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30 神と王の帰還

 行幸はそのあとも続いて、一週間後にリオーネはニューカトラに戻ってきた。


 巫女や神官、それに執政官たちが戻ってくるリオーネをニューカトラの入口で出迎えた。それはリオーネも知らされていないサプライズだった。


「わざわざ、私のためにすみません……」


 リオーネはその歓待に涙を流していた。王様を何年やっても、こういうところは純情なのだ。みんなが王のためにこんなことをやろうとするのもその純情なところに惹かれるからだろう。


 私もそのうちの一人だ。リオーネはちっともすれた感じにならない。ずっと小娘なところが残っている。

 そこがすごく大事なのだ。世の中の仕組みなんてだいたいわかっちゃいました~みたいな空気を出してる人と一緒にいたくなどない。なにせ、こっちは神様なのだから、偉そうな態度の人間見てても白けるだけだ。


 この調子だとまだ当分はリオーネは巫女王としてやっていけそうだな。国民の支持率はすごく高そうだ。むしろ、今回、行幸を終えたことで地方の支持率も上がっていくんじゃないだろうか。


 それと私のほうにもお出迎えがあった。


 神の連中がリオーネお出迎え団の横に並んでいたのだ。


「おーい、ファルティーラ、達者でやっとったか~?」

 インターニュが手を振っている。犬耳までぴくぴく動いている。


「達者も何もたったの一週間でしょ。大げさじゃない?」

「いやいや、それでもこんなにニューカトラを離れたことは初めてじゃろう? 何かあったかもしれんじゃろうが。少しぐらいはわらわも気になるのじゃ」


 なぜかくすくすとセルロトが笑っていた。


「インタさん、『あいつのおらんニューカトラはどうも寂しいのう』とか『まだあいつは帰ってこんのかのう』とか毎日のように言ってたんですよ。ものすごく寂しがり屋なんですよ、インタさん……かわいい……」


「なっ! 変なことを言うな! それは、その……世辞じゃ! たんなる世辞じゃ!」

「えっ、インターニュ、そうなの?」

「違うわ! わらわはおぬしがおらんでも寂しくなど……いや、ちょっとは寂しいけど、それはごく普通なことじゃし……」


「はいはい、ありがと、ありがと」

 私はインターニュの頭に手を置いた。

「やめよ! 子供扱いするな!」


「でも、インタさん、尻尾が正直ですよ。上下にぴょこぴょこ動くのは喜んでる証拠のはずです」

 たしかにそういう尻尾の動き方をしている。

「へ、変なことを言うなー! わらわはそんなつもりじゃない……。ないのじゃー!」

 インターニュは文句を言いながら、私に抱きついてきた。いったい、どっちなんだ。


 そんな私たちを微妙に離れたところからおどおど見ていたのがオルテンシア君だ。


「お、お勤めご苦労様ですっ!」

「オルテンシア君、それ、私が犯罪者みたい……」

 私のいた国ではなぜかお勤めご苦労様と出所者に言っていたのだ。


「じゃあ……ファルティーラお姉ちゃん、おかえり!」

 もう、すっかり私はお姉ちゃんだな。でも、それでもいいや、オルテンシア君みたいなかわいい弟ならいい。いや、むしろ妹……? どっちでもいいか……。


「ただいま~。お姉ちゃん、帰ってきたよ~」

 今度はオルテンシア君を抱きしめる。ちっこいな~。かわいいな~。

「一週間ぶりに見るオルテンシア君、前よりさらにかわいい気がする」

「う~、うれしいような、悲しいような、複雑な気分です……」


「その子はもっとあなたのことを切実に待っていたんですよ。『お姉ちゃん、無事ですかね……。変な神にからまれたりしてませんかね……』などと毎日言っていましたから」

「あーっ! 言わないって約束だったのに!」

 またセルロトがばらしたらしい。


「セルロトは楽しくなると思ったら率先してやるからね。そういう弱みを握られた時点で負けだよ」

「さすがファルティーラさん、わたくしのこともよくわかってらっしゃいますね。わたくしうれしいです」


「あなたの行動パターンはだいたいわかってきたからね。トリックスターっていうのかな。そういう神も神話に出てくることがあるからわからなくもない」

 セルロトの基本は愉快犯だ。人間が変な信仰の仕方をすると、たまに取り返しのつかないことをやるかもしれないが、ちゃんと見張っている分にはそこまで怖くはない。


「そうだ。一週間、留守にしている間に何か余計なことをしてないでしょうね?」

 私は留守番役の神に視線を送る。

 人間はそんなにだいそれたことをしようとはしない。だけど、神となると話は別だ。神託一つで人間に影響力を与えられるからな。


 とはいえ、オルテンシア君はそんなことをやるような性格ではないから、問題なのは実質残り二人。


「疑り深いのう。何もやっておらんわ。この一週間の出来事なら、神官の書記係が記しておるから、それを読めばよいじゃろう」

 歴史書用にこの国では神官の中で書記役に任命された人が起こったことを記す。なお、ウソを書くと神から叱られると言われており(以前にインターニュが警告を何度か発していた)、よほどのことがない限り、事実が書き留められている。


「そんなに気にしなくてもいいですよ。ニューカトラの安寧はわたくしたちにとっての利益でもあるんですから。そこは信用してください」

 真面目な顔でセルロトが言ってきた。それもそうか。神の中で利害の一致があるのなら、問題もないということか。


「わかったよ。そんなに変なことが起こることはないよね」


 その場ではそう言ったものの、その夜、私はやっぱり書記係の記録を見ることにした。

 理由は一つだ。セルロトが真面目な顔をしていた。

 あいつのことだから、何かを隠す意図があったような気がしてならないのだ……。


 そしたら、こんな記述が出てきた。


『その日、商業神セルロト様のお告げがあった。アブラゲなる異なる大陸の食べ物をもっと供えよとのこと。市民の多くはアブラゲなるものを知らず。ただ、南方のラフィエット王国の商人のみ、これを知る。神官、アブラゲなるものを寄付金より購入することを決める』


「おいー!」


 私は至急、託宣で、アブラゲなるものに過大なお金を使うべきではない、妥当な範囲で買い求めるようにということを告げた。ついでにセルロトのおふざけが過ぎるのであとで叱っておくべき旨も告げた。


 で、本当に叱った。


「あなた……なんでこういうこと、するのかな……?」

「あの、本当にアブラゲはおいしいんですよ? あのおいしさを知ればファルティーラさんも虜になりますよ!」

「そういう問題じゃないだろ!」


 結局、一時間ほどセルロトを説教しました。

次回から新章に入ります。よろしくお願いします!

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