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31 外国の使者

 リオーネの行幸も無事に終わって、また獣人王国にのどかな日常が戻ってきた。

 だが、のどかすぎるというのは逆に不吉というか、何か妙なことが起こる前触れのように感じる。

 その時も、妙なことが起こった。起こったというより、外部から妙なことがやって来たのだ。


 リオーネがほかの巫女や神官を交えて、会議をしていた時だった。ちなみに私は時間がある際はリオーネのそばにいて、会議の行く末を見守っている。


 そこにあわてた様子で、下級のイヌ耳神官が会議の場に入ってきた。もちろん、本来は会議中に入ってくるなんてことはご法度だから、よほど緊急の事態ということだ。


「失礼いたします! 判断の難しい問題がありまして、位が上の方々にご注進に参りました!」

「いったい、何なんですか?」

 リオーネも会議が中断したので、ちょっと困惑顔だった。


「他国からの使者なのです。南方のラフィエット王国からの使者なのですが、どうもできうる限り早くお話したいことがあるとかで……」

 会議の場がざわついた。外国の使節が来るなんてかなり珍しいことだ。

 そもそも、この国境線やこの川より向こうが相手の国というふうに、この獣人王国は境目がはっきりとは決まってない。何もない空白地帯みたいなところに突如できた王国だから当たり前と言えば当たり前だ。


 もし、明らかにどこかの国ということになっているところに国ができたら、絶対に戦争になる。それは侵略と同じ意味だからだ。


 広大な砂漠や原野が続いているような土地では本格的な国家は生まれなかった。なので、獣人王国自体は割と楽に建国することができた。


 そのため、獣人王国の外側も人が少なかったり、人が住みづらかったりする場所という曖昧な周縁になっており、他国との関わりもほとんどないままだった。


 なので、この国は外交というものをほとんどまともに経験していない。こっちから出ていくこともないし、そんな余裕もなかった。どうせ外側はまだ王国なのかどうなのかわからない土地があるのだから、まずはそこをちゃんと王国で管理していくことが先決だった。


 そんなところに他国の使節が来たから、みんな戸惑ってしまうのだ。


 私も不安になって、思わずリオーネに言ってしまった。

「ねえ? ちゃんと外交できる? やり方わかる?」

 リオーネはあまり自信満々という感じではなかったが、うなずいた。


「今から指示する身分の方はここに残ってください。あと、王国議会のほうから、指示する身分の方は至急神殿に来るように連絡してください。使者とは神殿で会うことにいたします!」


 ひとまず体裁を整えることぐらいはできそうだ。

 私もほかの神を呼んでこよう。この大陸のことならほかの神たちのほうが詳しそうだし。


 ところでラフィエット王国の使者ってどんな奴なんだろう?



 私はインターニュたちを呼んで、リオーネの横で使者が入ってくるのを待った。

「ラフィエット王国か。実のところ、わらわもあんまり詳しく知っておるわけではないぞ」

 インターニュが言った。なんだ、それ。

「なにせ、まさに今の獣人王国があったところが空白地帯になっておって、そこを超えてくる者は限られておったからな。そりゃ、漠然としたことは言えるが、現況までは逐一わかってはおらん」


「なるほどね。それもそうか」

「確かなのは、王国とはいえ、有力諸侯の連邦国家みたいなものということじゃ。なので、今回も王国の使者か、連邦のひとつが出してきた使者か、わからん」


「会ってみればすぐにわかることですよ。今、気をもんでもしょうがないでしょう」

 商業神であるセルロトは外国の人間なんてありふれたことなのか、とくに緊張も何もしていない。外国人を恐れていたら、交易などできないだろうから、当然と言えば当然だ。


 そして、いよいよ使者が入ってきた。

 私はまずその耳に目が釘付けになった。なにせ、立派に立っているウサギの耳だったからだ。

 これはウサ耳の獣人だ。獣人王国にはほとんどいない種族だな。


「ニューカトラ獣人王国の王にお会いする機会をいただけて、本当に光栄でございます!」

 深々とウサ耳獣人たち一行は頭を下げた。


「何か話があるということでしょうから、その話を聞かせてください」

 まだ目的が読めないリオーネはひとまず全部相手から聞き出す作戦に出たようだ。正しい判断だと思う。


「はっ! 我々はラフィエット王国の中でも北部に位置するロクオン伯爵領の使者です。ロクオン伯爵領は代々、兎人ウサビト族の貴族、ラヴィアンタ家が治めております。この土地は兎人族が多く暮らしています」

 隣の国でもまだこちらに近い場所だと獣人が住んでいるのか。しかも、貴族にまでなっているとは。


「ラヴィアンタ家ではずっとウノーシスという神を信仰してまいりました。民の多くもこのウノーシスの信者です」

 インターニュが「ウサ耳をしているという神じゃ」と説明を加えてくれた。

「しかし、ラフィエット王国では、ここ最近、宗教統制が強くなってきまして……ウノーシスを信仰対象として認めないという判断を下したのであります……。王国の神話内においてウノーシスが奔放で、堕落しているということによるものでして……」


 なんか話が不穏な方向に進んできたぞ。


「王国はラヴィアンタ家にウノーシスの信仰をやめるように言ってまいりました。しかし、ウノーシス信仰は伯爵家だけでなく、多くの民にも信仰されています。今更、これを捨てることはできないという結論に、ラヴィアンタ家でもなりました」

 まあ、それはそういう判断になるだろうな。


「ですが、信仰を固辞すればほぼ必ず王国から伯爵領に入ってくる敵が攻めてきます! これとどう立ち向かえばいいのか、悩んでおるのです……」


 あっ、話の筋が読めてきたぞ。


「あの……我が獣人王国に本格的な援軍を出せるだけの軍事力はありませんよ……」

 リオーネが先んじて正直に答えた。

 そう、悪いけど、ロクオン伯爵領なんてものを守るために出兵する義理などはないのだ。


 外国の問題は外国でどうにかしてほしい。余計なことには手を出さないのが獣人王国としては最善なのだ。


今回から新編に入ります。よろしくお願いします!

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