真相 その2
ゴルドバがいた地球の日本には、ひとりの天才科学者がいた。
その名は赤川陽介。
人工惑星 <スフィア> の開発者でありソルティアこと赤川陽子の父親。
そしてゴルドバこと梧桐闘馬の上司だったそうな。
ゴルドバがいうにはこの陽介という男、かなりの完璧超人だったらしい。
頭脳明晰スポーツ万能。トークも上手くて女の子にもモテモテだったそうな。
まるでおれみてえな男だな。
そんな男がある日、日本政府に対してこんな主張をしたそうな。
「人類は地球から自立すべきだ」と。
陽介曰く、人類は地球に甘えすぎている。
地球に止まり続けていてはこれ以上の進歩は望めない。
スフィアを新たな移住地として人類の可能性を模索しよう――とのことだ。
陽介の主張は、日本政府にあっさり却下された。
メディアを通じて訴えかけたりもしたが国民の賛同は得られなかったそうだ。
当たり前だ。
居心地のいい地球を出てあんな殺風景なスフィアに引き篭もれとかおれでも断るわ。本気でいってたらちょっと頭のほうを疑うね。
やれやれ、おれとは似ても似つかぬ変わった男だなあ。
とはいえ……それだけで終わっていたのなら、天才研究者の崇高すぎる思想で済まされていただろう。
だがこのマッドサイエンティストは、すでに正気を失っていたとゴルドバはいう。
にわかには信じられねえ話だが――――この男、スフィア建造のツテで入手した小惑星をあろうことか地球にぶち込んだらしい。
「……作り話だろ?」
「フィクションのようなノンフィクションだ。私も尽力したのだが惑星落下を食い止めることはできなかった。おかげで生き残ったわずかな人類は、スフィアでの生活を余儀なくされた。奴の計画通りにね」
つうかさ、その話どっかで聞いたことあるんだよな。
ていうかそれ、ガンダムだよね?
逆襲のシャアのパクリだよね?
やっぱフィクションじゃねえか!
「実は私もそれを連想した。だからアムロのパイロットスーツを着ていたわけだが」
あれ、コスプレだったのかよぉ!
つうかそいつを着るならせめて惑星落下を食い止めてからにしろよ。
ダセェ真似はよせ。
「もっとも私にはアムロほどの甲斐性はなく、陽介もシャアほど優しい男ではなかったがね。なんとか再生を試みたが……結局、地球は消滅したよ」
――あれは狂人だよ。正真正銘のな。
ゴルドバは頭に指をグリグリと押しつけながらいう。
はぁ……やっぱ年中研究漬けの非リアはダメだな。すぐに思考が極端に寄る。
「その陽介って奴はどうなったんだ?」
「私が始末した。アムロ役として最低限の責務は果たしたさ。そこの女はそれで私のことを恨んでいるわけだ」
ゴルドバが視線を向けるとソルティアがなぜか胸をはる。
「そう、あたちはかわいそうな女なのだ。これで正義はあたちにあるということがわかったろう?」
いやぜんぜん。
確かにおまえはちょっとかわいそうかもしれんが、親父さんは自業自得じゃないか。
「地球が消滅したってことは、やはりこのエルメドラは……」
「察しがいいな。おまえの予想通り、ここは私が開発した第二の地球だよ」
これでおれの推測は確定か。
さすがに地球が無くなってるとまでは思わなかったがな。
「第二の地球のわりには、えらくファンタジー風味じゃねえか」
「その辺は私の趣味だ。まったく同じものを造るのも芸があるまい?」
サブカルチャー大好き人間のゴルドバらしいな。
こいつもこいつで陽介のことをとやかくいえない変人だよなあ。
「いや実に苦労したよ。テラフォーミングによる環境整備はともかく、そこに住む住民だけはどうにもならんからな。自然生命が生まれるまで何千何億年と待ち続けるのもアホらしいし、ぜんぶ平行世界の地球から浚ってきたわ」
そっかーそいつは大変だったなぁ……っておい!
「てめえにゃ倫理ってモンがねえのかよッ!」
「ああ、エルメドラ建造当初の地球人類は猿同然の文明レベルだったから心配はいらんぞ。むしろ快適な生活環境を与えてやったことを感謝してもらいたいぐらいだ」
その後も定期的に続けてただろうが!
このマッドサイエンティストめ……やはり地に引きずり降ろして正解だったな。
「何はともあれ、第二の地球を生み出す『エルメドラ計画』は順調だったのだが……ようやく軌道に乗り始めた頃に現れたのが、あろうことか陽介の意志を継ぐなどとのたまうこの陽子だったわけだ」
「そうだ、父上は人類のさらなる進歩を望んでおったのら! ただの再生産などあたちが許さん!」
はぁ……なるほど、だいたい話が見えてきたわ。
要するにおれたちは、平行世界のクズ科学者どもの幼稚なケンカに巻き込まれたってわけか。
やれやれ、おれはともかく田中たちは災難だな。
「父上の開発した『エルナーガ』によって生まれたエルナこそ人類の進歩の極み!
このエルメドラはエルナによって支配されるべきなおら!
リョウよ、おまえもそう思わぬか?」
「ひとつ質問だが……なんでおまえ自身は、その進歩の極みとかいうエルナになってねえんだ?」
これは純粋な疑問だ。
こいつが魔族化してたら、おれもこう上手くコトを運べなかった。
なあ、なんでだ?
「なんれといわれても……アレはちょっとヌメヌメしてて気持ち悪くて……ほら、あたちは美の女神だし?」
……あっそう。
とてもシンプルな回答ありがとう。
納得はしたわ。納得はな。
「ゴルドバ。こいつ一発殴っていいか?」
「私の分も含めて二発にしろ」
おれは怒りの鉄拳を二発、女神さまの顔面にくれてやった。
ワンツーパンチは空手に限らず拳闘の基本よ。
「自分の体で実践もできねえ理念を他人に押しつけるんじゃねえ、ボケぇっ!」
「親父と同じくこいつもイカれてるんだよ。蛙の子はカエルってやつだな」
「てめえもこいつのことをとやかくいえねえよ。地球人類の代表としてもう一発ぶん殴ってやろうか?」
「もう改心したから勘弁してくれ。私たちは仲間なんだろう?」
ケッ、まあ今日のところは許してやるか。
おまえのおかげで田中たちも死なずに済んだわけだしな。
「とりあえず今日は、おまえら神どもの性根が腐りきっていることが再確認できた。今後はこのおれさまがいじめ――じゃなくて、教育してやるからな」
だから、てめえらはころさねえよ。
死んで楽になるより生きて償うほうが大変だからな。
一緒にこの世界をより良くして行こうぜ。
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