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握手



「先ほど日本人とはいったが、私はおまえたちの住んでいた地球に住んではいない」



 ゴルドバがいうには、この宇宙には無数の平行世界っつうもんがあるらしい。

 おれたちの住む地球とはまた別の次元にある地球は、こっちとは比べものにならんぐらい科学技術が進んでいるそうだ。



 どうもこっちと向こうとでは時間軸が違うらしいな。

 ざっと1000年ぐらいは先を行ってそうだ。



「高度に発達した科学は魔法と区別がつかないとよくいうが、君たちが体験しているのがまさに『魔法それ』だな。どうだい、なかなか楽しめただろう?」


「……おれは、魔法が使えねえけどな」


「おお、そういえばそうだった。何しろ君は完全なるイレギュラーで、私がボディを造っていないからな」



 なるほどね。

 魔法適正の高い魂を、魔法の使える体に移し替えることで強力な魔法使いを量産してたのか。

 合理的だが、ぞっとしない話だねえ。



「いや悪いね。ちょっとした手違いで、君だけ素体のまま砂漠のど真ん中に放り出してしまった。魔法が使いたいのであれば、すぐにでも新しいボディを用意するよ。君はあんまり才能なさそうだけどね」


「結構だ。せっかく鍛え上げたこの肉体を失いたくねえしな」


「安心したまえ。決して違和感を感じぬよう素体に忠実に造ることを約束しよう。現に他の者にも同じような処置がなされている」


「田中だけ外見がまったく違う理由は?」


「あれは特別製さ。シグルスとやりあうには肉体的にも相応のスペックが要求されるからしかたない。イチからボディをモデリングした最新鋭の『勇者』だよ」



 ――もっとも、あれと戦うにはまだまだぜんぜんレベルが足りていないけど。



 そういってゴルドバはくすくすと笑った。



「おれが素体のままここにいるってことは天国の門は生身でも通れるのか?」


「そういう設定にはしていないはずなんだが、なぜか君は生身のままここに着た。理由は私が知りたいぐらいだ」



 なるほど、マジで手違いなんだな。

 まあ、ウォーレンレベルの技術力でも肉体転移は可能だから、門の誤作動によって飛ばされてきたなんてこともあるかもな。



「おもしろそうだからそのまま放置しといたんだが、君は予想以上におもしろい男だったよ。君と出会えてよかった。さあ、私と友だちになろう!」



 ゴルドバが立ち上がり手を差し出すが、おれはその手を取ることはしなかった。



「なあゴルドバ、あんたはずっとおれのことを見てきたんだろ? だったら、おれがあんたにどんな感情を持っているかも知っているはずだよな?」


「もちろん知っている。君は、私に感謝しているはずだ!」



 ゴルドバは自信まんまんにそう答えた。



 ……。



 ……そのとおり、正解だ。



 おれ自身は、あんたに感謝こそあれ恨みはねえ。

 本来なら、この手を取るのに何の躊躇いもないはずだ。



「確かに私は君たちをころし、強制的にこの世界に召喚した。それは地球人の倫理観では許されざることかもしれない。だが――」



 ゴルドバの口が割れるように開いた。



「――君には、関係ない話だろ?」



 人を見下すような笑いかたは、まるで悪魔のそれだ。

 神の威厳などどこにもない。



「結果的にとはいえ君は私に救われた。私も君をみて楽しませてもらった。ならそれでいいではないか」



 だが、


 こいつの表情かおは、


 どこかで見たことが、ある。



「我らは同志。我らは同胞。共に手を取り合うのが必然というものだ。何の益ももたらさぬ他者など、どうでもいいではないか。おまえだってそう思うだろう?」



 そう、こいつの表情……おれにそっくりなんだ。


 そして物事の考え方もな。



「確かに正論だ。一理ある」


「そういってくれると思っていた。やはり君は私の同類だ」



 おれはゴルドバの差し出した手をガッチリと握る。



「とはいえ、神にいいように弄ばれた君の怒りも理解はできる。それは他の神を誅することで晴らすといい。私も全力でバックアップしよう」


「わかった。これからもよろしく頼む」



 おれは言葉と同時に、もう片方の腕でゴルドバの顔面を思いっきりぶん殴った。



『殴ったね? 親父にもぶたれたことないのに!』


 というイカした返しが来ると期待したが、どうやら一発で気絶しちまってそれどころじゃないようだ。

 鍛えすぎててすまんね。



「おれのバックアップはしてもらう。神ではなく、人としてな」



 似たもの同士のおれたちだが、ひとつだけ決定的に違う点がある。



 それは自分大好き人間なあんたと違って、おれはおれ自身が大嫌いだってことだ。



 だから、てめえを殴るのに躊躇はねえのよ。

 おれとそっくりなてめえをな。



「おおお、おまえ! 神相手に何をやってるんだ!?」



 おっと、ウォーレンのことを忘れてたな。

 別にあれこれいいわけなんざする気もねえんだが……。



「話を聞いてただろ? こいつは神でもなんでもねえ、ただの人間だ」


「いやいや、それでもこの星の創造主ではないか!」


「悪ぃが、いつまでもてめえらの星の都合でぶちころされる地球人を増やすわけにゃいかねえんだよ」


「せっかく大陸がひとつもらえたのにもったいない!」



 ――そっちかよ!



「妾たちの愛の巣となる予定だったのに……」


「寝言は寝ていえ」



 洗脳しないように気をつけていたつもりだったが、ひょっとして手遅れだったか?

 まあ、おれさまは超絶イケメンだから悪意ゼロで直視したらひとめ惚れしちまってもしかたねえことか。



 多少困った事態だが……時間と距離をおけばすぐに治るだろ、たぶん。



 やれやれ、この大陸にもあまり長居はできそうにねえな。



「じゃ、仕事も終わったし帰るぞ」


「帰れるのか?」


「たぶんな」



 スフィアのシステムはゴルドバみたいなクソガキでも扱えるレベルになっているはずだからな。

 マリィの許で一年修行したおれが使えないはずがない。



 ――……うむ、大丈夫。



 やはりおれでも問題はなく扱える。

 スフィアの転送機能を使えばいつでも任意の場所に帰れるぞ。



「さあ、長居は無用。とっとと帰るぞ」



 おれは気絶したゴルドバを抱き抱えてシステムを起動させた。



 こいつにはまだまだ聞きたいことがたっぷりある。

 後からじっくりと尋問させてもらうぜ。


右手で握手しつつも、左手は拳を固めている

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