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協定



「まさか全権を渡してくれるとは思わなかった。サンキュー、オーネリアス」



 おれはアマゾネスの指揮権譲渡の約束を取りつけると、オーネリアスと固い握手をかわした。



「世界の一大事とあらば……いや、おまえの頼みとあらば協力するのはやぶさかではない。我が軍の兵を頼んだぞ」



 すまねえオーネリアス。

 今度の戦は大規模で、どうやったって戦死者は避けられねえ。

 あんたのかわいい兵士を死地に送ることになるかもしれんが許してくれ。



「今日のおまえはやけに神妙な面構えをしてるな」


「なに、ちょいと人命を預かることの重みを感じてるだけさ」


「自覚があるなら安心だ。私の命もおまえに預けよう」



 どうも今回の作戦にはオーネリアス本人も参加する気らしい。

 王自ら出陣するなんてやめろっていっても聞きゃしねえんだこれが。



「おまえだって前線で戦って上にブーブー文句をいってるほうが気が楽だろ?」


「まあ、そのとおりだけどよ……」


「今回は私がその立場だ。どうだうらやましいだろう?」



 ははっ、まあな。


 もっとも現地で鉄蜘蛛の大群をみたら、そうもいってられんかもしれねえぞ。



「嫌になったら、いつでも泣きついてきていいぞ」


「ぬかせ。おまえこそ途中で指揮権を放り出して敵陣に切り込みに行くなよ」


「ああ。それはやるかもしれんわ」


「おい!」



 総司令をやるっつったけど、最後まで後方待機するなんていってない。

 おれが出て行ったほうが勝率が上がるなら迷わずそうするね。



「ガキかおまえは! 今回ぐらいはおとなしくしとけ!」


「いっつも陣頭指揮をとってるおまえにだきゃいわれたくねーよ! そっちこそおとなしく本国で吉報を待っとけや!」



 悪いけどおれは、もう少し子供でいてえのさ。

 どのみちおれは軍事の素人。具体的な指揮は副官に任せる予定だし、途中でおれが抜けてもそこまで大事はねえから心配すんな。



「人の気も知らんで……もういい、好きにしろ。代わりに私も好きにさせてもらう」



 いや、おまえはおれのいうこと聞けよ。

 この作戦に限っていえば、おれはおまえの上官なんだからさ。



 ……まあいいや。


 とりあえずこれでおれのほうは準備完了。

 次はソルティア――あんたの番だぜ。



「あーちょっと待っておれぇ。すーはーすーはーっ」



 ソルティアは、さっきからプカプカと浮かせていた風船を持ってその口を開けると、深呼吸するように中身を吸い込んだ。



「なあゴルドバ、あれは何をやってるんだ?」


「変声ガスで声の質を変えている」



 ……なんでそんなことを。



「よし準備完了。さあ行くぞリョウ!」



 お、おう……。


 おれはやけにご機嫌なソルティアと一緒に、演説用にあらかじめ用意しておいたステージへと向かった。







 ステージ前は、オーネリアスを侵攻していた魔族の軍勢でひしめきあっていた。



 こいつらはイドグレスにいた非戦闘員たちとは違う。

 聖地奪回のために選抜された正真正銘の精鋭だ。



 その実力は、圧倒的に不利な状況下であるにも関わらず、今なおこうして健在であるという事実が物語っている。

 ロギアが有能だったらオーネリアスは、たぶん3ヶ月持たなかっただろう。

 仲間に引き入れることができれば、このうえなく頼れる大戦力だ。



「勇猛なるエルナの戦士の諸君!」



 台上にあがるとソルティアはいきなり大声をはりあげた。

 小型マイクを使っているおかげでその声はすべての魔族に届いていることだろう。

 にしてもめっちゃいい声だなおい。変声ガスすげえ。



「今、我らの第二の故郷であるイドグレスは破滅の危機に陥っている!」



 おれが投影装置を起動させると、スパイダの大群に包囲されたレギンフィアの様子が克明に映し出される。

 これには屈強のエルナ兵たちも激しく動揺した。



「かつて我らが滅した機人どもが甦り、我らに反抗してきたのだ。これ以上奴らの好きにさせてはならないッ! あの大陸が誰のものか、ふたたびその身に


教えてやらねばならない!

 諸君らに問う! イドグレス大陸は誰のものだ!?」



 ソルティア!

 ソルティア!

 ソルティア!

 ソルティア!



「そう、あの大陸は私のものだ! 私たちエルナのものだ! 機人どもにくれてやるものなど地べたの石ころひとつとしてない!

 立ち上がれ我がしもべたちよ! 機人をひとつ残らず元の鉄クズに戻し、我らの大地を取り戻すのだッ!」




 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!




 おお、ものすげえ歓声だなおいッ!



 はぁ……あんな女でも魔族からは結構慕われてるんだなぁ。



「なお今回の作戦は人間たちと合同で行う。ゴルドバとの合議の結果、我らが友人であるマサキ・リョウを総司令とすることに決定した」




 シィィ~~ン。




 そしておれは、まったく慕われてねえようだ。

 当たり前の話だが、こうも静まりかえるとちょっと気分が重いぜ。

 石が飛んでこないだけマシと思おう。



「人類軍の総司令を任されたマサキ・リョウだ。あんたらからすりゃただの人間。とてもじゃねえけど従えねえって気持ちは理解できる」



 だから――――あんたたちは、おれに従う必要はねえ。



「代わりにこの御方に従ってくれッ!」



 おれは竜鱗の剣を引き抜き高々と掲げた。


 こいつがシグルスさんの鱗からできてるってことは見る奴が見ればわかる。

 魔王軍の精鋭なら、おれがこの剣を持つ意味がわかるはずだ。



「シグルスさまは今、機人の神と戦っている。もちろん勝つが、横槍を入れる奴は許せない。蜘蛛どもが大陸を渡ることをおれは許さない。そのためにてめ


えら、おれに力を貸してくれ!!」



 ……まあ、自己紹介はこんなもんでいいだろ。

 長ったらしい話はみんな嫌いだしな。



 こいつらがおれのいうことを素直に聞くなんて思っちゃいねえが、それならそれでやりようはある。

 とりあえず今回は顔見せだけ。

 後は人気者のソルティアに任せよう。



「機人は我らの共通の敵! 納得のいかぬ者もいるだろうが、今は共に手を取り合って戦うでち……ッ!」



 あ、変声ガスの効果が切れた。



「い、以上でち! 本日はこれにて解散! 解散!」



 ソルティアは大慌てで台上を降りると、逃げるようにその場から立ち去った。







「危うくあたちの高貴なイメージが崩れるところらったや」



 ……美の女神さまも色々と大変なんだな。



「ゴルドバぁ、水持ってきて水ぅ」


「自分で持ってこい」



 ま、まあ……何はともあれ、これでイドグレス侵攻の目処は立ったな。




 それにしても、あれだけいがみあっていた人類が一丸となって敵と戦うなんて……ふふっ、ちょっと胸が熱くなるじゃねえか。



 とはいえ、これはあくまで一時的な協定もの

 いつかはこの状態を日常のものへと変えてみせるぜ。

連合軍結成

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