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35 神としては助けます

 ウノーシスがしゃべりづらい理由も、禁じられようとしている理由もおおかたわかった。


「もちろん、世間一般的には公表してませんよ? 神官や王族、町の顔役といった人の子供とかが参加していただけです……。ただ、ほかの神を信仰する人が偶然その中に混じっていたらしくて……告発されてしまいました……」


 思いのほか、証拠をたくさん提出され、しかも、伯爵の一族までしっかり参加していたことがわかり、ラフィエット王国は淫らなことを行う宗教として邪教扱いとすることを決めてしまったという。


 地域的にも狭い範囲で信仰されているだけだったので、弁護してくれる人もほぼおらず、そのまま禁止という流れになりそうだ。


「まだ秘儀的に二人が交わるとかなら言い訳も立つが……これって、つまり……手あたり次第ということじゃろう……? それは風紀が乱れると言われるのもやむなしじゃ……」

 インターニュは当事者のウノーシスより恥ずかしそうにしている。


「ええとね……もう、これはその淫らな部分を排除するから許してくれと言うしかないんじゃない……? そしたら割とあっさり解決しそうなんだけど」


「いえ、それが、ウノーシス教というのは、むしろそのうたげから発展したものなんです……。奔放な性の力から、すべての教義が、ぶっちゃけ当てつけ的に作られたりしていまして……」

 なんで、こんなにシャイな子がこの宗教の神をやってるんだろう……。向いてない気がする。


「『暖』『寒』の二元論でいろんなものを説明する教義内容なんですけど、それも元は男女の隠喩なんですよね……。それでその二つが一つに結合すると神に近づくとか、そういうことを神官も言っているんです。そんなわけで根っこが性的なものなので、全部汚いということにされてしまい……逃げ道がないんですよ……」

 これ、かなり八方ふさがりだぞ……。


「おそらくウノーシス教というのはかなり古代から信仰されていたんでしょう。その頃は漠然と生殖自体を特別視したり神聖視していたりしたので、淫らだからまずいという意識は薄かったんですよ。もちろん、いつもそういうことをしちゃダメという意識はあったから、祭りの時だけ解禁したのかもしれませんが」

 こういうことでも、淡々と解説できるセルロトがいい仕事をしている。


「なるほどね……。意味はわかったんだけど、これってどうすれば解決できるの……?」

「少なくとも、王国に今更撤回させるのは無理じゃろう。力で押さえつければ変わるかもしれんが、信者の数が少ないということは動員できる軍隊もたいしたことないじゃろ。勝てん」

「はい……多くても二千五百人程度しかロクオンでは動員できません……。絶対に勝てません……。助けてください……」


 かといって、そんな遠方まで獣人王国から軍隊を派遣するわけにもいかないし、だいたいラフィエット王国と本格的な戦争状態になるのも望ましくない。


 となると、移住ぐらいしか打開策がないな……。


「実は先日、伯爵のカルミヤ・ラヴィアンタがわたしの神殿で告白をしたんです。これは政治的な用件もあって、ラヴィアンタ家の没落を願う周辺諸侯の策略でもあると。それで自分は信仰のために身分も捨てて流浪するつもりなので、それから先もどうか見守ってほしいと」

「その話を聞く限りだとなかなか立派な当主様だね」

「それで、どこか逃げる先はないものかと考えた結果、もうこの獣人王国しかないなとやってきたんです……」


 王国の北端にある地域なら、さらに北に逃げるというのが道理か。


 さて、そろそろ仮でもいいから意見をまとめないといけない潮時だな。


「ねえ、インターニュ、さっき『神が自分から助けを求めてきたのなら、考えてやってもよい』って言ってたよね」

 難民受け入れ反対派だったインターニュに聞いてみる。

「うっ……それは……まさか神が本当に来るとまでは思っておらず……」

「そんな言い訳は通らないよ。だって、それじゃ、神が平気でウソをついたことになっちゃうよ。それは神としてみっともないことじゃないかなあ?」


 こんなふうにインターニュを追い詰めてやればいいだろう。

「くっ……つまらぬことを言って言質を与えてしまったのじゃ……」

 がっくりとインターニュは肩を落とした。

 といっても、なんだかんだで神みずからが来たわけだから、インターニュは手を差し伸べただろうけどね。神が来たのに突っぱねるほど、インターニュはさばさばしているわけじゃない。もっとウェットだ。


「――というわけで、規模とかは要相談だけど移民を受け入れるつもりで、神としては考えたいと思います」

「あっ、ありがとうございます!」

 ウノーシスはその場で何度も頭を下げた。ちょっと頭を下げるのが早すぎる。


「あっ、でもね、まだすべての問題が解決したわけじゃないの。私はあくまで獣人王国の守護神だから、明確に間違ってるだろうってこと以外は民の下した結論を尊重したいの」

「そういえば……まだ使者に対して返答がなされてないんでしたね……」

 ウノーシスの顔がまた暗くなる。うん、そういうことなんだよ。


「もしもだけど、獣人王国が公式に移民を受け入れることはしない。ウノーシスを信仰している者は処刑する――だなんてことを決めたら、どうすることもできないからね」


「淫猥な要素だけ聞かれると、そういう判断を下されるかもしれなくて怖いです……」

 それは考えすぎだと言いたいけど、伝わり方次第だと拒否感が出ることはあるかもしれない。


「じゃあ、使者に、正直に包み隠さず話すようにって託宣でも出しておいて。あとから卑猥なことをしてるじゃないかってわかるより、マシでしょ。問題点は明らかなんだから、そこをオープンにしているほうがまだいいよ。そこより印象が下がることはないから」


「わかりました。わたしの信仰が残るかどうかの瀬戸際なんで、努力します!」

 それなりにやる気みたいだな。


「では、わたくしとオルテンシア君とで、もし移住させるならどのあたりが妥当かの検討をしておきますね。獣人王国の民はそこまで南部の地理に詳しくないですし」

 こういう事務的なことに関してはセルロトの存在がたのもしい。

「うん、よろしく!」


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