8 猫人・犬人連合計画
日間1位本当にありがとうございます! これからも皆さんに楽しんでいただけるものを書いていきたいです!
私はニューカトラの村に戻ると、古老の家の壁にまた字を彫った。
内容は犬人族が降伏してきたら、それを受け入れて、畑を耕す民として迎えよというものだ。
さらに――多くの獣人を受け入れる国家を作るように、それしか獣人が幸せになる道はない、なぜなら今回の犬人族のようにニューカトラをほしがる者は増える一方だからだ、という理由も付けておいた。
もちろん、すぐに会議が開かれた。
ワーディー王国の者とすぐに仲良くするのは、納得がいかないという感情論もあったが、民が増えなければ村も強くなれずに滅ぼされるぞという私が書いた意見にまでは反論できなかった。
「別にワーディー王国とは長らく戦争をしていたわけでもない。今回、攻めてきたのもほかに手がなかったからだ。村のルールを守るなら、加えてやってもいいんじゃないか」
そんな穏健論が出てからは思ったより話が早かった。まあ、私の意見に真正面から逆らえる者はこの村にいないだろう。
「たしかに、今回は村を守れたが、同じことが何度も続けばどうなるかわからぬな……。ワーディー王国が折れてきた場合は受け入れる道を考えよう……」
古老もワーディー王国の民と合流する方向性に決めたらしい。
その結論が出た頃、ワーディー王国の集落側でも降伏するようにという託宣が出たらしく、向こうの村長が荷車に無数の武器を詰め込んでやってきた。
事実上の無条件降伏だ。
「本日、こちらの側で女神インターニュ様のお言葉が下りました。『神同士の間で話はついた。これ以上争っても勝ち目はないので、負けを認めてニューカトラの民に委ねよ。そうすれば悪いようには扱われないだろう』というものでございました……。もはや、体力的にも限界に達している者が多く、降伏することに決めました……」
敗者の側だからか、さすがに向こうの村長はがっくりと肩を落としていた。
それに対して、こちらの古老が答える。
「わかりました。いくらかの条件を飲んでいただけるなら、ニューカトラ村での生活を許しましょう。村は積極的に土地を開拓していくつもりですし、そのためにも力を貸していただきたい。もちろん、食事は充分なものを支給いたします。身分的にも奴隷のような立場ではなく、村民としての地位を保証しましょう」
「ほ、本当ですか!? あまりにも出来過ぎた話で……にわかに信じがたいほどですが……」
「我々はともにガルム帝国に国を滅ぼされた者同士。もともと両者に遺恨はないはずです。恨むなら、帝国を恨むべきでしょう」
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
イヌ耳獣人の村長は何度も頭を下げて、涙まで流していた。
「実は、本日、こちらのニューカトラ村でも守護神ファルティーラ様の託宣が下ったのです。あなた方に寛容にし、ニューカトラを村から王国にせよというご命令でした。ファルティーラ様の力がなければ、我々も不幸な末路を遂げていました。逆らうことはできません」
「ファルティーラ……その神名はこちらの託宣でもありました! となると、神同士で話がついたというのは本当のことなのでしょうか……!」
どうやら両村の合併は上手くいったようだ。
それより、ニューカトラ村は大規模な開拓作業に入った。民の数が大幅に増えたので、生活ができるだけの食糧を確保するためだ。
一方で、ワーディー王国の流民が作っていた村のほうでも、畑を作り、本格的に作物の栽培に入った。こちらの集落はニューワーディー村と名づけられた。
飲み水は段丘から出ている湧き水を本格的にニューカトラ村まで引く用水路を作った。これにより、水の利便性は大幅に上昇したし、ニューワーディー村のほうに新鮮な水を届けるための道も徐々に整備されてきた。
また、犬人族は猫人族より狩りが圧倒的に得意だった。これまで鹿ぐらいしか獲れていなかったのに、そこにイノシシなどの大型獣や大きな野鳥も食卓に加わった。食事の幅も犬人族が加入したおかげで増えてきている。
そして、私が住んでいる神殿にも変化が起きた。
隣にインターニュの神殿が新たに作られたのだ。こっちは入口にインターニュの顔が掲げられているし、けっこう異様だが……。それと骨の彫刻みたいなのがやたらと壁にされている。
最高神を並んで祀ることでもともと立場の違う者でも仲良くしようというシンボルにするらしい。
それはそれでいいのだが……。
「ごきげんようなのじゃ」
「また来たの、インターニュ……」
このイヌ耳女神がしょっちゅう顔を見せるようになったのだ。一日三回とかあまりにも高頻度なので、面倒になってきた。お隣さんと言えばそうなのだが。
「あのさ、用もないのに来るの、やめてくれない……?」
「同じ神なのじゃから、よいじゃろう」
そう言って、こっちの神殿に寝転がってくる。なお、インターニュの姿も巫女のリオーネには見えるらしい。リオーネはやはり特別な子だ。
「あの、お茶をご用意いたしましょうか……?」
神は奉納されたものを楽しむことはできる。実際の量は減らないので、おさがりはあとで供えた人がおいしくいただいてくれればいい。
「ぬるいのにするようにな。熱いのはネコ舌じゃからダメなのじゃ」
「あなた、リオーネに余計な仕事増やさないであげてよ……」
「ちょっとぐらい、よいではないか。我らも神として努力しておるのじゃから」
「はいはい……」
この女神、ぜいたくすることに慣れてるな……。
「ところでリオーネという巫女よ。ちょっと聞きたいことがあるのじゃが」
「はい、インターニュ様、何でしょうか?」
「お前は好いておる男はおらんのか? 子供を産みたいなら安産を約束してやるぞ」
リオーネの顔が真っ赤になる。
「いえ……そういう方はまだいません……」
「ちょっと! あなた、何を聞いてるのよ!」
「わらわはもともと安産の神じゃったのじゃ。犬はお産が軽いからのう。しかし、そのあと犬であるというところから、ワーディー王国に信仰が入ると最高神とされたのじゃ。なので、専門は結婚とか子育てとかそっち方面なのじゃよ」
そっか。この神もずっとワーディー王国土着というわけではないのだな。
「いい男がおらんなら、いくらでも紹介してやるぞ。五人や十人見繕うことは余裕じゃ!」
「ダメ、ダメ、ダメ!」
私が声を出して止めた。
「なんでファルティーラが止めるんじゃ……」
「だ、だって……もしリオーネに処女性がなくなって、私の姿が見えなくなったりしたら悲しいでしょ……。巫女の力ってそういうところあるし……」
インターニュに大笑いされた。
「お前のう、神が娘一人のことに手をかけすぎではないのか? それではまるで母親じゃぞ」
村の規模が大幅に広がりました! 次回は夜11時ぐらいの更新予定です!