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邪神認定されたので、獣人王国の守護神に転職しました  作者: 森田季節
気弱な神様

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26 祭祀整う

「そもそも振り付けからというのはおかしいじゃろ。歌がいるのじゃ」

「そうですね。聞いた人に元気を与えられる曲が必要です」


 セルロトとインターニュがいつになく波長があっていた。もう、歌も二人にお任せしよう。


「わたくし、秘密結社で歌われていた歌からインスピレーションを得ました」

「そうか。わらわも戦争の前に歌われた士気を高める曲から考えが浮かびそうじゃ」


 私とオルテンシア君は横で見守っていた。

「オルテンシア君も遠慮せずに曲作りに参加していいんだよ?」

「いえ、ボクのところのは土俗的すぎるんで、向かないんですよ。歌詞もかなり直接的に卑猥なのが多かったですし……。ちょっと向いてないかなと……」

「豊穣の神だと、そうなりがちだよね……」

「踊るのはいいんですけど、曲は任せたほうがいいですね……」


 そんなことを話しているうちに、やる気のある神二人が曲を作った。


===

シャイニング・ウィスパー 作詞・作曲 インターニュ・セルロト 編曲 リオーネ


新しい希望の光が 今、僕の目の前にあるから

悲しみも涙も消して 歩き出せる ロード・オブ・ゴッドブレス


一人で心細い時につぶやいた あなたの名前、そっとこもる勇気

願いを手を組んで届けてる 何もかもすべてが上手くいくように


神様が見てるから、きっと僕は輝けるよ


新しい希望の光が 今、僕の目の前にあるから

悲しみも涙も消して 歩き出せる ロード・オブ・ゴッドブレス

<以下略>

===


「なんか想像以上にキラキラした曲が来たな……」

 あと、メロディのついてない状態で歌詞だけ見るとこういうのってかなり痛々しいな。

「この冒頭部分のところがサビじゃ。曲の中心になる部分じゃから、何度もやってくるのじゃ」

「錆? なんか嫌な用語だな……」


「ネガティブな部分や怖い部分は一切入れずに、聞いていると自然と体が動き出してしまうような万人受けを狙いました。トップ偶像を狙うには誰からも愛される歌が必要ですからね」

「なんだか、あなたたち、これまでにないぐらい積極的だね……」


 あと、さりげなく編曲をリオーネがやっているのが気になる。

「私はたいしたことはしてないです……。ただ、ラストはサビを複数回繰り返して、とくにオーラスは転調したほうがかっこいいなとか、そういうことを言っただけで……」

 恐縮しているけど、けっこう言うこと言ったらしい。


 ひとまず、曲は完成した。次は振り付けだ。


 といっても、私だけではいい振り付けなんてわからなかったので、ほかの面子と一緒に考えていくことになった。


「これでいいですか? ファルティーラさん? でも、この動きは尻尾がない人がやった場合、映えないかもしれませんね。わたくしやインタさんだといいんですが」

「ああ、私、こういうのよくわからないから、みんなに合わせるよ」

「おい、リーダーなんじゃから、もうちょっと積極的に意見を出したりせんか!」


 インターニュに怒られたが、別にリーダーになったつもりはないぞ……。


 振り付けがほぼ決まったら、ダンスレッスンに入る。

 これが一番難しい。


「ファルティーラさん、少し遅れてます!」

「そんなこと言われてもわからないって!」

 リオーネの指導もかなり厳しい!

「あと、ファルティーラさん、笑顔をもっと意識してください!」

「でも、私に奉納されてた舞踊って割と厳粛で笑ったりはしてなかったような……」

「これは見てる人に楽しんでもらうためのものなんです! 歌って踊る方も楽しむ気持ちを忘れちゃうとダメです!」


 神なのに途中で息が上がってきて、何度か中断した……。

 踊りつつ、しかも歌を歌うという、かなりハードルの高いものなのでやむをえない。


 七回目の中断で私は倒れこんで、ぜえぜえ言っていた。

 なんで、こんなことに……。どうして、祭祀の踊りを作るのにこうも疲れてるんだ……?


「ほら、立つのじゃ。リーダー」

 インターニュが微笑みながら手を伸ばしていた。ところでなんでリーダーってことにされているんだろう。

「まだまだじゃな。これではトップ偶像には程遠いぞ。立ち上がるのじゃ」


「そうですよ。わたくしたちも一緒です」

「ファルティーラお姉ちゃん……ファイトだよ!」


 なんだか感動的な雰囲気になっている。


「プロデューサー、もう一度頭から通しでやらせてほしいのじゃ!」

 ちなみにプロデューサーとはリオーネのことです。


「わかりました! やってください!」


 そして次の練習で私達の息は完璧に合ったのだった。


「あれ、今、できてた?」

「ついにやりましたね!」

「上出来なのじゃ!」

「お姉ちゃん、よかったです!」

 なぜか私達は泣きながら抱き合っていた。



 そして、二週間後。

 巫女王リオーネは私やインターニュなど国が認めている神についての祭祀内容を『祭祀典範』という本に正式に定めた。


 そこには歌舞も含まれており、その見本を首都ニューカトラで巫女や神官に披露することになっていた。


「では、ただいまより、歌舞の手本をここでお見せしますので、皆さん、よく覚えておいてくださいね」


 私達は観客の前に出て、「シャイニング・ウィスパー」を歌った。


 途中から、観客から声が上がりはじめた。一緒に歌っている人もいる。

 初めて聞く曲のはずなのにそうとは思えない一体感がある。


 曲が終わった後、観客から割れんばかりの拍手が鳴り響いた。泣いている巫女や神官も多い。


「素晴らしいです!」「これなら神々も喜んでくれるはずです!」「歌舞でこんなに感動したことはなかった!」


 後世、その見本披露は伝説として語り継がれ、「シャイニング・ウィスパー」はいろんな祭りで人々に演奏される曲目になった。


 私もよく人の手で披露されるそれを見るが、自分も厳しい特訓をやった分、なかなか心に迫るものがある。


 その曲のせいなのか、巫女や神官の中に「笑顔を忘れずに、神様にも楽しんでもらう気持ちで働こう」という意識が共有されて、各地の神殿では一般民衆が入りやすい開かれた場所になった。

 厳粛を通り越して陰気な宗教施設と比べればこっちのほうがよほどいいかもしれない。


 でも、やっぱり、あの練習は何かが間違っていた気がする。

 神みずからがトップ偶像なんてものを目指したらダメだったのでは……?


アイドル編でした! 次回はまた全然違う話になります。

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