49 神の食卓
今回から新章入ります!
ラフィエット王国の攻撃を防いで、王国には平和が訪れた――なんてことを言うと、いかにもその平和が破れる前兆みたいで不吉だけど、本当に平和です。
そもそも、内乱が起こるような様子もないし、他国が攻めてくるケースもほぼないから、戦争の面だけ考えればたいてい平和になるのだ。
神の数も増えてきたので、朝食はみんなで集まって食べるということにした。そのための部屋も設置した。いろんな神の神官や巫女が朝はそこに集まってきて、同じようにお供えをする。これなら、宗教対立も起こりづらいだろうし、非常にいいことだ。
我ながらかなりの名案だと思う。存分に褒めてほしい。
「このテーブルはちょっと狭いのう」
褒められる前にインターニュに苦情を言われた。
「神の食卓ということは、かなりの数の供物が並ぶのじゃ。よほど大きなテーブルでなければ、置ききることなどできんではないか。そんなこともわかっておらぬのか」
「そんなに文句言わないでよ! 人間側にとってみれば、いろんな神の宗教者と接点が持てるからいい機会になるじゃない」
「神側の利便性も考えてみよ。一緒に食べるのも、これまでは自由じゃったからよかったのじゃ。顔を合わせたい時も合わせたくない時もあるからのう。同じ場所で食べろと強制されるのはうれしくないわ。それだけ自由が損なわれたのじゃ」
「じゃあ、インタさんだけよその場所ということにいたしましょうか。それがいいですね」
にこやかにセルロトが提案した。
「インタさんの気持ちに応えて、インタさんだけはほかの場所がほしいと託宣を出せばいいんです」
「待て、待つのじゃ! 別に一緒に食べるのが絶対嫌というわけではないのじゃ! わらわは選択肢がほしいと言うておるだけなのじゃ!」
あわてて、インターニュが訂正にまわった。
「だから、基本はほかの場所で食べてもらって、気が向いたらここに来てもらえばいいんですよ。わたくしたちは何も拒みませんから。ね、皆さん?」
毎度のことながらセルロトはすべてわかって言っている。でも、私もインターニュに言いたいこと言われたんで、いい気味だとも思う。
「じゃ、じゃあ、基本はこの場所でそうでない時は自分の神殿で食べるということでよかろう……」
「それだったら、わざわざごはんを取りに来ないといけませんよ。ものすごく面倒ですよね? やっぱり自分の神殿にごはんを置いてもらうべきでは?」
「こ、ここで、我慢するのじゃ……」
インターニュはうつむいてしまった。
「ほら、結局、みんなと一緒がいいんでしょう? 余計なツンデレしぐさはしなくていいですよ。もっと自分に素直になったほうが得しますよ」
セルロトの毒舌でインターニュの犬耳がぺたんと寝てしまっている。ちょっとやりすぎちゃったかな。
「ほら、インターニュ、何か好きな料理あったらあげるよ。何がいい?」
「……豆入りパン」
「はい、豆入りパンね。はい、おいしいよ」
インターニュの手にパンを渡した。
「インタさんは子供すぎます。人の気持ちも考えて発言してくださいね。ファルティーラさん、せっかくの発案を否定されて嫌な気持ちになってましたよ」
「まあ、セルロトは人の気持ちわかったうえで攻撃してるから、気持ちがわかっても、いいほうに活用してほしいんだけどね」
さて、別に神が三人しかいないのではない。私の左隣のほうではオルテンシア君がいろんな野菜の料理を黙々とちょっとずつ食べていた。オルテンシア君は小食なので、お皿も小さい。といっても、神は食べなくても飢えないのだけど。
オルテンシア君はあまり食事中はしゃべらないタイプなのだ。でも、おいしそうに食べているのが顔を見るとわかるので、微笑ましい。
「おいしかったです。お供え物は故郷よりニューカトラのほうがいいですね。故郷だとラディッシュ山盛りとか、相当荒っぽい扱いだったんで」
「けっこうオルテンシア君、不遇だったもんね……」
ニューカトラに来てから時間が経って、オルテンシア君もかなり明るくなったと思う。昔はいつも暗い顔をしてたけど。
そのオルテンシア君の横ではウノーシスがあまり見慣れない料理をいろいろ食べていた。
まず色合いがおかしい。青いのとか紫のとか、見た目はかなりグロテスクだ。
「ねえ、それっておいしいの?」
「おいしいですよ。これはロクオンの郷土料理で紫ビートのスープと、青玉ねぎのサラダです」
見た目は絶対まずいと思うが、好奇心だけは湧く色だ。
「どんな味がするの? 食べてみていい?」
「いいですけど、外国の人は苦手にすることが多いんですよね」
紫ビートのほうを食べてみた途端、口の中が変になった。
「すっぱい! これ、無茶苦茶すっぱいよ!」
「やっぱり、そういう反応されますね。わたしは慣れてるんですけど」
今度は青玉ねぎのサラダという色だけで食欲を減退させるような料理を口にした。
これもすっぱかった。唾が異常に分泌されてくる。
「ウノーシス、これ、どっちもすっぱいよ……」
「だと思います。わたしはずっと食べてるので、こういう味でないと逆に落ち着かないんですけど」
「そっか。ロクオンの人はすっぱい味付けが好きなんだね」
これが民族性というやつだろう。からいものがやたらと好きな民族とかもいるし。
「いえ、ロクオンの人はとくにすっぱいのが好きではないです」
「えっ?」
「こうやってすっぱい味付けにすると、長く持ちますからね。私への供物は二日に一回まとめて捧げるんです」
ちょっと、ウノーシスが不憫に思えた。
こんな調子でみんなで食卓を囲んでいたのだが、ちゃんとしたメリットもあった。
神が集まれば、気になる話題も上がってくる。
「どうも、わらわたちが感知してない神がこの国におるようじゃぞ」
インターニュがなにやら無視できないようなことを言った。