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レギンフィア

 ゴルドバの予測する魔王イドグレス完全復活。

 その十日前に、おれたちは魔王城潜入作戦を開始した。



 この作戦は完全なる極秘であり陸軍はおろか所属している空軍にすら伝えていない。

 伝えたら止められちゃうからね。



 作戦内容はいたってシンプル。

 田中たちが正面からレギンフィアに突入して大暴れ。鎮圧のために城から出てきたロイヤルズを足止めする。

 背後からがら空きになった城内におれが侵入するという寸法だ。



 軍は動かさない。

 多大な犠牲が出るということもあるが、軍相手なら伏兵を警戒されるからだ。

 あくまで勇者きどりの冒険者を装う必要がある。

 しかし侵入者があまりに弱いと連中は出てこないから、そこは田中たちの頑張り次第だ。

 最低一人、できれば全員、城から出してくれるとおれも侵入しやすい。



 ワイツ等の通信手段も使わない。

 魔法は電波同様、傍受が容易だからだ。

 よって作戦行動は現場の判断に一任する。

 ゴルドバならどうにかしてくるだろう。

 あれでも神さまだしな。



 おれの命に関しての考慮はしない。

 イルヴェスサにはぶん殴られるかもしれんが、こればっかりは譲れない。



 この戦争は圧勝で終わったため、敵味方共に犠牲は少ない。

 だがそれでも犠牲者は出ているのだ。

 そいつらはおれがころしたも同然だ。

 おれが命をかけずして死んでいったやつらが納得するはずがねえ。

 誰よりおれが納得しねえ。




 現在いま――――目前に広がる無惨な光景も、そんなおれの罪の一部だ。




 レギンフィアの後背部には、兵士の死体と共に、すでに鉄くずと化した飛空艇がゴロゴロと転がっていた。



 空よりレギンフィアに侵入しようとして撃ち落とされたのだ。

 首都の対空は万全だから絶対に近づくなと全軍に通達してあったにも関わらずにこの惨状。指揮の難しさというものを改めて思い知らされる。



 どれだけ言葉を尽くしても、他人は決して思い通りには動いてくれない。

 おれは空軍ではただの「お客さま」だったということだ。



 まあ、過ぎたことをいつまでも悔いてもしかたねえ。

 あんたらの命も背負っておれは往くぜ。

 生き残ったら墓前に花のひとつぐらい添えるわ。



「さて、どう登るかな」



 レギンフィアの後背部は思っていた以上に険しい。

 切り立った崖が幾度も立ち塞がるまさに道なき道だ。

 しかもかなり高い。

 地図で見ただけでは実感がわかなかったが、これはそうとう骨が折れるぞ。



「……とりあえず行くか」



 ここで悩んでいても始まらない。

 まずは登ってみて、後のことはそのとき考えよう。







「つ……疲れた……」



 山の中腹でおれは休憩をはさむ。

 持ってきた水筒で水分を補給しながら田中たちに思いを馳せる。



 今頃あいつらは、ロイヤルズと戦っているはずだ。



 残念ながら我らのパーティはロイヤルズと戦えるレベルにまで到達していない。

 よってロイヤルズが出てきた場合、頃合いを見て撤退する必要がある。

 問題はどれだけ持つかという一点に尽きる。



 ロイヤルズが来たら防御に徹して時間を稼ぐよう伝えてあるが、あのマジックさんでさえ5分持つかどうかという恐るべき相手だ。

 正直、あまり長時間の囮役を期待するのは酷というものだ。



 だが、一度出張ってくれば、山を往復するだけでも相当な時間が稼げるはずだ。

 おれが魔王城に侵入するのに十分なだけのな。



 ――そのとき、おれのワイツが振動バイブした。



 先ほど通信手段は使わないといったが、それは相手に傍受されるからだ。

 逆にいえば傍受されても問題ない方法なら遠慮なしに使える。



 ワイツのバイブは二度で止まった。

 振動一度につき一体という取り決めだったから、二体のロイヤルがおびき寄せられたということになる。



「上出来だ!」



 どれだけ言葉を尽くしても、他人は決して思い通りには動いてくれない。

 おれは空軍ではただのお客さまだった。



 だがあいつらは違う。



 おれの意志を汲み取り、想いにしっかりと応えてくれる『仲間』だ。

 だからおれは、田中たちを頼ったんだよ。



「こうしちゃいられねえ!」



 田中たちは結果を出した。

 次はおれが応える番だ。



 おれはすぐに立ち上がり、ロッククライミングを再開した。




 岩肌のわずかなとっかかりに指をかけて、おれは常人では不可能な崖をガシガシ登っていく。



 ロイヤルズが出陣してきた以上ぐずぐずしてはいられない。

 さっさと登り切って城に潜り込まねえとな。



 急げ! 急げ! 急げ! 急――――……あっ。



 さっきまで掴んでいた岩肌のとっかかりが、急いだせいで剥がれてしまった。


 自重を支えていた場所がなくなるってことは……つまり――――ッ!



「おわあああああああああああああああああああああああああああっ!!!」




 おっ、おっ、落っこちるぅ~~~~~~~~~~~~ッ!!



 ――――ガシッ!



 バランスを崩してまっ逆さまに転落しそうになったおれの腕を、誰かが掴んだ。

 そしてそのまま、ものすごい力で引っ張り上げてくれる。



「不注意だぞ。気をつけろ」


「悪ぃ。助かったわ」



 今のはマジでヤバかった。

 こいつが引っ張りあげてくれなかったら死んでたかもしれん。



 こいつが…………って、



「なに礼は不要だ」



 陽光を受けて輝く、その美しい銀色の鱗。

 見る者すべてを萎縮させる、その鋭い眼差し。



 お、お、お、お、お、お、おまえは――――――――ッ!!!



「どのみちすぐ死ぬ」



 アーデル・ロイヤルッ!!!!


再会

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