共闘
「……ここは、どこだ?」
ようやくお目覚めか。
ゴルドバが気絶から回復したのは次の日の昼だった。
そこまで強く殴ったつもりはないのでついでに寝てたんだろう。
のんきな奴っちゃなあ、平和ボケか?
「おいリョウ。ここはどこだ?」
「お頭の自宅。ベッド貸してもらってるんだから感謝しろ」
「……いつの間にか、エルメドラに降りてきていたのか」
「ああ、おれが降ろした」
状況の飲み込みが早いな。
スフィアからおれの動向を見ていただけのことはある。
「質問だ。どうしてこんな馬鹿な真似をした? おまえは賢い人間だとばかり思っていたのだがな」
「それは、おれたちが似た者同士だからだ」
少し話してすぐにピンと来たよ。
日本の王とエルメドラの神。
多少立場は違えども、おれたちは同じ闇を抱えているってな。
おまえがおれに感情移入したのは偶然ではなく必然だった。
「おれはエルメドラに来て救われた。だからきっとおまえも救われる」
「本人の承諾もなしにやることか!」
おれが下界を提案しても、おまえは間違いなくはねつけていたよ。
見ている分にはドラマチックでおもしろいが、自分が同じ立場になるのはまっぴら御免。安全圏から眺めていたいっつうのが人の常だ。
だから、強制的に撃ち落とした。
「恩を仇で返すとはとんだ恥知らずだ。私がスフィアに戻ったら、それなりの天罰を覚悟しておくことだな」
「どうやって戻るんだ?」
「ウォーレンの造ったピラミッドを使う。君と同じだよ」
「ああ、それは無理。スフィアの設定をいじって門に鍵をかけといたから」
ゴルドバが唖然とする。
そこまでやるかといった顔だ。
「それとあまりおれに憎しみを抱かないほうがいい。首のところ見てみなよ」
ゴルドバは首筋に手を当てて、今度は蒼然とした。
「寝ている間につけさせてもらったぜ。隷属の首輪」
ちなみに改ではない。おれがつけているものと同系列の首輪だ。
ゴルドバ――――おれはあんたを洗脳しない。
今、そのままの心で、この世界の風を感じなよ。
「性能はもちろん知ってるよな。死にたくなかったら黙っておれに従いな」
まあ従わなくても別にいいけど、殺意だけは抱くなよ。
おれは、できればあんたをころしたくはない。
いちおうおれの恩人だからな。
「無茶苦茶だな君は」
「そうだよ。知ってただろ?」
「ああ知っていた。どうやら私は、君の器を計り間違えたようだ」
ウォーレンはすべてをあきらめたように天を仰いだ。
あんたのそういう潔いよいところは好きだぜ。
「それで君は私に何を求める?」
「残りの二神の情報。あとできれば二神を倒す助力も願いたい」
「スフィアを失った私にできることは限られるぞ」
「構わない。あんたと一緒に冒険することがおれの一番の望みだ」
まあ、どうしても嫌だっていうのなら情報だけで構わんがね。
この地に永住したいのであれば無理にとはいわんよ。
「すべてが終わった暁には首輪を外せ。それが協力する条件だ」
「おいおい、そいつを外したらおれが復讐されちまうじゃないか」
「そのとおりだが、何か問題でもあるのか?」
――……いや、まるでねえな。
「復讐はいつだって上等だ。すべてが終わったら首輪を外して決着つけようぜ」
おれは悪魔の契約書を取り出すと、先ほど話した取り決めを書き込んで血でサインを施した。
ゴルドバも同じくサインを施し、ここにおれたちの契約は完了した。
「じゃあ、さっそく聞かせてもらうぜ。あんた以外の神のスフィアに向かうための転送機がどこにあるか知らねえか?」
「あのピラミッドではダメなのか?」
「あれは転送距離が限られている。ギリギリあんたのスフィアに行くのが精一杯だ。第一ゲートだって開いてねえ。あんたのところからだって行くのは無理だ」
ゴルドバのスフィアの門は、年に一度だけかならず開くように設定されていた。
いつの日か、誰かが門をくぐって自分の許に来てくれることを願ってな。
実にアホくせえ話だよ。
寂しかったのなら、あんたのほうから来りゃよかっただけなのにな。
このエルメドラに。
だから今回、おれが無理やり引きずりだしてやったわけだが……さすがに他の神どもはこうはいかんだろう。
こちらから能動的に門を開けて侵入するか、もしくは向こうからエルメドラに来てもらうかしかない。
「連中は今、エルメドラに直接介入してねえみてえだから、門を開けるためのアテがねえ。あんた何かいい方法を知らねえか?」
「他の二神について、私もそこまで詳しいわけじゃない。スフィアに戻れない以上、ゲートのキーを探す手段もない」
ちっ、こいつを天から引きずり降ろしたのは早計だったか。
だが今さら悔やんでもしかたあるまい。
「だがソルティアのスフィアのゲートが近々開くことは確定している」
――マジか!
そいつは朗報だぜ!
「そもそも私が勇者として田中を召喚したのは、ソルティアの降臨を阻止するのが目的だからな」
阻止?
そんなもったいねえことすんなよ。
調子こいて降りてきたところを捕縛しようぜ。
よっしゃよっしゃ、これでスフィアに侵入する手間が省けたぞ。
で、いつどこで門が開くんだ?
「門が開くのは約一ヶ月後。魔王イドグレスの完全復活の日だ。正確な位置まではわからんが、降臨するならおそらく魔王の膝元だろうな」
……イドグレス・レギンか。
エルメドラを蝕む恐怖として三度滅ぼされてなお君臨するエルナの統率者。
そしてあのシグルス・レギンの親父さんでもある。
やはり、神を討つには避けては通れぬ壁なのか。
「そいつはちょっと厳しいな」
「ああ厳しい。あきらめるのが賢明な判断だ」
あきらめる? 賢明な判断?
残念だが、おれの電子辞書には「賢明」なんて単語は登録されてねえのよ。
よってあきらめることもしない。
「おれにつきあえよゴルドバ、誰も見たことのねえすげえ冒険を、直に体験させてやるからさ」
魔王とはいずれ腹を割って話したいと思っていた。
むしろこいつはいい機会じゃねえか。
「どうでもいいが、冒険と自殺行為をはき違えるなよ」
うるせえ、いわれなくてもわかってるっつーんだよ。
あんたは隣で指でもくわえて見てりゃいいのさ。
このおれさまのミラクルな手腕をな。
残り二神




