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ライバル

 ゴルドバ暦1045年8月。

 おそらく歴史に名を残すであろうイドグレス大戦の火蓋はきって落とされた。



 質量共に劣るイドグレス空軍をあっさり打ち破ったリグネイア空軍は、空中より新開発の対聖煙物質を大量散布。魔法の使用を可能にした後に、大陸最強との誉れ高き魔法騎兵隊を投入する。

 陸軍総司令マジック・ショウを旗頭とした魔法騎兵隊の実力はすさまじく、イドグレスの重要拠点を瞬く間に制圧した。



 残る拠点は魔王イドグレスの眠る首都レギンフィアのみ。

 リグネイア軍の勝利は目前である。



 リグネイア万歳! リグネイア王万歳!



 はい、概要おしまい。

 おれの考えたこの煽り文を報道すれば、リグネイア国民は大歓喜間違いなしだ。



 事実ここまでは楽勝だったわけだし、多少誇張して報道するぐらいはいいだろう。





 さすがのイドグレス軍も主力を欠いてはこんなもんか。

 オーネリアスを攻めきれなかった時点で一旦主力を戻すべきだったんだが、蛮族憎しのあまり状況判断を誤ったな。



 もっとも、おれが主力を本土に戻させないよう執拗に攻撃を仕掛けてくれってウォーレンとオーネリアスに頼んだっていうのもあるんだがな。



 先代に憑かれた影響でテンパってたウォーレンが正気に戻り、オーネリアスとの国交をきちんと回復してくれたおかげで出来る作戦だから、今回はリグネイア軍の勝ちというより人類連合の勝利だな。

 魔王軍も長年同族間でいがみあっていた人類がここまで見事な連携を取ってくるとは思っていなかっただろうから、判断ミスを責めるのは少々酷かもしれん。



 いやーすまんね、魔王軍のみなさん。

 この時代におれがいた不幸を呪うがいい。



 いやむしろ逆か?



 人類軍が圧勝したおかげで民間の被害は最小限に抑えられたんだ。

 むしろ感謝されてもいいはず。

 だからおれの誕生日にはプレゼントを用意しとけよ。

 毒入りでも喜んで受け取るからな。







 ロンデリオン。


 比較的首都に近いこの町に、おれを含めたリグネイア軍の主力が集結していた。

 もちろん、ここを拠点として首都レギンフィアを攻め落とすのが主な目的だ。



 それともうひとつ――



「なあリョウ……わしの記憶が確かなら、おまえさんはリグネイア軍に捕まって捕虜になっておるはずじゃが」



 おれが会議室でマジックさんと打ち合わせをしていると、縄で縛られたノーティラスが兵士に連れられてやってきた。



「なぁんで、そのリグネイア軍で司令官なんぞやっとるんじゃい!」



 なんでっていわれても……なんでだろうなあ。


 人生ってホント不思議で満ち溢れてるよなあ。



「だいたいこの縄はなんじゃい! わしは何の罪もない民間人じゃぞ! 国際法はどうした国際法はぁっ!」


「民間って……あんた元ロイヤルズじゃん」


「今は今、昔は昔! だいたいわしとおまえの仲ではないか! パーガトリ在住時にはあれこれ助けてやったのに、恩を仇で返すんかい!」


「いやいや、おれじゃないから。あんたを縄で縛ってここに連れてきたのはそっち」



 おれはニヨニヨ薄気味悪い笑みを浮かべているマジックさんを指さしていう。



「誰じゃ、その性格の悪そうなクソじじいは?」


「見ての通り、性格の歪んだ耄碌じじいだよ」



 悪態をついたらマジックさんに首を絞められた。

 ギブギブ、軽いジョークだっつうの。



「ククク……ひさしぶりじゃのうノーティラス。わしの顔を見忘れたか?」


「だから知らんわ。おまえのようなじじいの知り合いなどわしにはおらん」


「ほう、だったらこれならどうだ!?」



 マジックさんは若返りの魔法を用いて、かつて最強と呼ばれた頃の自分に立ち戻る。



「どうだ、これで思い出しただろう?」


「いやぜんぜん」



 渾身の演出を軽くスカされ、マジックさんがズッコけた。



「しらばっくれるのはよせ! わしじゃよわし! かつておまえと死闘を繰り広げた最大最強のライバル、マジック・ショウこと野村庄一じゃよ!」


「あー思い出した思い出した。もったいぶらずに最初からそういえこの阿呆が」



 若い頃のマジックさんって典型的な日本人顔だもんな。

 そりゃわからんわ。



「ノーティラス、マジックさんと知り合いなのか?」


「かつてシグルスさまに挑戦しに来た愚か者の中の一人というだけじゃよ。まあ、こいつはちょっとだけ手強かったがな」



 ちょっとだけ、という部分が気にくわなかったらしく、マジックさんは机をドンと叩いた。

 若返るとこの人、ちょっと血の気が多くなるんだよなあ。



「なんじゃ、その余裕の勝者面は! 三度めの挑戦時、おまえはわしに敗北を喫したじゃろうがぁっ!」


「まぁな。それでわしはロイヤルズを引退したわけだし」



 おまえさんのような雑魚に負けるようでは引退もやむなしとノーティラスがため息を漏らすと、マジックさんがいきなり魔法をぶっ放そうとしたので懸命に止める。



「今すぐ勝負せんかい! わしとおまえ、どっちが上かハッキリさせようや!」


「じゃからわしはもう引退した身なんじゃって。うざいのぅ」



 だっ! 大事な時期なんだからさ、くだらないケンカはやめてくれよホントさッ!



「なあリョウ、いい加減この縄を解いてくれんか?」


「おい、勝手に解くんじゃない! こいつには敗戦国の民の屈辱を嫌ってほど教え込んでやるんじゃからな!」



 マジックさんにゃ悪いけど解いちゃう。

 どのみち、こんなチンケな縄じゃノーティラスは止められないってことぐらいあんたなら知ってるだろ。ファッション拘束はこのぐらいにしとこう。



「で、何の用じゃ? わしのシワだらけの面を拝みに来たわけでもあるまい」


「マジックさんが今の魔王軍の戦力について聞きたいんだと」



 いちおう説明はしたんだけどね。

 おれの調べた情報だけでは納得できないそうだ。


 つうわけで、話の続きはマジックさんがどうぞ。



「さあ、知っている情報を洗いざらいすべて吐いてもらうぞ!」


「何度もいうがわしはとっくの昔に引退した身じゃから、軍の現状戦力などまったくわからんぞ」



 おれもそういったんだけどなあ。

 意外と頑固者で、なかなか聞き入れてくれねえのよこれが。



「嘘つけ。元ロイヤルズが何も知らんというわけがあるまい」


「知らんもんは知らん。後任のアーデルに業務を引き継いで、それ以来聖王軍とはほとんど関わっておらんからな」


「ほら見ろ知っとるじゃないか! アーデルといえば現ロイヤルズが一席。めちゃくちゃ重要な情報ではないか!」



 そういやアーデルはノーティラスのことだけはさん付けで呼んでたな。

 先任にはそんなに頭があがらないものなのかねぇ。



「まずはアーデルの使える魔法の種類を教えてもらおうか」


「あいつに魔法と剣技を教えたのはわしだから、だいたいわしと一緒じゃよ。じゃからイチイチ教えんでもおまえなら知っとるじゃろ」



 ああ、なるほど。

 先任というだけではなく師弟関係もあったのか。

 それならアーデルの殊勝な態度も納得。



「おまえと一緒と考えると、ロイヤルズもたいしたことない気がしてきたわ。今すぐ首都に乗り込んでも余裕で制圧できそうじゃ」


「必死に研究して三度めの正直でようやく勝てたくせによくそんな大言が吐けるのう。最初なんてピーピー泣いて帰ったくせに」


「昔のことなどもう忘れたわい」


「あと勘違いしてもらっては困るが、一緒なのは使う技だけの話じゃぞ。あいつは第二世代のロイヤルズ。第一世代のわしなんぞよりはるかに強い個体じゃ」



 衝撃の事実をつきつけられてマジックさんの顔がひきつる。

 おれはどうせそうだろうと予想してたから何とも思わんけどな。



「……その第二世代とやらは、そんなに強いのか?」


「最高級の新型エルナなんじゃから当たり前じゃろ。すべての面で第一世代の数段上のスペックを誇っておる。そいつらに剣や魔法の技術を徹底的に叩き込み、数多の戦闘経験を積ませた。別格であるシグルスさまを除けばこの地上で最大最強の存在よ」


「仮に、若い頃のわしがアーデルと戦ったとして、勝ちめはあると思うか?」


「引退間際の第一世代のわし相手にヒーヒーいってたおまえがか? 5分持ったら墓前にバッカス酒を供えてやるわい」



 マジックさんはゴホンとひとつせきを入れると窓の外の景色を眺めながら一言。



「首都突入は、もうちょっと作戦を練った後にしようかのう」



 うん、そうだね。

 マジックさんが賢明な指揮官で何よりだ。

時代は変わった

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