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ゼノギア

 悪夢の一夜がようやく明けた。



 今、おれたちはソルティアの所有するスフィアにいる。



 スパイダの大群にビビッたソルティアがゲートを開けたので、みんなでお邪魔させてもらったのだ。



 生き残ったエルナや兵士たちもできる限り回収したが……全員は無理だった。

 回収できなかった連中には自力で生き残ってもらうしかねえ。

 空軍の総司令としちゃ情けねえことこのうえねえ話だ。

 ここが日本だったら切腹モンだわ。



「おれが甘かったか」



 オルド遺跡はもっと徹底的に破壊するべきだった。

 なのに歴史的価値があると思って手心を加えてしまった。

 おれがいなけりゃ遺跡に何の関心もなかったアーデルなら、完全破壊という選択をとってたかもしれねえ。



 まあ結果論だけどな。



 ちっ……なんか、らしくねえ後悔ばっかしてんな。



 とはいえ、今回ばかりはどうしていいのかわかんねえぞこれ。





 スフィア内部のコントロールルームにて、おれは己の無力さを噛みしめながら地上の戦況を見守っていた。





 レギンフィアを襲っていたエルセクトはすでにいない。

 ロイヤルズたちが追い払ったのだ。



 だが――ただ追い払っただけで、決して倒したわけではない。



 エルセクトはオルドに逃げ帰ったみてえだが、スパイダの大群は健在。

 レギンフィアの包囲網は今なお継続中だ。



 リグネイア軍の次は機械軍団か、アーデルたちも気の休まる時間がねえな。



「ゴルドバ、この戦況をどう見る?」



 作戦参謀に任命したゴルドバは、地上を映し出すスクリーンから目をそらさない。



「以前話した通り、万の大群をもってすればロイヤルズの突破は可能とみている」



 背筋に冷たいものが走った。



 確かに今はそこまで蜘蛛の数は多くない。

 だがエルセクトがオルドでスパイダを量産し続ける以上、いずれは万の大群となってレギンフィアを飲み込むことだろう。



「……ロイヤルズは怒るだろうが、ここはシグルスさんに助力を願うしかねえか」


「残念だが、それは無理だろう」


「なぜだ?」


「理由はこれを見ればわかる」



 レギンフィアを映していたスクリーンが後ろに引っ込み、もう一方の風景がピックアップされる。

 どうやらゴルドバが食い入るように見ていたのはこっちのようだ。



 映し出された景色からは、そこがエルメドラのどこかはわからなかった。



 なぜなら辺り一面、見るも無惨な焦土と化していたからだ。



 これは……シグルスさんがやったのか?



「無益な破壊を好まないあのひとが何故?」


「シグルスの視線を先をよく見てみろ」



 視線の先?



 ――……誰かいるッ!



 豆粒みてえに小さくてよくわかんなかったけど確かに人影が見える。

 つうかよく見えてるなゴルドバ。

 意外に目がいいんだな。



「ズームしてみよう」



 シグルスさんを映していたスクリーンが今度は人影のほうに切り替わる。



 こうしてズームされてみるとよくわかる。

 その人影が本物の人ではないってことが。



 厳つい鎧のようなその体――――デンゼルと同じ機人だ。



 ただ、みすぼらしい神父の格好をしていたデンゼルとは明らかに身分が違う。



 きらびやかな装飾が施された服。

 風にたなびく美しい蒼色のマント。

 そして何より注視すべきは、頭を飾る王冠の存在だ。



 まさかと思うが、ゴルドバ……こ、こいつは……ッ!



「 <機神> ゼノギア。なぜ奴がこんな場所にいる」




 ――――ゼノギアッッッ!!!




 敵の総大将が地上を盗りに降りてきたっつうのか!!?



「おい! ゼノギアは地上には降りてこれないって話じゃなかったのかよ!!」


「そうだ。あれには創造主である陽介により厳重なセーフティロックがかかっていて行動に大きな制限がある」



 ゼノギアが地上に降りたのはただ一度。

 星取りゲームを開始するために、他神の同伴があった時だけだと聞いている。

 単独での行動は不可能で、それ故に地上侵略はデンゼルたち機械兵に任せていたはずだ。



「デンゼルがロックを解除したのか?」


「そのデンゼル――陽介の元助手だったか? そいつがどれほどの実力を持っているかは知らんが、そんな起用なことができるならとっくの昔にやってると思うがね」



 私には何が起きてるのかまるでわからんよ。

 ゴルドバは首をかしげながらいった。



「……まいったな、予定が狂いまくっているぞ」



 ロボット三原則に従い『人間には手を出せない』という弱点をついて、おれがスフィアに乗り込んでゼノギアを倒すというのが当初の計画だったわけだが、どうやらこの計画は大幅に変更せざるをえないようだ。



「いや、逆に手間が省けたと喜ぶべきかもしれん。あんなガラクタ、シグルスさんなら楽勝だろうしな」


「何も知らん奴は楽観的で実にうらやましい。あれは狂気の天才科学者、赤川陽介の最高傑作のひとつだ。もしセーフティが完全に解除されていたとしたら、この世の誰も勝てはしない」



 マ……マジかよ。


 いわれてみれば確かに、周囲が焦土になるほどの攻撃を浴びせているにも関わらず、ゼノギアの服に汚れひとつもねえじゃねえか。



 あのシグルスさんが……エルナの王――いや、エルメドラの真の神が負ける?



 んなわきゃねえだろッ! おれはぜってー信じねえっ!!



「これ以上、脳天気に観戦していてもしかたない。時間の無駄だ」



 ゴルドバはため息をつくとスクリーンを戻す。



「ここであれが負けるようならエルメドラはお終いだ。シグルスにはなんとか勝ってもらうしかない」


「そうだ! シグルスさんが負けるわけがねえ!」


「私がいいたいのはつまり、立場が逆だということだ」



 えっ、どういう意味?



 ……あっ、そういうことか。



「シグルスさんに助けを求めるんじゃなくて、おれたちがシグルスさんをバックアップしなきゃならんのか」


「そうだ。このイドグレス大陸でスパイダの侵攻を止めるのは我々の役目だ」



 今シグルスさんは世界の命運をかけた大一番に挑んでいる。

 そこに横やりなんぞ入れられたらどっちらけだ。

 あそこがどこだかわかんねえけど、イドグレスが墜ちれば蜘蛛どもが主を助けに行くのは自明の理。

 そんなことは絶対させねえぜ。



「……とはいえ、おれたちだけでどうすんだよこの蜘蛛の大群」


「まずはこのような事態に陥った原因を究明したいな。イドグレスが完全復活した瞬間に動き出したということは、おそらく魔王に何かがあるのだろうが……」



 ゴルドバが、退屈そうに隣で仙豆を食っているソルティアに視線を送る。



「あたちが知るわけないらぁ」



 ダメだこりゃ。

 世界がこんな有り様だっつうのにやる気ゼロだわ。



「この駄女神め、またぶん殴ってやろうか?」


「やめておけ。こいつには大陸外にいる魔王軍を指揮してもらわんと困るからな」



 ……だよな。


 こいつ、こんなんでもエルナの統率者だもんなぁ。

 スフィアにもお邪魔させてもらってるし感謝はすべきなんだろうな。一応。



「こうなりゃ総力戦しかねえか。おれもオーネリアスとウォースバイトに援軍を要請してみるわ」


「それだけでは足りんな。敵は非情の機械兵だぞ。平和ボケした近年の兵では厳しいものがある」



 じゃあどうすんだよ。

 お手上げじゃん。



「闇雲に行動するのは得策ではないが、今回ばかりはしかたない。原因究明は連中を制圧してからにするか」



 ゴルドバは勢いよく立ち上がると、コントロールルームの制御マシンを操作する。

 どうやらウォースバイトに連絡を取っているようだ。




「聞こえるかウォーレン。『エルメドラ』を使うぞッ!」


切り札投入

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