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旅行は計画的に

 世間は広い。

 同姓同名の人間だって多い。

 名前なんぞを頼りに聞いて回ったところで見つかるわけがない。



 そして外には危険がいっぱい。

 綿密な準備をして行かなければ命を失いかねない。



 昨夜の経験から学んだこと。

 それは当てずっぽうで行動してはいけないってこと。



 当たり前の話じゃねーか!



 どうやらおれは自由になったことが嬉しくて少々テンパっていたようだ。

 次からはもうちょっと情報収集してから外出しよう。



 つうわけで自宅どくぼうに戻ったおれは、いつも以上に看守の会話に聞き耳を立てていた。



 ……普段と代わり映えのしない会話しかないなあ。



 上司のグチだとかそんなんばっかし。

 まあそれしか会話のタネがないんだろうけどさ。


 まいった。これではラチがあかないぞ。



 ホントは世話役のおばさんに直接聞くのが一番なんだけど、護衛の連中がまた怖いのなんのって。

 なにしろあいつら魔法を使いやがるからな。しかも奴隷を見る目の冷たいこと冷たいこと。ヴァンダルさんはよく絵本なんて借りてこれたと思うよ。



 だが、ヴァンダルさんにできておれにできないってことはあるまい。

 仲のいい人間が処刑されたんだ。たぶん同情のひとつぐらいされているだろう。


 護衛の連中だって人の心を持っているなら多少は負い目を持っているはず。

 それを利用してなんとかイリーシャの情報を聞き出せないものか。



 しかしなあ……今のおれの語力では、片言でしか会話できんぞ。

 ヴァンダルさんのようにウィットに飛んだジョークのひとつでもいえればいいのだが……まあ、やるだけやってみるか。



 え、なんでイリーシャに直接聞かないのかって?



 わかってないな。おれはイリーシャと劇的な出会いがしたいんだ。

 本人に聞いたらサプライズになんねーだろうがよ。



 てなわけで、おれはさっそく行動に移した。

 昼食を配給してもらう際に、ユーウェイおばさんにそれとなくイリーシャの自宅を聞いてみたのだ。



「なんでイリーシャの住んでる場所なんか知りたいんだい?」



 ぜんぜんそれとなくなかったようだ。


 イリーシャという固有名詞を直接使ったのがまずかった。

 仕方ないので得意のジェスチャーを駆使しつつ、



『自分は記憶喪失でここ以外の世界を知らない。憧れがあるので教えてほしい』



 といった趣旨の話を伝えた……つもりだ。

 もっとも、答えを聞く前に看守に連行されちまったんだけどな。


 しかたない。返答は次の休憩時間にしよう。



「あたしの知る限りでいいなら教えてあげるよ」



 昼休憩になると、なんとおばさんのほうから声をかけてきた。



 こいつはありがてえ!


 とはいえ、いきなりイリーシャの話に持っていくとまた不思議がられる。

 まずはおばさんの身の上から聞いていこう。





 ……実に有意義な話が聞けた。


 おれは独房に戻るとユーウェイおばさんとの会話の内容をおさらいする。



 どうやらおばさんたちは教会の人間のようだ。

 いわゆるシスターってやつだ。



 しかも驚くことにほぼボランティアも同然とのことだ。

 奴隷にも神のご慈悲は平等に与えられるべきという信念のもとにやっているのだという。

 おれにはちょっと理解できない感覚だが、否定する気にはなれない。



 ユーウェイおばさんは違うが、ここに来ているシスターたちの多くは元孤児だという。

 イリーシャも元孤児だ。

 教会の神父が身よりのない子供たちを引き取って育てているらしい。



 シスターたちはきっと、一歩間違えたら奴隷になっていたかもしれない立場だったのだろうな。

 そういった事情が、彼女たちが奴隷を献身的に世話する理由のひとつになっているのかもしれない。



 シスターたちは元孤児が多いので、当然だが自宅はない。

 教会の近くにあるシスター寮に寝泊まりしているらしい。



 こんだけ聞けりゃ充分。

 つーことでここで話を打ち切った。


 あんまり長居させるとおばさんに迷惑がかかっちまうからな。





 夜が更けると、おれはふたたび牢を抜け出した。

 砂の中に隠してあったマントを装備し、盗賊からもらった匂い袋の中身を全身にぶっかける。



 こいつをかぶるとあまりの臭さにスナザメが食おうとしないらしい。

 おれにはフローラルな香りに思えるんだけどな。

 何はともあれ、便利なアイテムもあるもんだ。盗賊に感謝。





 ――――さて、行くとするかな。



 いざふたたび、ウォースバイトの夜街へ――――

考えもなしに行動してはいけない

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