59 猫背のネコ神
そうだ、昔の神は今はどうしてるんだろう?
王家の生き残りがいるということは、ひっそりとながら存在しているのではなかろうか。
この国にいる神となれば、これはチェックしておいたほうがいい。
会議の場では「あんな悪神が今更、反省の色を示すわけもないし、神像も壊しましょう」なんて意見も出た。むしろ、よくそこまで嫌われたなと感心する……。
「皆さん、これは大きな問題ですし、少し時間をとって考えましょう……。少なくとも、罪の根拠もないのに罰するのはよくないことです……。我らが守護神ファルティーラ様もそのようなことを許したことはありません」
リオーネがそう言って神官たちの会議でも結論は保留になった。
これ、思ったよりも時間的猶予がないな。
私はその神を知っているインターニュと、オブザーバー的に意見が言えそうなセルロトを呼んだ。
「――というわけで、バルンビルンという神がまだいるんだったら、その神にも話を聞いてみようと思うんだけど」
「そうじゃのう。しかし、これまで気づかなかったということは、よほどひっそり祀られておるんじゃろうな。あるいは神像が残っておるだけで誰も信じておらんということもありうるぞ」
たしかにまともに信仰があれば、どこかで顔を合わせていそうなものだ。
「仮にちゃんと信仰されてないとしても、なかば捕まった状態の王家の末裔はこんな時にすがるのではないでしょうか?」
セルロトがなるほどと思うようなことを言った。
苦しい時だけ、神に頼む人っているからな。
「しばらくの間、王家の末裔の人たちは軟禁されてるはず。そこに行けばバルンビルンに会えるかもしれない」
夜、私たちは末裔が捕らえられているところを訪ねた。訪ねたといっても、人間にこっちの姿は見えないけど。
ちょうど、王家の末裔たちは手を組んで祈りのポーズをとっていた。
「バルンビルン様……バルンビルン様……どうか、長らく信心を貫いてきた我々をお救いください……」
その祈りは小声だ。うかつにこの国で聞かれるとさらに状況が悪化しかねないからな。
ただ、その祈りは捕まってるだけに真剣だった。
ふっと、神の気配が現れた。
ネコ耳の神が、猫背で私たちの前に登場する。
「助けろと言われても、どうすればいいニャ……」
「あっ、いた!」
私は思わず声を上げた。
「あっ、そなたはファルティーラという神ニャ!」
びっくりしたバルンビルンの尻尾がピン! と跳ねあがった。
「あなた、バルンビルンだね。カトラ王国で信仰されてた神の」
「といっても、王家に信仰されていただけニャ……。自分でも民のために何かやったという気持ちはないニャ……。だから、奇跡を起こせるような力もないニャ……」
たしかにどう見ても力も自信もないようにしか見えない。はっきり言って、やる気すら感じられない。かなりネガティブなオーラが漂っている。
「あなたにもいろいろあったんだろうけど、信じてる人がいるんだから、何かしてあげたら?」
「そんなこと言われても、こんな神の言葉をこの国の民は聞かないはずニャ……。王家の末裔がばらばらになって、やがてこんな神の信仰も消えてしまうはずニャ……。それだけのことニャ。自然の摂理ニャ……」
「それ、あなたも消えてしまうことになるよ……? もう少しやる気見せようよ……」
「わらわがやる気を出すとか、ありえない話ニャ。やる気を出したことなど一度もないから無理ニャ……」
これ、思った以上に深刻だぞ……。
セルロトが私の肩を叩いて、首を横に振った。
「手は差し伸べました。これでダメというなら、もう、どうしようもありませんよ」
「でもなあ……。それはちょっとかわいそうなんだよなあ……」
すると、インターニュがバルンビルンの前に出てきた。
インターニュは面識がある。何か励ますようなことを言ってやってくれ。
「あっ、インターニュ……」
インターニュは、おもむろにバルンビルンに近づくと――
いきなり、がぶっと腕に噛みついた。
「痛いっ! 痛いニャ! 何をするニャ!」
それでもインターニュは答えない。というか、噛んでる間は答えられるわけないよね……。
「ちょっと! 何してるの! 暴力はダメだよ!」
私はあわててインターニュを後ろから引っ張った。
どうにかインターニュを引きはがすことに成功したけど、バルンビルンの手にはなかなか大きな歯形がついていた。別に暴力で神が死ぬことはないけどね……。
「うぅ……ひどいニャ! こんなことされる覚えはないニャ!」
「おぬしが神にもかかわらずウソをついたからじゃ」
「ウソなんてついてないニャ」
「やる気を出したことがないと言っておったではないか。おぬしも大昔はそんなことはなかったはずじゃ。ちゃんと昔のことを思い出せ。そしたら、何をしないといけないか、おのずとわかるであろう」
インターニュははっきりとそう言った。
「よし、ファルティーラ、セルロト、帰るぞ。一人でないと考え事ができるという時もある」
私はインターニュの勢いに押されて、その場を離れた。
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