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邪神認定されたので、獣人王国の守護神に転職しました  作者: 森田季節
邪神認定の神、王国の守護神になる。
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2 村人、信仰心を抱きはじめる

日は変わってしまいましたが、もう一度更新します!

 リオーネは喜び勇んで、集落に戻って、おいしい湧き水が出てきたとみんなに伝えた。

 集落の盛り上がりといったら、お祭りかというほどだった。なにせ、水は人間が生活する基盤みたいなものだ。

 それが集落からそう遠くないところで大量に湧いてくるようになったのだから、喜ばないはずがない。


「リオーネ、いったいどうしてこんなものを見つけられたんだい?」

「水汲み場とは方角も違うし、まるでもともと気づいてたみたいじゃないか」


 リオーネのところにみんなが来て、どんどん質問を浴びせている。

 ちなみに私は集落の人達の前にはまだ姿を見せない。あまり易々と姿を見せると、それはそれで信仰心が薄れるのだ。


 王様だって謁見とか特別な場でちょっと見えるだけだから偉いと思ってもらえるのだ。毎日、近所を歩いてるのを見かけるようだったら、敬意だって抱きづらいだろう。


 私の場合、単純に偉く思われたいとかではなくて、信仰心が存在に関わるので無視できないのだ。


「私、昨日、汚れた神像が落ちているのを見つけたんです! それを拾ってお祀りしたら神託があって、あの湧き水の存在に気付けたんです! ファルティーラ様という女神様です!」


 その話を聞いた集落の人々は一斉にリオーネの家に行って、私の神像の前で手を組む祈りを捧げた。これがこのネコ耳獣人たちの祈りのスタイルらしい。


「異国の女神様が力を貸してくださったのよ!」

「いや、異国じゃねえ。この集落の守り神として信仰しよう!」


 私の体が温かくなってきた。信仰心が強くなって、より大きな力をもらえたらしい。


 これなら、段丘を越えて、その先あたりまで偵察に行けるかもしれない。


 ただ、話がエスカレートしてすぐに私を祀るほこらを造ろうというような展開になりつつあった。それはうれしいけど、そういう異様に熱しやすいのはちょっと問題なんだよなあ。それだと冷めるのも早いので怖いのだ。


 私はリオーネの頭に語りかける。

(いい? 祠だとか神殿だとかは、もうちょっと集落が豊かになってからでいいわ。それより、湧き水が出た場所を整備するのにでも時間を使うように言いなさい)

「わかりました! 守護神ファルティーラ様!」


 集落のみんなはいきなりリオーネが言葉を発したのでびくっとした。


「あの、また託宣がありました! 今は祠なんかより、湧き水の出たあたりをきれいに整備しなさいとおっしゃられています!」


「女神様は本当に我々のことを考えてくださっている!」

「素晴らしい! 本当に素晴らしい女神様だ!」

 村人も余計に感激したらしい。

 全体的にこの集落、苦しいことが多かったせいか、感動の閾値がちょっと低いな。すぐに喜ぶところがある。


 でも、それって昔ながらのとことん神を信仰していたスタイルに近いので、全体的にこの村の人達は素朴なのかもしれない。私もちょっと古き良き時代を思い出している。


 その日は手の空いている村人総出で、湧き水が出たところの土をさらったり、子供でも水が簡単に汲めるように水場にまで階段を造ったりといったことをやっていた。

 貧しいからこそ、団結力はある村のようだ。もしかすると、人は生活が苦しい時ほど、集まって何かをしたりするのかもしれない。しかし、そんな考察は今はどうでもいい。


 私は村の生活水準もチェックした。獣を狩ったり、ドングリを拾ったりといった次元の、なんとも慎ましい生活だった。


 獣といっても鹿を倒すのがやっとという感じらしい。みんなやせてる印象があるし、段丘の上に大型のイノシシがいても倒す余裕がないのだ。


 では農業はどうかというと、この土地に移ってきてからそんなに日が経ってないせいもあるんだろうけど、まともに栽培できているものはほとんどない。せいぜい種から油のとれる作物を育ててるぐらいだ。

 よその土地だと雑草扱いのものを集めてゆがいて食べていたりする。栄養価も決して高いとは言えない。


 まずはきちんとした栄養状態の確保が必要だな。

 最低でも、まともな農作物は用意させないと村を持続させること自体ができないだろう。


 私は段丘の先にまで足を延ばすことにした。

 いくら、土の質が砂っぽいとはいえ、そういう環境で生育する作物だってあるはずだ。そういうのが野生で生えていたりはしないだろうか。


 結論から言えば何種類か候補になるものが生えていた。

 まず、イモの仲間。これは成長が早いし、乾かすとデンプン質を使って用途の広い粉にもできる。保存食としては使い勝手がいい。


 続いて、ウリの仲間も何種類かあった。これも集落のあたりでも育てられるはずだ。


 あと、甘い実をつける果物の木もある。よく熟すれば果物として食べられるし、未熟なものは火で炒めて食べることができる。


 ざっと見ただけでも、いろいろとあるじゃないか。これを育てる環境が確立されれば、村の生活もかなり安定するはずだ。


 ただ、植えて収穫が行われるにはちょっと時間がかかりすぎるな。

 ここは託宣と奇跡を使うか。

 幸い、集落の信仰心が強いので、多少なら人間が絶対に使えない力を発揮できる。


 私はまたリオーネに語りかけた。

(いいか、この集落で余っている土地をとことん耕しておきなさい。広ければ広いほどいい。そしたら、守護神ファルティーラが恵みを授けてあげるから)


「わかりました! ファルティーラ様っっっ!」


 また、人前でリオーネが叫んだので、みんながびくっとした。


「託宣が来ました! みんな、余っている土地を耕しましょう! そしたらいいことがあるそうです!」

「耕すって、こんな砂っぽいところではまともな麦なんて育たないぜ……」

「ここにやってきた時に試したけど、上手くいかなかったし……」


 否定的な声も上がる。そりゃ、種を植えようって発想ぐらいは誰だってやっているか。


 そこにやってきたのは、獣人の中でも最年長と思われる古老だった。


「いいや、ファルティーラ様を信仰したリオーネのもとで奇跡が起こっているのじゃ! ここはファルティーラ様を信じようではないか! 仮に何も起こらなかったとしても、少しばかり体を動かしただけじゃ。財産がなくなったわけでもなんでもない! 澄んだ湧き水を授けてくださったことに比すれば、実に小さなことではないか!」


 その通りだという声が次々に上がった。

 古老を味方につけられたのは大きいかもしれない。古老を通じて、信仰心を持つ者が増えていくからだ。

 かつて、教団が完備される前の原初的な宗教では村の古老の言葉に従って、みんなが神に祈りを捧げていた時代もある。


 こうして、集落の人達は黙々と土を耕していった。

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