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56 神の遷座

 バンヤンという男は、どうやら体もよくなったらしく、顔色もいいものになっていた。


 むくりと、バンヤンは起き上がると、カルティアのいない方向に礼拝をはじめた。


「本当に、本当にカルティア様、ありがとうございました! カルティア様のおかげで生きながらえることができました!」


 カルティアは疲れた顔で、「アタシ、そっちにはいないんだけどな……」と言っていた。

 ただ、その顔はまんざらでもなさそうだった。自分の力で人を救えたのだから、それなりの手ごたえはあったんじゃないだろうか。


「どう? 神様として生きるのって、そう悪いものじゃないでしょ?」

「そうだな……。まあ、否定はしねえよ……。でも、今はとことん眠いんだ。ちょっと眠らせてくれよ……」


 そう言うと、カルティアは私にもたれかかってきた。

「ちょっと! 寝るなら、ちゃんとしたところで寝てよ! こんなところで寝られても困るって!」

 だが、カルティアは完全に体を預けている。

 これはもたれかかっているというより……完璧に寝ている……。


「こんな器用に眠れる神を初めて見たわい」

 インターニュが興味深そうに言った。自分のことじゃないからって、他人事みたいに言ってるな……。


「これ、どうしたらいいの?」

「起きるまでそのまま放っておいたらよいじゃろ」

 そんな疲れること嫌に決まってるだろ。


 結局、草が生い茂っているところに運んで、そこで様子を見守ることにした。

 この森は暇をつぶすものもないので、なかなか暇だった。


 やがて、カルティアが目覚めた。

「あっ、あんたらまだいたのか」

「一応、あんたも病み上がりみたいなものだし、放っておけなかったんだよ」


「そっか、悪いことしたな。アタシも感謝はしてんだぜ。ただ、何か恩を返せればいいんだけど、返しようもねえんだよな……」


 恥ずかしげにカルティアは顔をかいた。そりゃ、産まれて間もない神ができることなんて、たかが知れてるだろう。


 しばらく、カルティアは考えているようだったが――

「よし、アタシもあんたらのところに行く」

 と言った。


「あんたらのところに行けば、なにかしら手伝うことだってできるだろ。悪い話じゃないと思うんだけど、どうだろ?」

 カルティアの顔はいたって真面目だ。

 まあ、この子に下心で物事考えるようなことなんてできないだろう。思ったことをそのまま言って、行動するだけだ。


「決まりじゃな。何の常識も知らんこやつを教育してやらねばならんわ」

 ここはインターニュが先輩らしいことを言った。

「獣人王国も広くなってきたからのう。こういう野良神も増えてくるかもしれん。ちゃんと教育することがわらわたちの責務じゃろうて」


「インターニュ、太っ腹というか姉御肌だね」

「わらわはもともと勤勉な神じゃからの。びしばし教育していくのじゃ」

「えっ……勉強させられるのかよ……? じゃあ、ここに残ろうかな……?」

 足をわらわら動かしながら、カルティアが言った。


「今更、拒否しても遅いのじゃ! ニューカトラに行くぞ!」



 この後、ニューカトラではカルティアという神が遷座したという託宣が降り、カルティア信仰はもう少し広まることになった。

 ただ、足が無数の触手という異形の姿なので、邪神なのではないかという説も広まって、これまでの神と比べると、少々手間取った。


 しょうがないので、カルティアは邪神ではないと私たちも再度託宣を出して、やっと収まりがついた。


 そして、あのバンヤンというカルティアの唯一の信者だった男だが――

 病気が治った後、カルティアの奇跡を各地に伝えてまわる伝道師となり、獣人王国の各地を回っていた。


 この霊験譚がなかなか面白いということで、それを真似る者も出てきて、一種の庶民芸能のようになりつつある。

 意外なところから、文化というのは生まれるものだ。


 そのバンヤンのおかげもあって、カルティアは病気治しの神であるという話が広がってきて、やがてカルティアは治癒の神として信仰されるようになった。

 ご利益がはっきりしたおかげで、カルティアを祀る人も増えてきて、カルティアの力も強くなってきているようだ。これにて、一件落着と言ってよいだろう。


 ただ、カルティア自身はそれどころではない日々を送っていた。

 インターニュが見事に教師役をやっているせいだ。


「おぬし、こんなこともまだ覚えてないのか! 明日までにすべて暗記してくるのじゃ!」

「え~! 勘弁してくれよ~! この国の町の名前なんてどうでもいいじゃん……」

「神が国の地理も知らぬのはダメじゃ。ちゃんと暗記するのじゃ!」


 本当に何も知らないカルティアは知識から常識からしばらくはずっと叩き込まれる日々が続くようだ。

 まあ、いつかインターニュに感謝する日が来るよ。しばらくは恨む日々が続くだろうけど……。


「あんた、悪魔だ! 厳しすぎる!」

「何を言うか! お前のほうが悪魔っぽいフォルムではないか! むしろわらわに感謝するのじゃ!」


 紆余曲折ありましたが、とにかく神様がこの国に一人増えました。

カルティア編は今回で終わりです。また次の神様の話を次回からやる予定です!

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