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集結


 おれは今、ロンデリオンで一番の最高級宿に泊まっている。

 宿なんてどうでもいいと思っているが、さすがに空軍のトップがセキュリティの薄い安宿に泊まるわけにはいかねえからな。


 それに、今回に限っていえば室内が広くて壁が厚いという条件は助かる。

 田中たちを集めて密談するのにはもってこいだからだ。



「ではこれよりレギンフィア突入作戦の概要を説明する」



 おれは田中たち四人を椅子に座らせテーブルの上に地図を広げた。



「……が、その前にひとつ聞きたいことがある」



 田中。

 ミチル。

 ゴルドバ。



 この三人は見知った顔だからいい。

 問題は残りの一人だ。



「あんた誰?」



 田中の隣りの席にちょこんと座る瓶底メガネの三つ編み女。

 どうも田中の仲間らしいが……戦力になるのこいつ?



「リョウくん、クラスメイト相手にそれはひどいよ」



 ク、クラスメイト……!?



 こ……こんな奴、いたっけか?



 ていうか高校時代のクラスメイトの顔のほとんどが思いだせんッ!


 エルメドラに着てから知り合った連中の顔はだいたい覚えてるんだがなぁ。

 どうでもいい情報だったから脳の奥にしまい込まれてしまったようだ。



石田幸子いしださちこです。ひさしぶりリョウくん」


「僕と同じゲーム制作部の部員だっただよ。愛称は『さっちゃん』。そろそろ思い出してきた?」



 ああ、それで思い出した。

 おまえとつるんでいた仲間の内にさえない顔をしたメガネ猿がいた気がするわ。

 粛正対象からは外してたんで思い出せないのも無理はない。

 しかしまあ、田中にお似合いの不細工だなおい。



 いや……まだ不細工と決めつけるのは早いか。

 この手の地味女は、メガネを外すと美少女だと相場が決まっているしな。



 というわけで、おれはさっそくさっちゃんのメガネを外してみた。



「……」



 度が強いメガネをかけてたせいで顔のパーツのバランスが悪いように見えたが、メガネを外すとまともな目をしていることがわかる。

 だから決して不細工ではない。

 ブスではなかった。



 でも、それだけなんだよなあ。



 あまりに普通すぎてコメントに困る。

 せっかくの新キャラなんだからもうちょっとサプライズを用意しといてくれ。



 同じく典型的な日本人面をしてるマジックさんも、顔にシグルスさんにやられた傷があるぐらいのエピソードがあってもよかったのに、あのじいさんヘタれてすぐ逃げちゃったんだよな。

 まあおれでも逃げるけど。



「もう、メガネ返してよ! あいかわらず意地悪ね」



 さっちゃんがプンスカ怒りながらおれからメガネを奪い取る。

 メガネをつけたらまたさっきのメガネ猿に逆戻りだ。

 あんた、コンタクトにしたほうがいいぞ。わりとマジで。



「女の外見などどうでもいい。さっさと会議を始めるぞ」



 待ちくたびれたといった感じにゴルドバがぼやく。

 まったくもっておっしゃる通り。

 何やってんだおれは。



「ところでゴルドバさまは、どうしてこんなところにいるんですか?」



 ゴルドバと面識のある田中が、そこで当然の疑問をはさんできた。



「確か神は、滅多なことでは下界しないって話を聞いたんですけど」



 これにはさしものゴルドバも苦笑い。

 人間誰しもスネに傷の一つや二つあるものだから、あまり詮索するのはよくないぞ。



「なあリョウ、こいつマジで神さまなのか?」



 いまだにふてくれさた面をしたままのミチルが不遜にもゴルドバを指さしていう。

 一年経ってもあい変わらずの態度で安心するわ。



「いちおう主神だったガキだが、もはや遠慮する必要はないぞ」


「いいや敬え。天罰を下すぞ」



 スフィアを失った今、おれ以上の実力を持つミチルをあんたがどうにかできるわけ?

 魔法が使えるっつっても聞くかぎり、かなり制限があるみてえだしきついだろ。



「まあいい。拘束されたせいで体が鈍っている。はやく暴れさせろ」


「心配せずとも存分に暴れさせてやるよ。魔王の本拠地でな」



 おれは地図上にある首都レギンフィアをドンと指で叩いた。



 ――さあ、ようやく本題だ。



「首都レギンフィアは巨大な山だ。魔王イドグレスはこの山の山頂にある城で回復のために眠っている」



 ちなみに完全復活まであとわずか。

 その前におれたちは決着をつけなきゃならねえ。



「地図を見ればわかると思うが、山頂へと向かう道は一本しかねえ。他の場所は切り立った崖になっている」



 イドグレスの自然が生み出した大要塞。

 それがレギンフィア。

 おれたちは今からここを攻略するのだ。



「道中にはとうぜん警備の魔族が数多に配備されている。その中でもっともヤバいのはロイヤルズと呼ばれる三体の魔族だ。おれも間近で見たことがあるが、その実力はまさに一騎当千。この中で対抗できるのはせいぜい田中ぐらいのものだが……」



 おれはゴルドバに視線を向ける。



「あんたから見て、田中はロイヤルズに勝てそうか?」


「私の造った勇者をなめるなよ。レベルMAXならロイヤルズはおろかシグルスにすら拮抗できる」



 うおおおおおっ! そいつはすげえぇぇっ!!

 さすがは神さま、とんでもねぇモン造ったなオイ!


 でも、ちょっと気になるいい回しだな。



「……で、田中の今のレベルは?」


「さっき計ってみたが15だった」



 低ッ!



「ちなみに私の想定するロイヤルズ撃破レベルは37~42だ」



 ぜんぜんダメじゃん。

 半分以下じゃん。

 一体も突破できねえよ。



 まあ、当初の予定通り行くだけだから、それは別にいいんだけどな。



「今の話を聞いてわかったと思うが、正面突破はまず無理だと考えたほうがいい」


「じゃあどうすんだよ」



 ミチルの当然の疑問におれは、



「そこで、おまえたちには囮になってもらいたい」



 非情なる作戦を皆に告げた。



「おまえたちにはあえて正面から魔族に挑んでもらい、奴らの注意を正面に引きつけてもらう。その隙をついておれは単独で裏側から魔王城を目指す」


「道はひとつしかないんじゃなかったのか?」



 これでもおれはロッククライミングの心得がある。

 どんな難所でも登りきる自信がある。

 だいたい、正道を行くなんておれらしくねえしな。

 裏道上等よ。



「おまえが、魔王を倒すのか?」


「いや違う。そのつもりならおれは、田中を魔王城まで運ぶ作戦を選択した」



 魔王を倒すのは勇者の役目。

 だがおれはそれを目的とはしていない。

 エルナは、いやこの世界が、殺害それを望んではいない。



「おれは魔王と和解するつもりでいる」



 周囲がどよめいた。

 ゴルドバ以外には作戦内容のすべてを話していねえから無理もねえ。



「不可能です!」



 叫ぶさっちゃんにおれはゆっくりと首を振る。



 できるんだ。

 魔王とはわかりあえる。

 もちろん何の根拠もなくいってるわけじゃねえ。

 ある程度の勝算あってのことだ。



「作戦は必ず成功させる。おまえたちの命、おれに預けろ」



 おれの頼みにまっ先に応じたのは田中だった。



「任せて! どのみち魔王とは戦うつもりだったし、リョウくんと一緒に戦えるならこれ以上心強いことはないよ!」



 次に賛同してくれたのはミチル。



「おれは強い奴とれればそれでいい」



 二人の馬鹿どもに挟まれて、さっちゃんはかわいそうなぐらいに視線を泳がせた。



「みんながやるっていってるのでやります」



 う~ん、実に日本人的な回答だ。

 囮なんていう危険な役目キッパリ断りゃいいものを……哀れな人種だなあ。

 おれも日本人だけどさ。



「ゴルドバ、こいつらの指揮を頼むぞ」


「任せておけ。一人も死なさんよ」



 獄中でアホなケンカをしてたときは使い物にならんかと思っていたが、想像以上に田中の覚悟が決まっていて助かったな。



 前言撤回。

 おまえはこの一年で確かに成長したよ。



 だったら次は、おれの成長を見せる番だな。



 触れるものすべてを切り裂くナイフのようなおれが、

 傷つけることしか取り柄のなかったおれが、

 かつてのおれの中になかったモノを生み出す瞬間を見せてやる。


今こそ成長の証を見せるとき!

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