61 怠惰な神様
目を覚ましたリオーネはバルンビルンの姿をはっきり見つめた。
「あっ、こんな神様がいらっしゃったんですね」
「えっ……もしかして見えてるニャ?」
直接見られることはバルンビルンも考えてなかったらしい。
うん、私も言わなかったしね。
「リオーネはそれぐらい力の強い人間だからね」
「人に見られるのなんて何百年ぶりニャ……。恥ずかしいニャ……」
「バルンビルン様、では、王国末裔の方たちをバルンビルン様に仕える神官とするのはいかがでしょうか?」
さすが、リオーネ、グッドアイディアだ。
奇跡を起こしたものが神官をするなら箔がつくし、末裔が余計なことをするんじゃないかと警戒する側もうかつな行動をとらないと納得がしやすい。神官がこそこそ遠方に行けば目につくから。
「ありがとうニャ」
丁寧にバルンビルンはおじぎをした。
リオーネはカトラ王国の神、バルンビルンが夢に現れて、託宣をしていったことを告げ、末裔を神官とする小さな神殿を作ることを宣言した。
すでに奇跡の話は広まっていたし、文句を言う者もとくになかった。無事にバルンビルンも居場所ができたらしい。
インターニュはあまり多くは語らなかったが、かなりほっとしているのが食事の時など見ていてわかった。
「あのバカも昔は真面目じゃったからな。その頃のことを思い出せば、まあ、どうとでもなるはずじゃ」
「インターニュって基本的に素直じゃないよね」
「わらわは自分に正直じゃぞ。ちなみにあいつのことを心配などしておらんかった。じゃから、様子見にも行かなかったじゃろ」
インターニュがそう言うんならそうなんだろう。インターニュの中ではね。
「ねえ、バルンビルンの神殿もできたらしいし、ちょっと様子見してみない?」
こっちから言わないと、行こうとしないからな。
「そ、そうか……? まあ、おぬしが言うならしょうがないのう…… 別にあいつがどんなところに住もうが興味もないのじゃがのう」
ツンデレなことを言うインターニュとともにバルンビルンの新しい神殿に行った。
町はずれのいかにも余った土地に建てましたという、二階建てのちっぽけな施設だが、これはバルンビルンをまだよく思わない人もいるからだろう。カトラ王国時代、多くの人は苦しい生活をしてきたからな。
中に入ると、いそいそと末裔の人たちが働いていた。
「うむ、感心、感心じゃ」
インターニュがやけに偉そうに言っていた。実際、神様だから偉いことには違いはないんだけど。
「それでは、バルンビルンのまぬけ面でも見ていこうかのう」
私たちはそのまま、神殿の奥へと進んだ。
バルンビルンがあおむけになって、ぐっすり眠っていた。
そばには食い散らかしたお供えがある。
服もかなり乱れていて、相当雑な暮らしだったと想像がつく。白い肌がちょっとのぞいているぐらいだ。
ちなみに眠っている口からはよだれが垂れていた。
「本当に間抜け面じゃった……」
インターニュがかなりあきれていた。
「そ、そうだね……。もうちょっと神様として気合い入れてのぞんでるのかと思ったんだけど……」
こんなに自堕落な生活をしてるとは考えてなかった。
「そうじゃったわ……。こいつは適当な奴なのじゃ……。真剣にやる期間はもう終わったということじゃろう……。末裔の処遇も無難なところで一段落したしのう……」
インターニュはバルンビルンを起こそうと試みた。
ゆさゆさ、ゆさゆさ。かなり強くゆすっている。
「ほれほれ、起きるのじゃ。せっかく出向いてきたのじゃから、あいさつぐらいしても罰も当たらんじゃろうが」
「もう、食べられないニャ……」
バルンビルンは寝言を言っていた。
「ほれ、起きよ、起きよ!」
「仕事じゃったら、明日するニャ……。あと、五分だけ寝るニャ……」
夢の中でも寝てる!
バルンビルンはまったく起きなかった。
最後は、インターニュが思い切りつねって、ようやくバルンビルンは目を覚ました。
「うぅ……痛いニャ……暴力反対ニャ……」
「お前、しっかりせんと恥をかくことになるぞ。ちゃんとせいよ」
どうやらもともとインターニュがお姉さん的な役回りだったらいい。これだけ自堕落な奴ならしょうがないかな。
「それだったら問題ないニャ!」
なぜかバルンビルンが胸を張った。
「この国の守護神はそこの女神ニャ! 私はおまけもおまけニャ! 働く必要もないニャ!」
なんかとんでもない断言してきた!
「いや、あなたも少しは仕事してよ? 神様の仕事もいろいろあるんだからね」
「じゃあ、一番下っ端のしょうもない仕事だけするニャ。もともと働きたくなんてなかったのニャ」
そうか、やる気がないのに最高神をやらされてたから、余計にカトラ王国は上手くまわらなかったのか。
「カトラ王国の者に同情するのじゃ……」
インターニュが深いため息をついた。
問題のある神がまた増えたようです。
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