28 リオーネとの旅
こうして国王リオーネの行幸計画が進められることになった。
最近ではリオーネの下で仕える三人の大巫女もしっかりしてきて、三人いればリオーネの代理をつとめるぐらいのことはできる。
とはいえ、その計画をリオーネから聞かされた時は三人とも政務をやっていく自信がなかったのか、尻尾が左右にやたらと振れていた。ちなみに猫人族が二人、犬人族が一人で、いずれも十代後半だ。
巫女というと神がかりになる人やシャーマンといったイメージもあるが、仕事としては大臣みたいなものに近い。それを十代の女の子にやらせているというのも冷静に考えると無理があるが、祭政一致の要素が濃い国なのだ。
一方で王国議会で権力を持っている十人の執政官たちも行幸計画を承認して、リオーネの求めに応じて、視察場所の案を提出した。
都市アリ、景勝地アリ、開発中の農村アリと思ったよりもバラエティに富んでいる。議会のほうも真剣に取り合ってくれたということだ。
無事に日程も決まり、リオーネは護衛の者たちと一緒に行幸の旅に出たのだった。
なお、言うまでもなく、もちろん私もついている。私はリオーネが乗っている馬車の隣に座っている。御簾が垂れていて馬車の中は外からは見えないのでなかなか落ち着く。
まず最初に訪れたのは獣人王国第二の都市であるニューワーディーだ。
ここを無視すると、住人から「どうして無視したんだ、犬人族をないがしろにしているのか」と思われかねないので適切な選択と言える。
犬人族の心のよりどころみたいな都市だからな。リオーネが猫人族だからこそ、配慮しているという姿勢は見せておきたいところだ。
ニューワーディーの町は私がかつて訪れた時とは比べ物にならないほどに繁栄していた。とくに石造りの建物がずらっと並んだ通りは古都の雰囲気を思わせるほどだ。
石切り場を見つけたことで、石の建造物が増えてきたのは確かだが、このニューワーディーはとくにその動きが強かった。
「すごいですね……。ニューカトラはこんなに整然とはしていないかもしれません」
「ワーディー王国の遺民が石の加工に長けていたのは本当だったんだね。こんな町が増えれば、絶対に獣人王国は発展するよ」
町の歴史上、インターニュの神殿が大きいが、ちゃんと私の神殿も建てられていて、リオーネと一緒に訪問した。代表の神官や巫女は普段、国王リオーネと会うことがない分、あたふたしていた。
「本当に来てくださってありがとうございます……」
「まことに光栄です!」
そんな調子で向こうの人がぺこぺこリオーネに頭を下げて、視察は終わった。王様が来て何をするかではなく、わざわざ会いに来てくれたということに意味があるのだ。
まだ時間があるので、今日中に次の村まで行って、そこで一泊する。モーリーという小さな集落だが、サイラン渓谷へと向かうための中継基地のような役割を果たしている。
モーリーの犬耳の村長もぺこぺこ頭を下げて、リオ-ネが言葉をかけると感動して涙まで流していた。
「こんな田舎の村に国王みずから来臨なされるとは……身に余る栄誉でございます!」
もはや猫人族も犬人族もなく、リオーネは国王として尊敬されているんだな。私はそんな様子を見て、ほっとする。ほっとすると同時に、とあることに気づく。
リオーネはいつのまにか、国王になったばかりの頃の小娘っぽさがなくなって、清楚さと神々しさを兼ね備えた女性になっている。
見た目はまだ少女のままだけれど、誰が見てもなんらかの地位についている高官だと思うだろう。そんな空気を自然と醸し出している。
ああ、リオーネの周囲が行幸にリオーネが出られるぐらい成長しただけじゃないんだ。リオーネ自身も王として確実にステップアップしているんだ。それこそ王としての余裕みたいなものを出せるようになっている。
「リオーネのそばにいたから、かえってリオーネが素晴らしい女性になってることが見えてなかったかも。近くにいすぎるのも考えものだね」
「私はまだまだですよ。知らないことが多すぎます。だから、行幸も計画したんです」
リオーネは絶対に威張ったりしない。ここでもそうだ。
私の感覚からすると獣人王国ができてから短い時間しか経ってないけど、この国は急激に変貌してるんだ。それもよいほうに。
あと五年もすれば誰からも文句が言えないような安定した国になるんじゃないか。海に面していたら、違う大陸とかからも獣人が来たかもしれないのにな。獣人は虐げられている地域が多いからこそ、固まって住むことには価値があるはずだ。
想像以上に収穫の多い一日だった。
その日、私はリオーネのベッドに一緒に入った。いつもなら私の神殿で眠るけど、旅先だからね。巫女が神と一緒に眠るということ自体はよくある儀式だし、そこまで恥ずかしくはない。
「今日はお疲れ様でした、リオーネ」
「収穫が大きかったです。明日もいろんな景色を見れたらいいなと思います」
にっこりとリオーネは笑っていた。
よく考えるとリオーネにタメ口でしゃべれるのは神だけなんだな。
「そ、それと……」
リオーネが横にいる私の手をそっと握った。
「だ、旦那様と一緒に眠れてうれしいです……」
「膝枕ならしたことあるけど」
「それより、やっぱり特別です」
神は眠る必要がないので、リオーネが眠りにつくまで私は静かに待っていた。
今日のリオーネがやすらかに眠って、いい夢が見られますように。




