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血の決断

 宿屋に戻ると、珍しくおとなしく待機していたリリスお嬢さまが駆け足で出迎えてくれた。



「おまえはおしとやかな女性が好みのようだからな。今日のところはそのようにしておいたぞ」



 その通りだが、自分でいっちゃダメだろ。



「見るかぎり無傷のようだし、ついていっても問題なかったのではないか?」


「そりゃただの結果論だ」



 自信家のおれだが、おれが生きて帰れる可能性は半々ってところだったな。

 何しろてめえの親を一緒にぶちのめそうっていう狂った話だったからな。



 ……結局、シグルスさんはおれの行動について一言も咎めなかった。



 おれの渡したデータを見れば、おれがイドグレス大陸に乗り込もうと企んでいるのは一目瞭然だというにも関わらずに。

 それでも止めずに非干渉を貫くと宣言した。

 人の未来は人の手で切り拓けと、あのひとはそういったのだ。



 それはイドグレスが、自らの父が討たれても構わないという宣言に等しいだろう。



 安心してくれシグルスさん。

 おれが切り拓く人の未来には、とうぜんエルナも含まれている。

 もちろんあんたもだ。

 あんたが安心して考古学に専念できる未来をおれが提供してやるぜ。



「シグルスは存外甘いエルナだったが、他の連中はそうはいかんぞ」



 壁に背を預けたゴルドバが、おれに当然の事実を告げる。



「シグルスの協力が得られないということは、イドグレス大陸にいる魔族すべてがおまえの敵に回ると思っていい」


「すべてじゃねえよ。おれの理解者だっている」


「雀の涙ほどな」



 いってくれるなよ、悲しくなるじゃねえか。



「それでもまだ女神を討つ気でいるのか?」


「もちろん。イドグレス大陸に乗り込み、魔王と和解すればそれで終わりだ。女神自身にたいした戦闘力がないのはわかっているからな」


「本気でいってるのか? できるはずがない」


「できるよ。楽勝だ。何なら今から奥の手を見せてやるよ」



 おれは隷属の首輪の通信機能をオンにしてマリィに連絡を入れる。



「マジックさんに伝えてくれ! 『シグルスは抑えた』と!」



 人類最強の軍隊である魔法騎兵隊と大陸在住のイドグレス軍をぶつける。

 こいつがおれの奥の手だ。



「とんでもない手を打つな。正気か君は」


「……いいや。正気じゃねえよ」



 おれの計画は最初から二段構えだった。


 ひとつはもちろんシグルスさんの協力を得て堂々とイドグレス大陸に渡る手段。

 もちろんこっちが本命。だれの血も流さずに済む無血革命だ。



 もうひとつのこいつは、シグルスさんが非干渉を貫いた場合の最後の手段だ。



「あんたを縛っているこの悪魔の契約書が見えないか?

 おれは神に背きし闇の王。目的のためなら手段は選ばねえよ」



 おれの意志で戦争を起こす。



 当然ながら多くの血が流れることだろう。

 正気の人間のやることじゃねえ。

 まさに悪魔の如き所行よ。

 リカルド商会なんざ目じゃねえレベルのな。



 ……できることなら切りたくないカードだったんだがな。



「好きに非難してくれてかまわねえぜ」


「いや、イドグレス軍本隊がオーネリアス大陸に駐留している現在、武力制圧はきわめて有効な手段だといわざるをえない。むしろ褒めてやろう」



 そういやあんたはおれの同類だったな。

 ははっ、ろくでなしの神さまもいたもんだ。



「魔族相手なら私もぞんぶんに魔力を振るえるしな。どうやら女神討伐も現実的な話になってきたな」


「あんた魔法が使えるの?」


「エルメドラの神がエルメドラで魔法を使えんはずがあるまい」


「つかぬことを聞くが、どのぐらいの実力なんだ?」


「私のボディは戦闘用ではないから長期戦は無理だが、瞬間最大火力なら私の右に出るものはせいぜいシグルスぐらいだろう」



 ……怪物じゃん。



 シグルスさんがゴルドバのことをやたら買ってたのはそういうことか。

 てっきりスフィアの戦力込みの話かと思っていたが……こいつに本気でこられたら勝てなかったかもしれんな。



 長寿に努力値を全振りしているガキだと思って侮っていた。

 これはソルティアのほうも警戒しておく必要があるな。



「といっても大きな魔法を使うと体がもたんからな。あまり頼られても困るぞ」


「つうかあんた、手伝ってくれんのかよ?」


「無論。引き篭もりのソルティアを処理する好機だからな。あいつに恨みがあるのはおまえたちだけではないぞ」



 元々そのために田中を召喚したのだとゴルドバはいう。


 連中のケンカも大概長いからな。

 そろそろ決着をつけたいという気持ちは同じなのか。



「なんだかよくわからんが、魔族討伐というのであれば父が援助してくれるぞ」



 リリスお嬢さまの申し出はありがてえんだけど、もはやそういう次元の話じゃねえんだわ。

 何しろこれはリグネイアとイドグレスの総力戦になるのだからな。



「さあ、最後の大決戦だ。気合い入れて行くぜ!」



 そう、これが最後だ。

 最後にしてみせる。



 だったらとことんやろうじゃねえか。

 もう二度と戦争なんて起こす気がなくなるぐらいド派手な祭りにしてやろうぜッ!


最後の戦争が始まる

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