまりに数が多すぎて命令が行き届いていません。何部隊かに分けて別行動をとったほうが統率がとれるものかと」



 ダメダメ、そんなことをしたら勝手な行動をとる部隊が出てくるだろ。

 特におまえとかな。



「敵はオルドを拠点にしてレギンフィアを狙っています。最低でも部隊を二つに分けて同時に攻めるほうが効率的かと思われますが」


「まずレギンフィア。その次がオルドだ。これはもう決まったことだ」



 効率なんか知ったこっちゃない。

 おれが一番恐れるのは部隊の各個撃破だ。

 とにもかくにも最悪の事態だけは絶対に回避する。

 それだけだ。



 オーネリアス軍も魔王軍もそれで納得したんだ。

 おまえに文句をいわれる筋合いはねえよ。



「失礼ながら指令は軍事の素人です。現場では私の言葉に従っていただかないことには困ります」


「作戦会議での決定事項に従わないのは、素人玄人以前に人間失格だ」



 ……ああ、いい忘れていた。



 おれの副官の名前は、ギルバートっていうんだ。

 いわずと知れたウォーレン最強の魔法使いで、その名は他の大陸にまで轟いている。



 ウォーレンが最高の人材をってことであてがってくれたわけだが……おれに対する不信感丸出しだから困る。



 実力は文句ねえし尊敬もしてるんだが、道中ずっとこんな調子なもんだから、さすがのおれも気が滅入るわ。



「指令のバックには神がついておられますから。会議での発言権などあってないようなものですよ」


「それならもう諦めろよ。駄々っ子かよ」



 おれがそういうとギルバートはすげえ剣幕でこっちをにらみつけてきた。



 おーこえーこえー。

 あんまり挑発しすぎると後ろから撃たれるかもしれんな。

 たとえヘタレのこいつとはいえな。



 もっとも、ギルバートの態度自体はいたって正常だがな。

 いきなりポッと出てきたオーネリアスの商人が、なぜか王に気に入られて自分の上に立つんだもんな。不愉快極まりないのは当たり前の話だわな。


 いつものおれなら笑いながらケンカに応じてやるところだが、今回ばかりはそうもいかねえ。



「おまえが女王陛下に何かしたことはわかっているんだ。いつかすべてを白日の下に晒して断罪してやる」


「そういうのはこの戦争が終わってからにしてくれ」



 何しろこの戦は、マジで全人類の命運がかかってる。

 おまえのくだらん私事に関わっている余裕はない。

 今回のおれは、いつも以上に必死だ。







 副官のありがたい進言をガン無視して、おれたちはレギンフィアに向けて行進した。

 道中幾度もスパイダの群れと交戦したが、魔力を強化しているおかげで大きな被害も出さずにルルザーネにまで到着できた。



 ここを拠点にまずはスパイダに占拠されたロンデリオンを落とす。

 その次はレギンフィアだ。



 順番に行く。

 近道は絶対にしない。

 どれだけ非効率だろうと、どれほどの被害を出そうと、確実な勝利だけをもぎ取る。



「どちらへ?」


「魔族の様子を見てくる」



 ギルバートの質問におれはそっけなく答えた。



「あいつらが先走らないよう釘を刺しておかないとな。おれの留守を頼むぞ」



 魔族は首都を奪還しようと躍起になっている。

 ここで足並みを乱されると敗北に繋がりかねない。

 せっかくの人類・魔族連合軍だ。楽しくやっていこうぜ。





 ルルザーネの町外で野営していた魔王軍は、意外なことにおれを快く迎え入れてくれた。



「ようこそマサキ指令。わざわざここまで足を運ばれるとは思いませんでした」



 魔王軍現場指揮官、リチャード・カーズ将軍は歴戦の古強者だ。

 全身の至るところについた刀傷が彼の勇猛さを証明している。

 指揮官といえども決して安全な場所でぬくぬくとはしていない。

 こういう武人をおれは種族問わず尊敬している。



「あなたがパーガトリの看守長だったときからの縁ですが、こうして直接お話するのは初めてですね」


「ああ。あのときは本当に世話になった」



 リチャードさんの差し出した手をおれはガッチリと握る。

 魔族全体からは白い目で見られているが、こいつ個人とはわりと仲良しなのだ。

 伝書飛蜥蜴ワイバーンで文通してた時期があったからね。



「それにしても驚きましたよ。女神直々に総司令の大抜擢……ここ一年であなたにいったい何があったのですか?」


「まあ色々とだ。色々とな」



 女神をぶん殴って首都からひきずり降ろしたなんて知れたら、こいつにぶちころされそうだから黙っとくぜ。



「と、とにかくだ、今日はあんたに釘を刺しにきたんだ。首都はぜったいに取り返すから、くれぐれも先走るのだけはやめてくれってな」


「私はもちろん命令は絶対守りますよ」


「そんなことはもちろんわかってるさ。あんたは立派な軍人だからな。でもあんたの下にいる連中はそうはいかんだろ?」



 おれに指摘されてリチャードさんはおし黙る。

 やっぱ下のほうでは人間に使われるのを不満に思う声が強いんだな。



「だからさ、もうちっと下の締めつけを強化してくんねえかな?」


「ですが、あまり締めつけすぎると不満はますます高まりますよ」


「なあに、この作戦が終わるまでの間だけだ。この際、腹を割って話すが、おれはあんたに悪役になって欲しいわけよ」



 あんたが部下をきつく締めつけることであんたのほうに憎しみが向く。

 相対的におれに対する不満は軽減されるって寸法だ。



「エルナの英雄に悪ぃとは思っている。だがこの作戦は絶対に成功させてえ。これはあんたを見込んでのお願いだ」



 おれは地につかんばかりに深々と頭を下げた。

 普段のおれなら悪役上等なのだが、今回ばかりはそうもいかねえ。


 この決戦は、どんな手段を用いてでも成功させる。


 そのためならおれは、人類の英雄になることも躊躇わない。



「マサキ指令……いえ、リョウさん。あなた昔『人に好かれる立場は苦手だ』なんて漏らしてましたよね」



 ん? ああ、いわれてみればそんなことを書いたような気もするな……。



「そんなあなたが少しでも人に好かれようと努力しているなんて、私は嬉しいですよ。わかりました、その話お受けしましょう」



 ――ありがてえ!


 おれはすぐさま頭をあげてリチャードさんと握手を交わす。



「私も戦場暮らしが長いですから、人に敵意を持ったことは数知れません。敵はもちろん味方にも、どうしても相容れない性格の者はいましたから」



 だがそれでも人間不信にならずにここまで戦い続けられたのも、同じ釜の飯を食った仲間たちのおかげだとリチャードさんはいう。



「リョウさんの戦場はきっと私よりずっと孤独だった。でも、ようやく巡り会えたんですね。心を通わせられる仲間が」


「……いや、そんなたいそうな仲間もんじゃねえっすよ」



 怒りの中で生きてきた。

 自分以外のすべてが敵だった。

 いや、そいつらは全員『おれ』だった。


“敵”は自分を含めたすべての人間だった。


 そんな自分がここに来て、ようやく自分以外の誰かに巡り会えた。

 心が通っているかはともかく、それは何よりも代え難い幸運だった。

 もちろんあんたも、その中のひとりさ。



「大変ですマサキ指令!」



 突然の出来事だった。

 おれの配下のリグネイア空兵が、おれたちのいるテントの中に飛び込んできたのだ。



「何事だ!」



 警護を担当するレイラがおれの盾になるように割って入る。

 もっとも、裏切っておれの命を狙いにきたとかいうわけではなさそうだが……。



「報告します! 副官のギルバートが配下の兵2000を引き連れてルルザーネを出奔しゅっぽんいたしました!」




 は、はああああああああああああああああああああああ!?




「もしかしてマサキ指令の密命でしょうか!?」


「んなわけねぇだろ!! 裏切りだよ、裏切り!!!」



集団をまとめるのは難しい

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