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好きなものは何ですか

作者: 雨宮 怜哉

 子供を私立の小学校に受験させようと思ったのは、私が教師だからという理由もあるかもしれない。何となく、勉強に親しみやすい環境で学んで欲しいと思ったのだ。

 受験項目に面接もあったので、まだ片手で年齢を表せるくらい小さな我が子と面接練習をしている。それが現状だ。面接は明日。最後の練習になる。

「良い? 前年度までの傾向を見ていると、この質問は絶対に聞かれるの。だから覚えておいてね。はい、好きなものは何ですか?」

「おかあさん、けいこうってなあに?」

「もう、今は気にしなくていいから。ほら、好きなものは何ですか?」

「んーとね。えーっと、ヒーローパパ!」

 ヒーローパパ。今子供に大人気のアニメだ。悪い妖怪が取り憑いて、悪さばかりしてしまう子供をヒーローに扮した父親が妖怪を倒して良い子に戻してあげる、という内容のアニメだったと思う。そこまで教育に悪いアニメでも無いし、直させる必要も無いだろう。

「そうなんだね、じゃあ、ヒーローパパのどこが好きですか?」

「ヒーローパパがね、子供を殴ったり蹴ったりしてぼこぼこにしてくれるところが好き!」

「ううん、それだとちょっと頭悪そうね。そうね、こう言うのよ。ヒーローパパが、子供たちを殴ったり蹴ったりして子供を良い子にするためにお説教して、良い子に戻してくれるのが好きです。僕も良い子になろうって思えます。はい、言ってみて」

 我が子はたどたどしながらもしっかりと繰り返す。ここまでアニメを深読みしている姿勢を見せれば、面接官もびっくりするに違いない。我が子の合格は確実ね。

 それからその日は何回もそのセリフを繰り返させた。

 そして訪れた面接当日。自立を重んじているその学校では、小学校であろうと保護者を同伴させない。少しドキドキはしたが、我が子を信じて待っていた。

 だが、にこにこしながら帰ってきた我が子を見て、非常に安心した。

「ちゃんと昨日のセリフ、言えた?」

「うん、言えたよ!」

 この面接の日から、一カ月程が経った今日、家に合否発表の通知が届いたのだ。

 我が子のあの笑顔で安心しきっていた私は、書かれていた内容に驚きを隠せなかった。

 結果は、不合格。おまけに児童相談所の電話番号まで付いてきている。

 一体我が子は何をやらかしたというのだ。

「ちょっと、面接、ちゃんとお母さんの言った通りにやったのよね?」

 我が子は、少しだけ照れたような仕草を見せた後にこう言った。

「あの……実はね。好きなもの、恥ずかしくて言えなかったんだけど、お母さんって答えたんだよね。で、でも! 一緒に練習した言葉は、ちゃんと間違わずに言えたよ!」

 練習した言葉が脳裏によぎる。そりゃあ、落ちて当然である。


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― 新着の感想 ―
[一言] 結末に笑ってしまいました。なんか、すごく子どもらしいですね。面白かったです。
2016/09/12 20:53 退会済み
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