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42 平穏と次の懸念

 みんなの努力のおかげもあって、サーティエは沙漠から都市といっていいものに変わりつつある。

 もちろん、沙漠のど真ん中に建物を並べるなんてバカなことはしないので、都市となっているところは沙漠の横だけど。沙漠は農業のための場所として使われている。


 周囲の衛星都市もだんだんとできてきて、難民受け入れはかなり軌道に乗ってきた。


 最初に沙漠に農家がやってきて一年も経った頃には、サーティエとその周辺でも私たち、既存の神の信仰も強くなってきた。


 新しい国で信仰されている神だとロクオンの民が認識したのもあるが、ウノーシスが「ニューカトラ獣人王国の神も信仰しましょうね」と何度も託宣を下したりしたらしい。

 彼女もお世話になっているという意識はあって、それの恩を返そうとしたわけだ。


 移住先がけっこう平和だという話は故地のロクオンにも広がって、さらに移住してくる人間が増えているという。

 仮に多く見積もってロクオン伯爵領に住んでいた人間が最終的に半分移住してくるとすると、伯爵領の人口が四万ほどだから、二万人か。

 上手く、南部にいくつかの都市を作って分散してくれれば、国力の大幅な増強につながる。


 最初はなかなか頭の痛い問題ではあったけど、かなりいいほうに転がっているな。


 そんな緊急対応も一段落してきたある日、リオーネとお風呂で、夫婦水入らずでゆっくりと話した。神はお風呂に入らなくても汚れることはないけど、入浴自体はできる。インターニュなんかはお風呂好きで、よく自分の神殿に入っている。


 体を清めるみそぎのために入浴施設は必要なので、大きめの神殿にはだいたい設けられているのだ。


「近頃になって、ようやくお風呂をゆっくりと楽しむ余裕ができてきました」

 リオーネは浴槽で、体をう~んと伸ばした。洗ったあとの髪が浴槽に入らないように束ねている。

「そうだね。ちょっと前までいつ何の報告が来るかわかったもんじゃなかったもんね」

 私もその横でハーブみたいなのがたくさん入ったお湯に体をひたす。


 もしもサーティエで暴動でも起きたら軍隊を派遣しないといけなくなる。さすがに今では獣人王国に軍隊も配備されているが、本格的な軍事行動をとったことが、犬人族と合併して以来、ほぼないような有様なので、これは危なっかしい。


 となると、士気を高めるためにもリオーネが出陣するという必要性も最悪の場合、出てくる。最前線に立つことなんてないと富もうが、リオーネが戦場に行くというのは怖い。できることなら安全なところでのんびりとしていてほしい。


 でも、伯爵だったカルミヤ・ラヴィアンタがやってきてから数えても半年は平穏が続いているので、ひとまず混乱が増幅して止めようがないということはなさそうだ。

 ほぼ難民だけで成立している都市だし、衝突もないだろう。


「ラヴィアンタ家の側でも無茶な要求をしてくる様子もありませんし。目付け役からも大丈夫そうだという連絡が届いているので、ほっとしています」

「まあ、仮に悪意があったとしても、今の時点でリオーネに逆らっても、勝ち目はないから猫かぶってるよ」


 今、食糧を止められたらサーティエは滅ぶ。ウノーシスのおかげで植物の成長は速くなってるけど限界があるし、入ってくる流民の数のほうが多い。


 もし蜂起するとしたらニューカトラを制圧に来るしかないけど、まともに兵士として戦える者の数はそう多くないだろうから、いくら戦争に不慣れでも獣人王国の正規兵に勝てる可能性は高くない。


 以上から、旧伯爵家はおとなしくしているしかない。実際のところ、悪事を行うつもりなんてないだろう。むしろ、何かの責任をとらされて、こっちの国に粛清されることを恐れているかもしれない。


「ただ、ちょっとだけ気がかりな点があるんですよね」

 リオーネの顔がわずかに曇る。

 立場上、リオーネはなかなか不安を訴えられないので、こういう顔を見せた時はちゃんとフォローしてあげないと。


「何? 私に言ってみなさい。誰かに話すだけでも楽になるものだよ」

「ロクオンに派遣した者の話なのですが、かなり急速に人が出ていっているみたいなんです。それは自分たちの信仰を守るためということで当然なんですが、あまりペースが早いと何かそれが元で起こりそうだなって」


 変化というのはそれ自体が一種のリスクなので、王であるリオーネとしては放っておけないのだろう。


「移住者を受け入れることは、どうやらまだやれそうだけど。希望者の一部は少しずつ、北部にも移ってもらってる。混乱を避けるためにも、流民差別は法で禁止してるし、まだ大きな衝突にはなってないよね」

 獣人王国自体が流民による国家ということで、国はロクオンからの流民への差別的名扱いを禁じている。まだ、ほぼすべての国民が自身の流民時代の記憶を持っているから、ちゃんと同情的な感覚になるらしい。


「この国に関してはあまり心配していません。みんな、苦労人ですからね。猫人族も犬人族も帝国に国を滅ぼされたというのもあって、一体感のようなものもあります。けれど、大きく何かが変わるということは余計な変化も引き起こすことがありますから」

「大丈夫だよ。いざとなったら、私たち神様が国を守るから」


「はい、旦那様、よろしくお願いします」

 リオーネもやさしい笑みを浮かべる。私の巫女をやっている間、リオーネは不老不死だから少女のままだ。その笑みも少女時代から変わってはいないけど、中身はすっかり立派な王様になった。

 もし、もっと人口の多い国家だったら、さらに広い面積を支配する大国家を作れたかもしれない。あまり図体だけ大きくなっても国家を維持できないし、ちょっとずつでいいかもしれないが。

 私がかつて信仰されていた国家でも、偉大な王が国土を広げすぎると、そのあとで揺り戻しが起こった。遠方で反乱が起きたりすると、これを止められないのだ。


 このまま、軍隊も使わなくていいまま、国家が続けばいいんだけどな。


 そういう余計なことを考えるべきではなかった。


 数日後、ラフィエット王国の情勢が現地に派遣されていた者から伝えられた。


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