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ウォースバイトの夜

「……ようやく着いたか」



 いや、距離的にはそこまで遠くはないはずなのだが、スナザメに襲われたせいで疲労感がハンパない。

 だがなんとかたどり着けて良かったわ。



 ここがイリーシャたちの祖国、ウォースバイトか。



 看板の矢印に従ってきたけど……あってるよな?


 看守たちもよくその名前を口にしているし、王さまの名前もウォーレンだし、まず間違いないとは思うが。



 まあいいや、とりあえず城下町に入ろう。

 ひとまずどこかで休憩したいし。



 遠目から見るウォースバイトは、夜であるにも関わらずまばゆい光を放っていた。

 いざ近づいて見れば理由は明白。


 そこら辺ににたくさん釣り下げられているランプの存在だ。



 煌々と灯るこの火は灯油を燃やしているのか? それとも魔法が使われているのだろうか?



 よくわからん。

 とにかく、とても明るいってことだけは確かだ。



 でだ、夜中にも関わらずこんなにガンガン外を照らしているのはなんでかっていえば……理由はひとつしかないわな。



 城下町に入る前に、おれの足はピタリと止まった。

 砂漠のど真ん中とは思えないほどの喧騒が、おれの好奇心を刺激したからだ。



 店、店、店。

 どこを見ても行商人が出店を開いて商売をしてやがる。



 自由市だ。



 どうやらこのウォースバイト、かなり商業が盛んな町らしい。



 歩くだけでも商人たちから何か買ってくれと声をかけられまくるが、とうぜんながらぜんぶ断る。

 なぜならおれはこっちの金を持ってないから。



 でもまあ、見るだけならタダだろう。

 おれはいかにも買うようなフリをして色んな出店を見て回った。



 そりゃもうわんさかとあったよ。

 おそらく魔法道具と思われる怪しい道具の数々が。

 でも今のおれじゃ使い方すらわかんねえな。


 はぁ……どうにかして魔法の勉強ができねえもんかねぇ。 



 いやいや、グチるのはリア王であるおれらしくない。

 だいたい目的をはき違えてはならない。

 今日はイリーシャの家を見つけるためにきたのだ。



 いつまでもこんな場所で脂を売っているわけにはいかない。

 おれは後ろ髪を引かれる思いで自由市をあとにした。





 城下町に入っても喧騒はやまなかった。

 当然ながらこっちにもたくさんの店があって、たくさんの人が行き来していたからだ。



 こういう活気のある町は正直助かる。

 おれみたいな不審者が来ても誰も気にしないしな。



 それにしても……奴隷なんぞ使っているから、さぞやろくでもない国だろうと思ってたら、なかなかどうして富にあふれたいい国じゃないか。



 いや逆か。奴隷をこき使ってこの繁栄を維持してるんだ。



 光あるところにはかならず闇があるものですなあ。

 そらどんだけたくさん勇者が現れようが魔王はいなくなりませんわ。

 いなけりゃいないで作るだろうしな。

 敵対国の国王はみんな魔王。世の中そんなもんさ。



 てなことを考えていると、おれも客引きに引っかかった。

 まるで下着みたいな格好をした年上のお姉さんだった。

 どうやら風俗嬢らしい。



 正直タイプじゃないので断る。

 金がないのでタイプでも断るが。


 代わりにイリーシャという名前の少女を知っていないか聞いてみる。

 あれほどの美少女なら風俗の目に留まっているのではないかと思ったのだ。



 しかし風俗嬢は首を横に振る。

 当たり前か。天使が風俗に関わるわけがない。我ながらアホなことを聞いた。



 とはいえ、こんな感じで聞き込みを続けていかなければイリーシャの居場所は掴めないんだよなあ。

 おれはこのバカ広い城下町を一望しながら大きなため息をついた。



 いやいや、何ため息ついてんだよ。ため息はリア王のおれにふさわしくないぞ。

 運命に選ばれたおれさまが人ひとり探し出せないはずがない。


 おっし、気合い入れてがんばるぞ!





 ……ここもダメか。



 情報の集まる酒場ならばと思い行ってみたが、結局だれもイリーシャのことを知らなかった。

 つうか無銭なのがバレて途中で追い出された。



 ……聞き込みの仕方に問題があるとはわかってるんだ。

 何しろ写真のひとつもないもんな。



 写真自体はあるんだよ。ヴァンダルさんが家族の写真を持ってたし。

 魔法かカメラかは知らないけど、とにかくある。

 もっとも奴隷のおれがそいつを手に入れるのは不可能だけどな。



 でもさ、奴隷の世話役なんてけっこう目立つ仕事じゃなんじゃねえの?

 キャラバンで毎日ウォースバイトと石切り場を行き来してるんだぜ?

 しかもあれだけの美貌だ。だれかひとりぐらい名前を知っててもおかしくないんじゃねえの?



 実はおれと異世界の人間とじゃ美の基準が違う?

 んなわけねーよな。ロビンのカスを筆頭にみんなイリーシャに色目を使ってるもんな!



 てなわけで、もうちょっと粘ってみるか。

 おれは行き交う通行人相手に聞き込みを続けることに決めた。





「ああ、彼女のことなら知ってますよ」



 ――ビンゴ!



 思ったとおり、探し人はすぐに見つかった。

 いかにも人の良さそうな鼻の曲がったじいさんがイリーシャの名前に反応を示したのだ。



「彼女とは知り合いだよ。家を教えてあげるからついてきなさい」



 おお、マジか! すっげー助かる!



 あー良かった。一時はどうなるかと思ったが脱獄早々あっさり見つかるとは。

 やっぱおれは運命に選ばれた英雄なんだなあ。



 ぶっちゃけさ、ウォーレンとかいう王さまが死んだのっておれのためだよね?



 だってピラミッド造りがなかったらおれは今、ここにいなかったわけだからさ。



 実際は生前から計画を立ててただろうけど、死期を悟っていたのは間違いない。

 それに併せておれが異世界に来たってことは、つまりそういうことだろ?



 うっはっは。さすがは神さま、イキなことをしてくれる。

 勇者にはなんねーけど気が向いたら世界は救ってやるよ。



 ……じいさん。なんだか、どんどん人気のないところに向かっていくな。



 最初は住宅区域なら人通りが少なくて当然かなって思ってたけど、どう見たってここはそうじゃない。



 なぁ~んか、ちょいとばっかし嫌な予感がしてきたぞぉ。



「有り金ぜんぶ出しな」



 と思ったら案の定、ただの盗賊だった。

 おれは騙されてのこのこと盗賊グループの巣窟に連れ込まれてしまったわけだ。




 ……敵は五人か。


 リーダーだと思われる目の前の鼻曲がりじいさん。中年の男が三名。若くてケバい女が一名。もちろん全員ナイフで武装している。



 ちょっと考えてみたけど、ケンカしてもまず勝ち目はないだろうな。

 神さま、不思議な力の覚醒はまだですか?



 しゃーない。ホールドアップだ。

 おれは両手をあげて逆らう気がないことをアピールした。

 こういうのが通じることをおれはそこそこ長い奴隷生活で承知している。



 盗賊たちは意気揚々とおれに近づき、金目のものがないかどうか調べる。



「お頭! こいつ1ルピも持ってません!」



 当然だが、あるわけがない。

 持たざるモノはこういうときは無敵なのだ!



 おれの無銭を怪しがる盗賊たちに、おれは自分の身の上話をした。



 別の世界から来たといっても信用しないだろうから記憶喪失ってことにして、それ以外はだいたい真実を語った。



「そっか。おまえも大変だったんだな」



 むっちゃ同情された。

 余計なお世話だ。



 なんか逆に金銭とか役に立つ道具とか色々もらっちゃったけど……おれ、そんなに同情されるような立場かなあ。



 つうかおめーら盗賊だろ! 奴隷のおれとたいした差はねーだろうが!

 いや、もらえるものはもらうけどなっ! ありがとう!

奴隷。それは社会の最底辺

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