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エルメドラ


「……まさか、ウォースバイト城の地下にこんなもんがあるとはな」



 城の外観にまったく不釣り合いなエレベーターに乗って、おれたちは『切り札』の眠る地下研究室へとやってきた。



「こいつが例の勇者製造機――『エルメドラ』か」



 研究室の奥にあるものは巨大な樹木のような機械だった。


 まるで本物の樹木であるかのようにカモフラージュされているが、近くでよく見りゃすべてが無機化合質で造られているってことがわかる。

 天然志向のゴルドバらしくないが、有機物で造っちゃ物持ちが悪そうだしこればかりはしゃーないか。



「まさか私の存命中に、またこれを使う日が来るとは思いませんでした」


「私もできれば使わずに済ませたかったのだがしかたない。これが最後だからな」



 ――……最後、ねえ。



 そうだな。

 勝つにせよ負けるにせよこれが神々との最後の決戦になるだろうな。


 もちろん勝つけどな。



「このエルメドラは、世界に魔力メドラを循環させている、この星そのものといって過言ではない装置だ。だから大事のないようウォースバイト家によって厳重に管理させているのだ」


「なあゴルドバ、こいつを使ってどうやってスパイダどもに対抗するんだ?」



 おれの疑問にゴルドバは薄笑みを浮かべて答える。



「このエルメドラのメドラ濃度を一時的に倍にする」



 なるほど、魔法は自身のメドラと大気中のメドラを混ぜ合わせて放つ。

 大気中のメドラ濃度があがれば魔法の性能もアップするという寸法か。



 つまり戦力も倍になる……ってそんな単純な話じゃねえか。



 でも、戦力が増強されるのは間違いねえだろ。

 なかなかイケてる作戦じゃん。



「もちろんそれだけじゃない。こいつを利用して疑似勇者を量産することで、戦力の大幅な増強を計るつもりだ」



 ゴルドバがいうにはこの装置を使ってメドラを直接体内に注入することで、一時的に田中の光の紋章みたいなのを生み出すとのこと。

 おお、すげーじゃん!



 ちなみにウォーレン兵が戦争の際にバカ強いのはこれが理由だってさ。

 世界にとって極めて重要な装置を管理させてるんだ。侵略国に負けるわけにゃいかねえもんな。

 結果、軍事大国になるのも必然か。



「ふふっ……まかしときな。おれさまがこいつで勇者になって、あの蜘蛛どもをギッタンバッタンのしてやるからよ」


「あ、これおまえには効果ないから」




 ええ――――――――ッ!!!




「な、なんで?」


「おまえは肉体、魂共に魔法適正ゼロだから。それを使っても魔力中毒で死ぬだけだ」



 そ……そんなぁ……ッ!



「肉体改造してもダメか?」


「たき火程度の火ぐらいは起こせるかもしれん。それすら期待薄だが」



 だったらいらねえよッ!



 ああ知ってたよ! おれは魔法とは無縁な人間だってことぐらいなぁ!

 ちょっといってみただけだよ! くそったれ!!



「当然ながら、この作戦はエルメドラに多大な負担をかけることになる。機械の寿命を縮めることを私は好まない。よって短期決戦で行くぞ」


「その装置が使えないってことは……もしかしておれ、ただのお荷物か?」


「いや、おまえには今作戦の総司令官を任せたい」



 ま……またかよォ。

 もう後方待機はお腹いっぱい。柄じゃねえんだよなぁ。



「こいつはおれのけじめだ。最前線で戦わせろよ」


「それこそただのお荷物だ。わがままを抜かせる状況ではないぞ」



 むむむ……そういわれると返す言葉がねえ……。



「全人類の命運をおまえに託すといってるんだ。適任者はすべての事情を知るおまえ以外にいない」


「だがおれが総司令といわれても納得しねえ奴も多いだろ。ウォーレンのほうが適任じゃないかな」



 おれが視線を向けると、ウォーレンは顔をまっ赤にして首を振る。



「妾がリョウさまをさしおいて指令官などおこがましい!」



 ……。


 ……さま?



「妾はただ名を継いだだけ。神に直接認められた真の王であるリョウさまこそが、人類軍を率いるのにもっともふさわしいといえるでしょう」



 お、おいおい……。


 いつの間にか言葉遣いも気持ち悪いことになってるじゃねえか。

 ちょっと見ねえうちに……いったいこいつの身に何が起きたんだ?



「特に何も。ただ気づいてしまっただけです。リョウさまこそ世界の救世主。エルメドラ全土を統べる真の王だという事実に」



 ……決めた。


 隷属の首輪・改は廃棄処分にしよう。



「私も想いは同じだ」



 ゴルドバ、おまえもかい。



「おまえがこの世界に来たのはきっと運命だ。私は神など信じていなかったが、今はおまえが神の遣いように思えてならんのだ」



 ――おこがましくも神を気取る我らを罰するためのな。



 そういってゴルドバは天を仰いだ。



「驚いたな。てめえにもいちおう良識ってもんがあったんだな」


「いちおうは余計だ。だがおまえに殴られなければ気づけなかったかもしれん。痛みが私がただの人であるという事実を教えてくれたのだ」



 殴られもせずに大人になった奴があるかぁ――ってか?



 ははっ、ガンダムはいつだっておれたちに人生の教訓を与えてくれるな!



 大人になることが必ずしも正しいこととは限らねえが、人は経験を積まなきゃならねえっていうのには同意できる。

 おれもいつまでも自由気ままな風来坊ってわけにゃいかねえか。



「いいぜ。司令官の件は引き受けた」



 引き受けた以上はかならず勝つ。

 どんな手段を用いようが。誰をどれだけ犠牲にしようがな。



「ウォーレン、兵を挙げろ! これよりイドグレスにて最後の決戦に赴く!」



再びイドグレスへ

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