6 イヌ耳獣人との抗争
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村をあげての濠や柵の工事は順調に進んだ。もともと土木作業は慣れている民族らしいし。
逆に言うと、これまでほぼ何の防御施設もないまま暮らしていたわけで、いかに余力がなかったかよくわかる。本当に住めればそれでいいというほどに追い詰められていたんだろう。
濠には水が入ってない空濠タイプだったが、その分、地面にとがった木の枝が並べてあるので、そうそう突破できないだろう。
私のいた王国でも水がない場合はこうするのが基本だった。この手の発想は古今東西だいたい同じらしい。人間の肉体に極端な違いがない限り、こういう部分は普遍性があるんだろう。
さてと、これでニューカトラ村の平和ステータスが少しは上がった。
しかし、イコールでまったく安全かというとそうではない。こっちが防御をしようと力押しで敵が攻めてくる危険は依然として存在するからだ。
よし、ちょっくら敵の内情視察といこうか。
イヌ耳獣人の集落はニューカトラから徒歩で三時間半ほどのところにある。といっても、神である私は歩かないので概算だが。
ちなみに二つの集落の間にまともな道などない。砂地が多くて一種の沙漠になってるところすらあり、まともに歩けない。三時間半といっても街道を三時間半歩くとの比べればはるかに大変だ。
イヌ耳集落はその中でも小さな川が流れているところにあった。ニューカトラ村より明らかに低地で、丘みたいなものも周囲にない。
水が手に入って便利なようだけど、反面、こういうところは湿気も多く、病気が発生しやすい。多分死亡率も高いだろうな。
覗いてみると、イヌ耳の住人が槍や矢の準備をしていた。
これは本当に戦争を仕掛けるつもりだな。
外で作業している者の声が聞こえてくる。
「くそ、ニューカトラの連中、挑発に乗ってこなかった……」
「この戦争が失敗したら、俺達ニューカトラの奴隷になっちまうのかな……」
「奴隷ならまだいいけど、殺されるかもよ……」
血気盛んというよりは悲観的な声だ。やはり、この集落も落ちぶれていて、一か八かの大勝負に出るつもりらしい。
窮鼠猫を噛む。この場合、ネズミじゃなくて犬だけど。
放っておいても滅びるというような状況では攻めていくしかないのだ。
さらに近づいて集落の中に入っていこうとしたら、何か壁のようなものに当たった。
いったい何だ?
「これより先に入ることは許さぬ。すぐさま立ち去るがよい……」
私に語りかけてくるって何者だ?
「犬人族はわらわと共にある。ほかの者が入る隙間はないのじゃ!」
今はこれ以上踏み入るのはよくないなと思って、私はニューカトラに帰った。
神殿ではリオーネが巫女装束で掃除をしていた。庶民のボロボロの服と比べるととても豪華だ。
ただ、巫女といっても、職員を統括しているわけではないから、掃除みたいな雑用もリオーネがやらないといけない。
「あっ、ファルティーラ様、おかえりなさいませ!」
もう、すっかりリオーネも私になじんできたらしい。
「犬人族のところに行ってたの。彼ら、近いうちに攻めてくるよ。気をつけて」
「えっ、どうしましょう……」
ひどくリオーネの顔が歪む。
そうか、まさに彼女達は戦争で故郷すら奪われたんだもんな。
「いい? こちらから打って出ることは控えるように伝えて。彼らもあまり体力はあるようではなかったから。持久戦になれば体力のない側が先に疲れて動けなくなる。そうすれば彼らは降伏するしかなくなる」
「わかりました! すぐに古老に伝えます!」
リオーネは走って、神殿を出ていった。
村でもリオーネが聞いた託宣を受けて、防御にさらに気を配った。
当然ながら、これまでにないほどのぴりぴりした空気が村を包む。
●
そして、四日後。
ついにイヌ耳獣人たちが攻め込んでこようとした(・・・・・・)。
つまり、まともに攻めることはかなわなかったということだ。
たしかに大軍でイヌ耳獣人はやってきた。しかし、ニューカトラ村は周囲をがっちりと濠で覆っているのだ。そうそう攻め落とすことなんてできない。空濠を無理矢理渡ろうとする猛者もいない。命が惜しいのだろう。
結局、にらみ合いはそれから三日にわたって続いた。去ってくれないこと自体は面倒ではあるが、今のところ、私の目論見通りだ。
向こうはこれが勝負とばかりに大軍を擁してやってきている。ずっと従軍していれば疲れも見えてくるだろう。そして軍規がゆるんできたあたりから背後からどっと攻める。
被害次第だと向こうの村は消滅の危機を迎えるだろうけど、それはある程度はやむをえない。だからといって、私も守護神としてこの村を守らないといけないからだ。
上手い落としどころがあるならいいけど、向こうは自分たちが助かるためだってだけでこっちを攻撃している。交渉の余地は今のところはない。
四日目。そろそろ村での水の備蓄が減ってきた。泥水なら出るが、士気も下がるし衛生面から見てもあまりよくない。
井戸を新たに村の中で作るという方法もあるが、労力から考えるとあまりよい案とは言えない。ここはちゃんと湧き水を汲んできたほうがいいだろう。
村の周囲は濠や兵士でしっかり囲っているが、水はまだ少しはなれた湧き水を中心にしている。そこまでは行かないといけない。多少の危険は伴う。
「大丈夫だよ。女神である私がついてるから、しっかり水を汲んできて」
私は巫女役のリオーネに語りかける。
リオーネもそれを村に伝えて、水汲み部隊が結成された。中心部に荷車を用意して周囲は武装した住人がぐるっと守っている。これを三回に分けて行う。
もしかしたら、帰りに敵が攻めてくるかもしれないけど、その対策もできている。
水汲み部隊は第二陣までは何もなかった。次の第三陣で水汲みは終わりだ。
だが、第三陣の帰りに動きがあった。
村に帰りつくほんの少し手前だった。イヌ耳獣人が部隊を率いて襲いかかってきた。
「その水をよこせ!」「こっちには水もねえんだ!」
これ、兵糧線を断つためというより、向こうも水不足らしいな。地の利もないからこちらの湧き水の場所も把握していないらしい。
さてと、奇跡を起こしてあげるか。
「罪のない者に刃を向けることは許さんぞ!」
私は周囲一帯に届く声で叫ぶと――強力な光を発した。
さあ、神の力におののけ!
次回は午前11時頃の更新を予定しています。