32 ウサ耳獣人をどうするか会議
外国の問題は外国でどうにかしてほしい。余計なことには手を出さないのが獣人王国としては最善なのだ。
「もちろん、援軍を送ってほしいなどということを申すつもりはございません。そもそも、隣の国とはいえ、ロクオン伯爵領と獣人王国の間には人もほとんど住まない原野が横たわっております。我々もオオカミに食べられるのではと恐れながら野営をしたりして、ここにやってきました……」
ウサ耳の使者がそう弁明した。
隣国といってもバッファ部分が大きいことがこの話からもわかる。
ラフィエット王国のほうもどこまで、こちらを隣国と認識しているかどうか。かなり疑わしい。
「話を切ってすいませんでした。では、いったいどのような理由で我が国にやってこられたのですか?」
「はい……。あまりにも都合のいいことだとお思いになられるかもしれませんが……ロクオン伯爵領の民を移民として受け入れてほしいのです……」
この場にいた参加者の中からも、戸惑いが漏れた。
それぐらい、大掛かりな話だったからだ。
「伯爵領そのものを……? となると、数百人という規模ではありませんよね……?」
リオーネも想定してない話だったので、目をぱちぱちさせている。
「現在の伯爵領の人口はおおよそ四万人ほどです。王国内でも北部の辺境側に位置するのでそこまで人口は多くありません。なお、すべての民が移住するとは考えづらいので、移民は多くても三万人ほどではないでしょうか」
だとしても三万人だぞ! ええと、首都ニューカトラの今の人口ってどれぐらいだろう? おそらく三千から四千ってところだろう。獣人王国全体の人口はいまだによくわかっていない。外から入ってくる人も多いのでつかめていないのだ。
ものすごく雑に十万人ぐらい、人口がいるとしても、三割に当たる人口が急に増えるのか。
衝撃が大きすぎてどうなるのか、想像が難しい……。
「待ってください! 移住するといっても、この首都であるニューカトラにそれだけの人を入れる余裕はありませんよ! 少しずつなら大丈夫ですが、いきなりとなるとすでに住んでいる民からも不満が出るかと思います」
リオーネも変化のリスクが高すぎて、受け入れるわけにはいかないようだ。そりゃ、そんなこと安請け合いできるわけがない。
「獣人王国側のお気持ちはよくわかります。そこで余っている土地をお貸しいただいて、そこに入植することができればと考えております。そのうえで当主のカルミヤ・ラヴィアンタは王に忠誠を誓う所存です。もちろん、ラフィエット王国で持っていた爵位などの地位が役に立たぬことも承知の上です」
「つまり、獣人王国の民として受け入れてもらえればそれでいいということですね?」
「はい。信仰を棄てるか、信仰のために死ぬかではなく、第三の選択肢を手に入れることができれば我々は満足なのでございます……。どうかお許しをいただけないでしょうか……」
こういう時の交渉に長けている人間が獣人王国にはまだいないので、みんな下を向いたりしている。意見をリオーネに求められるとまずいと思っているんだろう。
「獣人王国の側で交渉して結論を出したいと思います。三日ほど、時間をください。いくらなんでも、数日のうちに伯爵領が戦火に見舞われるというほどではないでしょう?」
「はい……。王国のほうには棄教をちらつかせて時間を稼いでいるはずです……。もう少しは伸ばせるのではないかと思います。ただ、すぐに民が移れるわけではありませんし、できるだけ早く移住のお許しをいただけるとありがたいです……」
「あなた方の置かれている状況は理解しました。緊急の会議にて決定しますのでお待ちください」
使者たちは宿舎のほうに連れていかれた。
「まずは会議を開きましょうか……。どういう形にしろ、答えは出さないといけないとは思いますし……」
リオーネ、これは大変なことになったな……。
「セルロト、あなたならどうするのがいいと思う?」
私も経験がないので適切な方策が読めない。徐々に移民が来るならいいけど、こんなスケールで来られることは想定してない。
「受け入れると口では言っておいて、提示する移住場所をとても住めない場所にしてはいかがでしょうか。多くの人間は移住を諦めるだろうから、それほどの影響はないかと」
「悪魔か」
「いいえ。神です」
しかし、これはやさしさだけで解決する問題では絶対にないんだよなあ……。
「ここの民たちがどういう判断を下そうとするか、見てみてから答えを出してもよいであろう? 実はよい案を会議で出すかもしれぬぞ」
インターニュの言葉を信じてみようか。それに国の行く末を決定するのはあくまで獣人を中心とする民だしな。
しかし、すぱっと解決するわけがなかった。
誰にとっても未経験で、専門的知識もない事柄が降って湧いてきたのだ。いい意見が出るわけもない。
とはいえ、みんなどこまで本気かわからないが、意見を出してみるということだけはやろうとしていた。
意見1 追い払って無視する。
ひどくはあるが、一番選びやすい選択ではある。他国のことは他国でどうにかしてもらって、関わらないというのは無難と言えば無難だ。
それに対する反対意見もいくつか出た。
まず、人道的にどうなのか、同じ獣人が苦しんでいるのだから手を差し伸べないと獣人王国としておかしいのではないかという意見。
そうなのだ、獣人王国と名乗っているのに、他国の獣人を受け入れないという判断が正しいのかという問題だ。
また、人口が増えれば国力だって高くなるのだから、その機会を最初から捨てるのはよくないと言う意見も出た。
少なくとも労働力が増えるのは確実だし、それで都市が生まれたりすればよいことだ。
もっとも、これにももし大都市でもできたら、国を乗っ取られるぞという危惧も出てきた。数が多すぎるがゆえに気味が悪いのだ。
意見2 王国の南の土地を与えて受け入れる。
ここで出た反対意見は、すでに出た国を乗っ取られるかもしれないというもの。伯爵領の者たちが一斉にニューカトラに押し寄せて防衛できるかというと、謎だ。
意見3 ラフィエット王国に和平を持ちかける
つまり思いっきり内政干渉をすることで、ウサ耳獣人が土地を出ていかなくていい状況を作ろうというものだ。
理想論すぎるという反対意見が出たが、一方で無理としても形式的にもウサ耳獣人を助けようとしたという格好になるからいいじゃないかという意見も出た。そういう発想もあるのか。
やはり、初日では意見もまとまらずに散会した。
これ、本当に大変そうだな……。




