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終わりの始まり


 ロンデリオン病院に入院していた田中は、面会に来たおれの顔を見るなり鬼のような形相で食ってかかってきた。



「あんな怪物が相手なんて聞いてなかったよォッ!!!」



 いや、ちゃんといった。

 めっちゃくちゃきちんと説明した。



 なんだ、えらくカッコつけてたからずいぶん成長したかと思いきや、単に作戦の危険性を理解してなかっただけか。

 実におまえらしくて何よりだ。



「生きて帰ってこれて何よりだ」


「まったくだよ! あんなトンデモないのに人間が勝てるわけないし、自殺同然の作戦だったじゃないか!」


「おれは勝ったけどな」



 アーデルからもらった認証カードを田中に見せびらかす。



 ほらここを見ろ。アーデルの顔写真が入ってるだろ?

 頭の悪いおまえでも、こいつがロイヤルズから奪い取ったものだってことぐらいは理解できるだろ?


 実情はちょっとだけ違うんだけど、ここはだんまりだ。



「……リョウくんっていったい何者なの?」


「わざわざ名乗りをあげるまでもない。王だよ。この世界リアルのな」



 何はともあれ、おまえのおかげで作戦は成功だ。

 ご苦労だったな田中。無銭飲食の件の借りはこれでチャラにしてやる。



「ミチルもご苦労だったな」



 すでに元気いっぱいといった感じで日課のトレーニングをしているミチルにも、ねぎらいの言葉をかける。



「今回の戦闘で自分の未熟さを思い知った。次は絶対にこうはいかん」



 おまえはそれ以上強くなったら人類の枠を越えちまうからほどほどにしとけ。



「ところで幸子は?」


「さっちゃんなら恐怖で心が折れちゃって、今は精神病棟だよ」



 ……なんつーか、わりとマジでもうしわけない。



 回復したら埋め合わせをするから許してチョンマゲ。



「で、体調はどうなんだ?」


「体ならすでにほぼ全快だよ。明日には退院していいって」


「そうか。だったらミチルを見習って次の戦いの支度をしとけ」


「ま、まだあるのぉ!?」



 ああ、まだあるよ。

 神はもうひとりいるんだからな。



「僕はもういっぱいいっぱいで、そろそろギブアップしたいんだけど……」


「そうしてやりてえのはヤマヤマなんだが、たぶん無理だから諦めろ」



 最後の神、機神ゼノギア。


 シグルスさんの情報が確かなら、こいつはエルメドラ全人類の敵だ。

 遅かれ早かれ戦わざるをえない事態になるだろう。


 おまえにゃ勇者として、最後まで人類のために働いてもらわなきゃ困るんだよ。



 どうせやるならできる限り早いうちに、人類側から先手を打ちてえところだが……さあどうするかなぁ……。



「……一番事情に詳しそうな奴に聞いてみようかな」


「?」







 病院を出たおれはその足で、現在リグネイア陸軍が占拠する刑務所へと向かった。



「……彼女は、本当に女神ソルティアなのか?」



 刑務所の管理を任されていたマリィが、所長室に招いたおれにそう呟く。



「間違いなく本人だよ。ウソだと思うならノーティラスに確認をとってみるといい」



 あまりお勧めはしねえがな。

 あいつは、ああ見えて職務熱心な性格だからな。

 腐っても鯛。老いてなお高貴ロイヤルズってか。



「まあいい、調べればすぐわかることだ。それはひとまず置いておくとして、マジック指令が怒ってたぞ。『やるならやるって教えろ』とな」



 敵を欺くのはまず味方から。

 あんたらに伝えてたらたぶん完璧に作戦がバレてたよ。

 連中は脳筋のアホ揃いだがロイヤルズはそこまで甘くはない。

 事実おれはアーデルに見つかったしな。



「後で謝っとくよ。そんなことより早く面会手続きをしてくれ。義理であんたらに預けたが、本来こいつは空軍の手柄だ」


「すっかり空軍の総司令きどりだな。私たち陸軍がどれだけおまえを助けてやったと思ってるんだ」



 だからこうして陸軍に伝えてソルティアの身柄を預けてやってるんだろうが。

 いちいち恩着せがましいんだよこのクソ師匠が。



「おれがこんな役職やらされてるのも、元を正せばあんたら魔法騎兵隊がふがいないせいだろうが。アリンダさんを寝込ませた件は、おれも許しちゃいねえよ」



 リグネイアの全戦力は充分把握している。

 陸軍潰すなんざロイヤルズを相手するのに比べりゃ百倍楽な作業だ。

 イルヴェスサに代わって潰してやってもいいんだぜ。

 あんたも本業に専念できるし一石二鳥だろ。



「その件については私たちももうしわけなく思っている。女神の身柄もいずれおまえのところに戻す予定だ。手続きはこれでおわりだ、面会でもなんでも好きにしたまえ」



 おれはマリィに謝辞を述べると、ソルティアの監禁されている地下の独房へと向かった。





 独房のソルティアはおれの面を見ると、まるで獣のような形相でこちらをにらみつけてきた。

 脳みそお花畑なこのクソガキも、檻の中にぶち込まれたらさすがに状況を理解せざるをえなかったらしい。



「虜囚となったあたちを笑いにでもきたか?」





 あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!



 うはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっ!!



 ふへぇほほほほぐぇへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへへほへぇッ!!!





「あー笑った笑った。じゃあ帰るわ」


「ホントに笑いにきただけなのかぇ!」



 ちょっとした冗談だ。

 そうムキになんな。



「ちょっとおまえに聞き忘れたことがあってな」


「なんら。ゼノギアのスフィアのゲートなら知らんというただろう」


「デンゼルって名前に聞き覚えはねえか?」


「あるに決まっておる。アレはかつて父上の助手だった男ら」



 マジか。

 あいつはただの一兵卒で、こいつに聞くまでもないと思ってたが、やっぱ確認はしとくもんだな。



「このイドグレス大陸は元々ゼノギアのものだった。そこをおまえたちは、まっ先に潰したわけだが……親父さんの元助手なのにどうしてだ?」


「それも決まっておる。あいつの頭がイカれてるからや」



 イカれた女にイカれているといわれるとは相当なモンだな。



「あいつは機械こそが人間の上に立つのにふさわしい存在だと主張し、このエルメドラを機神ゼノギアの支配する機械生命の星に変えようともくろんでいるのら。これをまっ先に潰さずしてどうする!?」



 ふぅん……なるほどねえ。


 シグルスさんからもらった情報ともある程度合致するな。

 だったら信じてやってもいいか。



「思えば父上がおかしくなり始めたのも、あの男を助手にしてからや。あいつが何かおかしなことを吹き込んだに決まってるら」


「まあそれはどうでもいいが」


「よくない!」


「デンゼルなら、スフィアのゲートの位置とキーを知ってると思うか?」


「当然。あれの元々の持ち主はデンゼルらろ」



 ふっ。

 ふふっ。


 そうかそうか。

 そいつは僥倖だ。



 あいつはオルド遺跡ごとアーデルがぶっ飛ばしちまったが……探せば残骸ぐらいは残っているだろう。


 上手くいけば奴のメモリーからスフィアのキーをゲットできるかもしれん。

 サンキューソルティア、いい情報だったぜ。





「ソルティアさま、それは違いますヨ」





 ――――今、背後で聞き覚えのある電子音声が。





「影響を受けたのは、あくまでワタシのほうなのですヨ」





 そんな馬鹿なっ!

 あいつは確かにアーデルが破壊したはずッ!!





「人類が進歩すべきだというのなら、機械こそがまさにそのモノ」





 その神父服。

 その鉄仮面。


 認めたくねえが、見間違えようがねえっ!





「旧人類は『進歩した人類』である <機人> によって淘汰されるべきなのデス!」





 ――――デンゼル、てめえ生きてやがったのか!!!




最後の敵、現る

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