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心を持たぬ悪魔


「君の親父さんにはとてもとても世話になってなぁ……いつか御礼をしてえと思ってたんだ。まさかこんな早くに機会が訪れるとはなあ」



 こいつはきっと運命の出会いってやつよ。

 やっぱりおれって幸運の星の下に生まれてきてるよなあ。


 そう思わないか? おまえも!



「てっ、手を離せ! ぶ、無礼だぞ! 僕を誰だと思っている!?」


「るっせぇんだよ。ちょっと黙ってろ」



 おれはオネットの声帯を潰れない程度に締め上げてやる。

 こんな貧弱坊やひねるのはニワトリを絞め殺すよりわけない。



「安心しなよ、別にころしゃしねえよ。だがおれがレポートを奪われたように、あいつの人体のどこかひとつはもらう。目か耳か腕か足か……息子さんに選ばせてやるよ」


「き、貴族相手にそんなことをして、無事でいられると思っているのか!?」



 おまえこそこのおれを誰だと心得る。

 リアルを支配する王、エルメドラの化身マサキ・リョウさまだぞ。

 貴族風情が頭が高いわ。



「きさまぁ、このことを言いつけて退学に追い込んでやるからな!」



 あ゛? 好きにしろよ。

 こんな学校元からたいして興味ねえよ。



「話をそらすな。自宅を教えろ。いや、おれを自宅に招け。イエスかノーで答えろ」


「答えるわけないだろ! 貴族暴行罪で死刑にしてやる!」



 おれはオネットの腎臓をぶっ叩く。

 ミチル直伝のキドニーブローだ。



 壊さないようできるだけ優しくやったつもりだが、それでもオネットは顔をまっ青にして苦しんだ。



「お、おまえら……助けろ……ッ!」


「おまえの友だちならとっくの昔に逃げたよ」



 友だちなんてそんなもんさ。

 おれの友だちもそうだったよ。



「なぁに、友だちだっていって親父に紹介してくれるだけでいいんだよ。おまえには危害は加えんさ。これでもおれは、おまえとは仲良くやりたいって思ってるんだぜ? だからこうして、陰湿ないじめにも耐えしのんであげてたわけよ」



 しゃべりながらおれは、オネットの鳩尾に膝をねじ込んでいく。



 一発。


 二発。


 三発。


 四発。



 五発めを入れる前にオネットは、血ヘドを吐きながら了承してくれたよ。

 話が早くて助かるわ。



「交渉成立。ではさっそく証書をいただこうかな」



 おれはぐったりしているオネットを裸にひん剥くと、あいつが持ってきた縄を使って逆さ吊りにしてやる。



「なかなか芸術的じゃないか」



 おれは常時かばんの中に入れてある写真機でオネットの痴態を連写する。



「おまえがおれを裏切ったら、この写真を世界中にバラまくぜ」



 イルヴェスサはちょいと例外だが……リグネイア貴族は基本、何よりも体裁を重んじる。

 この写真が露見したらオネットの人生はおしまいだろうな。

 ひでえことをする奴もいたもんだ。



「ではさっそく作戦会議だ。教室に戻ろうか」



 オネットくん、いじめの先輩からちょっとしたアドバイスだ。

 いじめっていうのはさ、このぐらい徹底的にやらないと意味がないぜ。

 半端はダメだ。相手がつけあがるからな。



 あと一番大切なのはだ……自分がやられる側になることを恐れないことだな。

 因果は常に応報すると思ってやりな。

 相手の破滅を願うなら、自らの破滅をかけてやる。

 持ってて当然の覚悟だ。



 だからな、おまえが写真をバラまかれるのを覚悟で、おれを裁きに来るなら大歓迎だぜ。

 そのときはおまえをおれと互角の戦士だと認めて相手してやるよ。







 翌日から、おれのいじめはピタリとやんだ。



 それもそのはず、早朝の教室でいじめっ子グループとの和解宣言を行ったからな。



 ちょいと写真をちらつかせてやると、オネットくんは快く引き受けてくれたよ。

 いや~実にありがたい。持つべきものは友だちですなぁ。



 いじめさえなくなれば、人は自然と戻ってくる。

 何しろおれはこのクラスではぶっちぎりで優秀だからな。

 優秀な者とお近づきになりたいっつうのは人間の本能よ。



 だが中にはまだ気骨のある者もいる。

 さっき下駄箱の中を見たらこんな手紙が入っていた。



『放課後、校舎裏で待っています』だとさ。



 差出人は不明。

 だがいじめっ子グループがいじめをやめたのに、それでもなおおれを呼び出していじめようなんてたいした気概だ。

 そういうイケてる一匹狼にはおれも本気で対応してやらねえとな。



「リョウくん、好きです! おつきあいしてください!」



 校舎裏で待っていたのはシャルロッテだった。

 おれの顔を見ると開口一番に告白してきた。



 おれもけっこう色んな女を見てきたけど、ここまでアホな娘はめずらしい。



 おまえちょっと前まで汚らわしいから近寄るなとかいってなかったか?

 情勢が変わった途端にコロリと態度を変えてきたな。

 まあ、変ないいわけをしないだけマシか。



「間に合ってます」



 おれはシャルロッテの告白を適当に断ると校舎裏を後にした。

 シャルロッテは何やらショックを受けている様子だったが別にどうでもいい。

 これで怒っていじめを再開するようなら喜んで受けて立つぜ。

 女のいじめは男より陰湿だから期待できそうだ。







 ……結局のところ、おれは「人の痛み」ってやつをわからない人間なんだな。



 自分の痛みも相手の痛みもわかんねえから何をやってもまるで心が痛まねえ。



 オネットがどれだけ屈辱を感じているか。

 シャルロッテがどれだけ傷心しているのか。

 想像ぐらいはできる。



 だがそれだけだ。それで自分の態度を変えようなんてまるで思わない。

 アーデルはおれのことを純粋だと評してくれたが、単に人の心がないだけなんじゃねえかな。



 田中をいじめていた時も、おれの心はまるで痛まなかった。

 正直、今も何とも思ってねえ。



 だが、頭のどこかで『報い』を覚悟していた。



 おれは日本の王。

 おれを断罪できる人間なんて誰ひとりとしていないはずなのに。



 それでも、いつの日か誰かが、この心を持たぬ悪魔を裁くだろうと。



 おれは怒りの業火で身を焦がしながら、ずっと、ずっと覚悟して生きてきた。



 だから、ジャンボジェット機が降ってきたあの日――おれは確信したんだよ。

 神さまってやつの存在をさ。





 なあ、神さま。



 あんたがここでおれに何をさせたいのか、それはまだわからねえ。



 いったい何をすればおれが赦されるのかもわからねえ。



 この世界を救えば、おれも少しは赦されるのかな?



 返答、いつまでも待ってるぜ。

その悪魔は、誰よりも救いを求めていた

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