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52 新しい神

 結局、男が寝ているすぐ横で話をすることになった。


「――というわけで、神っていうのは、自分を信じてる人間のためになるようなことをするのが仕事なの。願いがバッティングする時とかもあるけど、あなたの場合、信じてる人間が一人しかいないからその心配はまったくないね」


「大枠はわかった。でも、あいつさ、具体的にこういうことしてくれみたいな願いを持ってねえんだよ。ただ、アタシを信じれば救われるみたいなことしか考えてなくて、アタシも何していいかわかんねえんだよな」


 それって神様あるあるなんだよな。ほかの神も何人か、わかるわかるとうなずいていた。


「あとさ、どうすれば人間に影響力を与えられるのかもわかってねえんだよな。人間に力を与えたことねえからさ」

「まあ、そのうちわかるようになるよ。それと、直接人に何かやるんじゃなくて、間接的にするほうがいいかな。たとえばたくさん木の身が取れるようにしてあげるとかね」

 ここまで生まれたばかりの神に出会うことはほぼありえないので、ものすごくオーソドックスなことばかりを教えた。


 そういう経験ってほぼないので、割と新鮮だ。


 次にこっちからも国の安全のために、いくつか質問した。

 端的に言うと、男が危険思想を持ってないかどうかだ。

 男が邪悪な信仰を持っていると、カルティアも邪悪になる恐れがある。


 でも、それは杞憂らしかった。


「さっきも言ったけど、あいつ、抽象的なことしか言ってねえんだよ。だから、アタシも悪いことするつもりもねえし、やり方もわかんねえし、だいたいあいつが信仰を広める気がないから力も強くなんねえだろ」

 男が一人で秘教的に信じてる分には、なるほど、怖くない。仮にそれが邪教だったとしても広まりようがないからだ。

 一人がいかに強く信じ込もうとも、やっぱり数の力には及ばない。事件を起こすような集団が三人か三十人かで、恐ろしさも当然異なってくる。


「だったら、何も危ないことはないですねえ。ボク、ほっとしました」

「わたしも同じくです。わたしも故郷で弾圧された側なので、あんまりそういうことはしたくないですし、見たくもないですし……」


 オルテンシア君もウノーシスも戦闘的な神じゃないので、話を聞いて、ひとまず安堵したらしい。


「アタシとしては、そもそもどういうのが危ない神で、どういうのなら許されるのかよくわかってねえんだよ。生まれたばっかりだしさ。あんたらに全権は委ねるよ。煮るなり焼くなりゆでるなり好きにしてくれよな」


 タコだかイカだかわからないような触手を生やしてるから、たしかに煮ても焼いてもゆでても食べられそうだな……。


「ファルティーラ、お前はどうするつもりじゃ? おぬしが守護神代表じゃろうから、わらわはおぬしに任せるぞ」

「わたくしもそうしますよ」

 早い話がインターニュもセルロトも丸投げしてきたな。神様が偉いといっても、偉いということは責任も伴うということだ。


「どうするって、ほっとくよ。だって、カルティアがいることで問題が何もないんだから」


 男一人がこれぞ真なる神と信じているからといって、それを止める意味もない。

 本音を言えば、私たちを素直に信仰してほしいけど、ファルティーラはダメだとネガティブキャンペーンをされてるわけでもないし、よりどころにする神様ぐらい選ばせてあげよう。


「そうじゃの。わらわもまったく同じことを考えておった」

 だったら最初から言えよ。


「これでカルティア問題は無事に解決ということじゃな。じゃが、邪神が生まれないと決まったわけではないから、今後も土地の見回りはやっていくべきじゃ」

「それはそうだね。国っていうのは外側じゃなくて内側から壊れていくことも多いし」

 災厄を防ぐ行為――つまり防災活動は事前にやっておいて、無意味に終わるぐらいがちょうどいいのだ。


「それじゃ、私たちは帰るけど、カルティアのほうでまだ何かある?」

 カルティアの触手は常にうねうね動いていた。どうやら、意思と関係なく動くものであるらしい。ムカデの足みたいなものだろうか。

「いいや、どうせここで一人で生きていく分には何の問題もねえしな。のんびり暮らしてく。土産でも持ってくか?」

「いや、この土地、あまり特産品らしい特産品もないからいいです」



 その後も、インターニュの鶴の一声(むしろ犬の一声か)で全国一斉点検が行われたのだけど、正体不明の神なるものは見つからなかった。

 大丈夫でしたということを託宣の形で告げるまでもないし、妻のリオーネだけに言っておくことにした。


「大丈夫でした」

「ありがとうございます。当分は獣人王国も安泰ですね」

 リオーネもラフィエット王国(の一部の領主)との戦争を乗り越えてから、さらに堂々と政務をこなすようになった。もう、大陸一の賢王といっても誰も文句を言わないんじゃなかろうか。現在、北や南の国にどんな為政者がいるのかよくわかってないけど。


「ロクオンから移住した人のおかげもあって、人口も着実に増えていますし、獣人王国はさらなる発展を遂げそうですね」

「そうだね。でも――」

 私は後ろからリオーネを抱き締める。

「いつでも甘えていいからね。むしろ、ほどほどに甘えなさい。リオーネは努力家すぎるから、それでちょうどいいんだよ。こっちだって、せっかく夫をやってるんだからね」

「はい、わかりました、旦那様」


 やっぱり夫婦二人きりの時間はいいね。神の結束も大事だけど、夫婦の結束も必要だ。


 けど、そこにインターニュがあわてて入ってきた。

「どうもおかしいのじゃ!」


「きゃっ!」

 リオーネがすぐに私の腕から離れて、かしこまった。インターニュも神だからな。タイミング最悪だ。マナー違反だ。

「あの、いったい何でしょうか?」


「先日報告した森におった神の気配が消えた、あるいは消えそうなのじゃ」


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