恋のライバル
勉強だ。
とにかく勉強だ。
つってもこんな何にもない独房の中でどうしろってのよ?
とにかく何か読むものが欲しい。
この際、内容は問わない。絵本でも文学書でもエッチな本でもなんでもござれだ。
ためしに覚えたての言葉を使って看守に頼んでみたけどまるで応じてくれなかった。
ちっ、奴隷に人権はないのかよ! あるわけねえか!
さあて、どうするかな。
どうするかなっつってもどうにもならんわ。
おれはいつもどおり手枷をつけられて看守に連行されていく。
もうちょっと自由があればいうことない職場なんだがな。
ここを学び舎にするってのはやっぱ無理があるか。
看守がいつも腰にぶら下げている鍵束。
あれさえあればいつでも外出できるんだけどなあ。
もっとも、外出したところで他に行くアテがあるわけじゃないけどな!
はぁ……使われる身は辛いねえ。
だからといってもう人をあごでこき使う立場に戻る気はないんだが。
あれはもう飽きたわ。
グチりながらもおれは、いつもどおり労働に精を出す。
きついし辛いし大変だけど、だからこそ労働の喜びっていうのはあるよね。
ところが……ところがだよ?
最近、おれの周辺にはまったく喜ばしくない事態が発生しているのだ。
ここのところ石切場に頻繁に出没する男がいる。
年齢はおれと同い年ぐらいだろうか。さらさらのロン毛とやけに高い鼻が特徴的なイケメン青年だった。
もっともおれほどではないがな。
もっともおれほどではないがな。
大事なことなので念を押していっておくぜ。
おそらく貴族だろう。
それも身分かなり高い。
いかにも高級そうな鎧を着てるからな。
こんなクソ暑い場所であんな分厚い鎧を着てたら蒸し焼きになりそうなものだが、そんな様子はみじんも見せない。
これも魔法か? ともあれ地球の常識はいっさい通じないと思ったほうがいいな。
男の乗ってる馬っぽい生物もかなり謎だ。無駄にカッコいいし。
砂漠だったらラクダに乗れ! ラクダに!
あんなナリでも砂漠という過酷な環境に適応しているのだろうか。
このおれも奴隷という環境に適応しつつあるから負けてないけどな!
このイケメン野郎、名前をロビンというらしい。
奴隷の世話係をやってる女どもがいつも黄色い声をあげてるから嫌でも覚えた。
まあそれは別にいい。
高貴なイケメン騎士だ。そら女も群がる。つーか昔のおれがそうだった。
だから、いくらでもモテてくれればいい。
――だがイリーシャを口説くのは許さん!!
なにしろこいつは休憩所で頻繁にイリーシャにアプローチをかけているからな!
つうかこんな場所にわざわざ足を運んでいるのはそれが目的みたいだしな!
ふざけんな!
そいつはおれの女だぞ!!
気安く声をかけるんじゃねえ!!!
周囲は二人は恋仲だって話でもちきりだ。
イリーシャは困ったような素振りを見せているから、そこまでではないと踏んでいるが……この調子で押され続けられたら熱意に負けてしまいかねない。
つーことで、のんびり奴隷を続けながら、いずれはイリーシャにアプローチをかけていこうというおれのもくろみはモロくも崩れ去ったのだ。
いっこくも早く異世界の言葉や文化を覚えてイリーシャと仲良くならないとな。
でも最近のヴァンダルさん、自分の身の上話しかしねえしなあ……いや、まあ教えてもらっている立場だから文句はいえねえんだが。
はぁ……まいったなあ。こんな調子じゃあのイケメンにイリーシャを盗られてしまうぞ。
さあて、どうするかな。
どうするかなっつってもどうにもならんわ。
つーわけで、おれはいつもどおりヴァンダルさんのグチを延々と聞き続けるのだ。
つーか、いいかげん聞き飽きたわ!
男の嫉妬は醜い




