4 裁判に巻き込まれた
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村人の驚きはさらに加速した。
古老が慌ただしく、家から出てきて、第二の奇跡を告げたのだ。
「ワシの家の壁に、びっしりと作物の調理法や保存法が書かれておるのじゃ……。守護神ファルティーラ様のお力としか考えられん!」
今度は古老の家に人々が集まって、その壁を見学した。
内容はいわゆるレシピだ。イモはよく蒸して食べろとか、粉にしたら保存食になるぞとか。果物は未熟なら熱して野菜替わりに、完熟なら甘いのでお菓子として食べられるぞとか。
それと肥料をちゃんと用意しろというのも付け加えた。砂地は栄養分が少ないのでちゃんと肥料を足さないと、土の栄養が尽きる。
「なんとありがたい!」
「ファルティーラ様は豊穣の女神なのではなかろうか……」
「みんな! 立派なお堂を作って、ファルティーラ様を祀ろう!」
もう、こうなるとお堂はいらないからというのも無粋だな。これは強制ではなくて、村人の感謝のしるしだろうから、素直に受け取ろう。
リオーネの家に人がぞろぞろやってきたら、彼女もそろそろ迷惑だろうし。
お堂は木製なので数日で完成した。こういう土木作業は彼らは得意らしい。
リオーネに尋ねてみたが、もともとこの獣人たちは森の多いところで暮らしていたために木材加工には秀でていたという。
「カトラ王国というネコの獣人の国家、それが私たちの故郷でした。面積はそう広くはなかったのですが、長らく平和が続いていて、自然も美しいところでした」
なつかしそうにリオーネが語るが、この話はだいたい最後に人間の帝国に滅ぼされたという悲劇につながってしまう。
わずか三年ほど前のことらしい。だとしたら、彼らがこの土地に逃げてきてからも三年ほどなのだ。
「けど、ひとまずのところは、作物を使って安定した生活もできるだろうし、集落も平和になるでしょ」
「はい、本当にありがとうございます、ファルティーラ様!」
「ついでに集落の名前もニューカトラにしたらどうかしら? ここから新しいカトラ王国の歴史が始まるのよ」
「それはすごい名案です!」
その話も託宣ということで、古老に伝えられ、全会一致で集落の名前はニューカトラ村ということになった。来たばかりの頃は、重く、土気色だった人の顔もかなり明るくなっている。
この私、ファルティーラもニューカトラ村の守護神としてしっかり祀られるようになった。まだまだ土俗的な空気が強いが、それでもうれしい。あまり教義が体系化されすぎると、かえって信仰心が薄れる恐れもあるしな。
しかし、一点だけ物申したいことがある。
新たな神像を作ろうということで、村で手先の器用な人が大きな神像を新調したのだが――なぜかその像はネコ耳の獣人姿だったのだ。
ちょっと待って! 私、そんな姿してないよ! そりゃ、人々の前には顔を出してないけど、もとになる神像はあったでしょ! 絶対にネコ耳要素なかったでしょ!
神殿に行って話に聞き耳を立てたら、こんなことを言っていた。
「我々、猫人族を助けてくださっているのだから、本当はネコ耳のついた姿なのだろう」
「そうよね。だから、こんなに目をかけてくださってるのよね」
いや、そうじゃないんだけど……。
「多分だけど、翼も生えてるんじゃないか?」
「ああ、ありそう! 遠くまで飛んでいける羽を持ってるのよ!」
なんか、マンティコアみたいになってきたぞ……。
神は空は飛べるけど、それは一種の空中浮遊だから翼なんて不要なのだ。
ううむ……こういうふうに像を作れと命令するのも格好悪いし、このまま村人の自己判断に任せるか……。
ニューカトラ村の生活が大幅に安定すると、それに付随していくつか変化が起き始めた。
まず、人口がだんだんと増えてきたのだ。
といっても、スライムみたいに分裂して一気に数を増やすことなどできないので、出生率が急上昇したとかではない。まあ、栄養がとれるようになるだろうから、子供の死亡率とかは下がってくると思うけど。
村の外側で独立して暮らしていた猫人族――つまりネコ耳獣人たちが村で生活をさせてほしいと集まってきたのだ。
国一つが滅んだのだ。難民がこの集落一つなわけがない。ほかにもネコ耳獣人はちりぢりになっているはずだ。
そこにニューカトラという豊かな村があるぞという噂が広まっていき、自分たちも受け入れてもらえるのではないかと、どんどんやってきたというわけだ。
さらなるニューカトラ村の発展のためにも人口増加はありがたいことなので、村では彼らを受け入れていった。
それに伴って、村における法みたいなものも明文化された。物を盗んだらどういう罰に処すとかいうものだ。ちょっとした裁判のシステムも決められた。
よそ者が増えると不信感だって生まれるし、そこはしょうがないだろう。法がまったくない世界のほうが変と言えば変なのだし、村の規模が大きくなった証拠と好意的にとらえよう。
ただ、その裁判は私にとってかなり迷惑なものだった。
なんと、守護神ファルティーラの名のもとに煮えたぎるお湯に手を突っ込むというものだったのだ!
「よいな、正直に事実を述べている者は熱湯に手を突っ込んでも何の被害も出ぬ。ファルティーラ様が守ってくださっておるからじゃ。しかし、ウソをついた者の手は真っ赤にただれることじゃろう」
煮えたぎる釜を前に、古老が判決を望む獣人二人に対して真面目な顔をして言っていた。
ストップ! ストップ! 両方とも手がただれるだけだから!
私は急遽、古老の頭に語りかけた。
こんな無意味なものはやめなさい! あと、私の名前を私の許可なく使うことも不敬であるとみなすから! 場合によっては、この村の実りをすべてを奪うからそのつもりでいなさい! 裁判は証拠をたくさん集めてそのうえで決断を下すように!
「はわわ……申し訳ありません……。中止じゃ! この裁判はすぐに中止じゃ!」
こうしてケガ人続出が予想される裁判は廃止ということになったのだった。
だが、法ができたり、裁判が行われたりしたことからもわかるように、微妙にニューカトラ村とその周囲で変化が起きてきたな。
そのうち、何か大きな事件が起こるかもな……。
もちろん守護神として厳正に対処させてもらうけどね。
更新はじめて20時間経ってないのに早速のたくさんのブクマ本当にありがとうございます! すごくやる気出ます!