7 イヌ耳獣人の神様
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イヌ耳獣人たちは悲鳴をあげるより先に目を覆った。
「何だ、この光は!」「何も見えん!」「わふーっ!」「ク~~ン!」
なんか、情けないイヌの声もしたな……。
何もないところから強力な光が現れる。これは神の奇跡の中でも初歩的なものだ。それでも、敵に対するインパクトは相当なものだろう。
「私はニューカトラの守護神ファルティーラである! お前たち犬人族の行動に義はない! 義のない者に勝ち目はない! 即刻荷物をまとめて立ち去るがよい!」
これで、敵は戦意を喪失するはずだ。とても水を奪う気持ちなど持てないだろう。
もっとも、恐れに打ち勝てたところで、これだけのまぶしさでは戦闘もできないだろうが。
この光の噂を彼らは戻った後も伝えるだろう。そしたら、怖くなって退却を考えるはずだ。それで、ほとんど何の血も流れずに戦争は終わる。
しかし、私の光が急に弱まった。
どういうことだ? 何者かがこちらに干渉している!?
けど、人間では神の力をはっきりとさえぎるなんてできないはず……。
「女神ファルティーラだと!? 聞いたこともないわ! そのような者には負けぬぞ!」
この声は人の発しているものではないぞ……。
「これは犬神インターニュ様の声だ!」「我らにはインターニュ様がついておるぞ!」
なんだ、インターニュって?
そんなことより、向こうの士気が戻ってきたほうが問題だ。
「早く水を村に入れろ!」「時間はファルティーラ様に稼いでもらえている! 大丈夫だ!」「急げ! 急げ!」
よし、間に合え!
私は敵が近づいてくると、再び光を強く発して向こうを妨害した。
「くそ、また強くなった!」「これでは近づけん!」
また、なんらかの干渉が来るかもと思ったが、その前にこちらの水汲み部隊が村の門の中に入ると、向こうも深追いは諦めた。強引に突っこんでも門の横の櫓からは、村の弓兵が弓を引いて待っている。あの矢に射殺されるだけだ。
どうにか、無事に水を運べはした。
その日の作戦会議では、敵は相当衰えているので、残り数日も耐えれば、背後から忍び寄るなりして、殲滅できるのではという話が出た。
それはそう間違っていないはずだ。そもそも、食糧が減ってきて、略奪に来ているような連中だから、あまり体力もない。兵糧のラインを絶つようなことをしなくても、どのみち自分の本拠地からたいした食糧が入ってこないようだし。
玉砕覚悟で突っこんでくる前に攻撃をしてやれば、被害も少なく、敵を倒せはする。
しかし、それってニューカトラと似たような境遇の村を滅ぼすのと同じことなので、あまり楽しいことではなかった。かといって、彼らが無傷で自分たちの集落に戻っても、再び発展できる可能性は低い。
どうせなら、イヌ耳の彼らにも慈悲をかけてあげたくはあるけれど……。
ああ! 考え事だけじゃ何も解決しない!
あの声の正体も気になるし、少し敵を探ってみよう。
私はイヌ耳獣人の本営を訪れた。今回はニューカトラから近いので行くのも簡単だ。
陣の内部では絶対に戦力にならないだろうというような幼児や女性、老人までが眠っていた。
これ、本当に一か八かニューカトラを滅ぼして移住するつもりだったんだろうな。想像以上にぎりぎりの戦いをしている。失敗したら毒を飲んで集団自決でもしかねないぞ。
そんな陣の中で、ごてごてした祭壇が見えた。やたらと骨を置いているが、あれは獣の骨だな。お供えのつもりなのだろう。
私の目的はそこだった。
「どうして、ニューカトラの守護神がやってくるのじゃ……」
彼らの民族衣装を着飾ったイヌ耳の女神がそこに立っていた。私が来たから姿を現したのだろう。
祀ってある神像とも姿が似ている。髪の毛はやたらと縦ロールで、私の黄金色のロングヘアーと比べると重そうだった。その代わり、私は頭にいろいろと宝石をつけているが。
「あなたがインターニュね。犬人族の国家、ワーディー王国の守護神ということでよいかしら?」
相手の集落にも神がいたから奇跡に対しても手を打てたのだろう。
「そうじゃ……。ところでお前は何者じゃ……? カトラ王国では有力な神がほとんどおらず、周辺国からはまともな信仰も持たぬ連中と呼ばれておったのじゃぞ。最高神アクライアの信仰も神殿を帝国に破壊されて、それで潰えたも同然のはず……」
そうか、カトラ王国の流民は信じる神すら失った状態だったのか。
「私の名前はファルティーラ。違う大陸の神で、今では母国が滅んで、その土地では邪神扱いよ。滅ぼした側の国は男性神を最高神にしてたみたいだしね。それが偶然、このカトラ王国の集落に拾われたの。雇われ守護神ってところかしら」
「その雇われ守護神がここまで力を行使するとはな……」
じぃっとインターニュは私の顔をにらんだが、やがて自嘲的に笑った。
「今、ここで神同士戦ってもわらわが消されるだけであろうな……。こうも信仰の質が違うとは……。あの光に対抗するのが今のわらわの精一杯じゃ……。わらわたちの民はうちひしがられて信仰に力を割くこともできぬ……」
「私も偶然、敬虔な少女に救われたのよ。その少女に神像を拾ってもらえなかったら、確実に今頃消滅していたわ」
どうやら、話し合いの余地はありそうだ。
もしかしたら、私の計画の次なる一歩にもつながるかもしれない。
「ねえ、インターニュ、ワーディー王国の民を武装解除するように言って」
「それで、こちらの民を奴隷として使役するか? 殺されるよりはマシか……。どうかまとめて生き埋めにするようなことはせんといてほしい……。みな、わらわの子供のような存在なのじゃ……」
インターニュは気位が高そうな顔に涙を浮かべて、頭を下げた。
「頼む、頼む……」
「奴隷になんてしないから。あなたたちの民もニューカトラの民になってもらいたいの。もちろん、それが嫌だって言うのなら、元の集落に戻ってもらえばいいけど?」
「な、やけに寛容なことを言うのじゃな……?」
「ニューカトラは今はせいぜい村だけど、いずれ国と呼べるだけのものにするつもり。そのためにはもっともっと人がいる。畑もどんどん広げていかないといけない。軍隊だってまともに作らないと、もっと大きな敵には立ち向かえない」
ニューカトラが今回攻められてわかった。この周囲の難民にとってここは理想郷に見える。だとしたら、自給自足でのんびりやるという選択肢はもう使えない。
「だいたい、帝国とかいう連中に差別されて滅ぼされてるのは一緒でしょ? だったら手を組むことだってできるはず」
「お前はそう言ってもニューカトラのほうは納得するのか?」
「幸い、まだ戦争でまともに死人は出てない。畑も荒らされてない。憎悪の感情はそう強くないはず。それはそれでこっちも努力するよ」
私はインターニュに手を伸ばした。
「一緒に帝国なんかに負けない新しい国家、獣人国家を作ろう!」
インターニュは戸惑いながらもこちらの手を握り返した。
イヌ耳の神様が仲間になりました。次回は夕方五時を目途に更新予定です! ブクマ・評価点いただけると大変励みになります!