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マジック・ショウ


 再び庭園に案内されたおれは、客間にてマリィに待機を命じられた。



「これからここにマジック隊長をお呼びするが……くれぐれも無礼のないようにな」


「おれとしてはあんたがマジック隊長で、実は一人二役を演じていたっていう超展開を期待してるんだが」


「頭は大丈夫か?」



 冗談だよ。ちょっといってみただけだ。



「無礼のないようにっていうけどさ、コイツはいいのかい?」



 おれは腰にぶら下げたままの竜鱗の剣を指さしていう。



「もしかしたらおれ、マジック隊長に斬りかかるかもしれんぜ?」


「この庭園ではあらゆる暴力が無意味。ウソだと思うなら試してみるといい」



 この庭園全体にものすげえ魔力の結界が張られていることは知ってるよ。

 どんなペナルティが待っているのかまでは知らねえが、たぶん剣を抜くことすらできねえだろうな。



「では失礼する」



 マリィが去ってからもおれは気を緩めることをせず、正座でマジックさんを待った。



 マジック・ショウ。


 世界最高の魔法使い。


 かつて勇者と共に魔族と戦った英雄のひとりであるとされている。


 本来ならおれごときが謁見できるような御方じゃねえ。



 いったいどれほどの男か……ふふっ、柄にもなくちょっと緊張してきたぜ。



「待たせたな。隊長、こちらへ」



 マリィに促されて入室してきた伝説の英雄。

 その姿におれは強い衝撃を受けた。




 枯れ木のような腕。

 杖をついて歩くのがやっとのよれよれの足。

 すっかり髪の抜け落ちた禿頭。

 どこぞの総理大臣のようにぼうぼうに伸びた眉毛。

 口からはだらしなくよだれをたらしている。




 どこにでもいるただのじいさんじゃねえか。

 立派なのは着物だけかい。




 ……いやいや、結論を出すのはまだ早い。


 魔法使いの外見ほどアテにはならないものはない。

 仮にも世界最高なんて呼ばれる魔法使いだぞ?

 あんなナリでもすごいに決まっている。



「マリィさん、飯はまだかのう」


「先ほど食べたばかりではありませんか」



 ただのボケじじいじゃねえか!



「本日はこの者が、隊長と直に交渉したいと申し出てきました。私の権限ではどうにも返答いたしかねますので……」


「ええよええよ。わしでよければ話ぐらいナンボでも聞くよ」



 マジックさんはニコニコ笑いながら杖をおろし、ちゃぶ台を挟んでおれと向き合った。



 仮に耄碌じじいだとしても、話のわかる人ならまあいいか。

 むしろ与しやすくて助かるじゃん。

 ガッカリする必要まるでねえよ。



「はじめまして。私、マサキ・リョウと申します。本日はマジックさまに折り入って頼みたいことが……」



 おれの顔を見るや否や、なぜかマジックさんは糸みたいに細い目をカッ見開いた。



「ひ……ひ……」



 え? え? え?


 もしかして怒ってる?


 おれなんかまずいこといっちゃった?





「ひゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」





 マジックさんは突如大きな奇声をあげると、四つん這いのゴキブリフォームでおれの前から逃げだした。



「た、隊長! いったいどうなされたのですか!?」


「イヤじゃあ! イヤじゃあ! わしもうあれとは戦いとうないッ!!!」



 お……おいおい、大丈夫なのかこのひと。



 さすがのおれもちと心配になってきてマジックさんのもとに駆け寄る。



「ひぃ! ち、近寄るなぁ! この悪魔めぇッ!!」



 いや、確かにおれは悪魔かもしれんけど……曲がりなりにも同じ人間なんだから、そんなに拒否らなくても。



 ていうか、もしかしてこのひと幻視してる?



 おいおい、いくら名誉職とはいえこんなのに隊長をやらせとくなよ。

 どこかの病院につっこんどけ。



「すいません。もしかしてどなたか別人と勘違いなされていませんか?」


「黙れ! た、たとえ人の姿をしていようが、わしの眼は誤魔化せんぞ! 今頃になってわしの命を奪いにきたかシグルスゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」


「……」



 ……ああ、なるほど。そういうことね。



 さすがは英雄。

 たとえ耄碌もうろくしようがその双眸、ただの節穴ってわけじゃねえみてえだな。



「落ち着いてください隊長! 彼はシグルスなどという名前ではありません!」


「マリィさんのいうとおり。シグルスさんはこっちですよ」



 おれは腰の剣を外してマジックさんに手渡す。



「あ……こ、これは……もしかして」


「そうです。シグルスさんの鱗です」


「こんなもの、なんで君が持っておるんじゃ。わしはてっきりシグルス自身かと……」


「シグルスさんとは交流がありまして、これはそのお礼としていただいたものです」


「奴が!?」


「安心してください。あの方は、人類を憎んではおりませんよ」



 マジックさんは震える手で刀身を確認すると、すぐに鞘に戻しておれに返した。

 どうやらこの庭園、マジックさんだけが結界魔法の対象外みてえだな。



「そうか。人類を……わしを憎んでは、おらんのか」



 ――嬉しいような、少し悔しいような……複雑な気分じゃ。



 ボソリとそう呟き、マジックさんはマリィさんが拾ってきた杖を取る。



「すまん、取り乱してもうた。では気を取り直して話を聞かせてもらうとしよう」



 ちゃぶ台に座ったマジックさんの顔は、少しだけ引き締まって十歳ぐらいは若返ったようにみえた。

 もっとも、十歳若返ろうとじじいはじじいなんだけどな。



 あの様子だと、シグルスさんとやりあった経験があるんだろうな。

 それで生き延びているんだから、あんたやっぱすげえ魔法使いだわ。

 尊敬するぜ。心からな。



 さっき人類を憎んではいないとはいったけど……決して好意的なわけでもなく、いつでも人類に牙を剥くっていったら、じいさんどうなるかな?



 泡食って倒れちゃうかもしれないからやめとくか。



人類最強の魔法使い登場

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