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邪神認定されたので、獣人王国の守護神に転職しました  作者: 森田季節
気弱な神様

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24 経典製作作業

 あと、経典の中には生活規範みたいなものも入れておかないと。


===

・欲望のままに生きてはいけない。

・物を盗んではいけない。

・すぐに暴力に頼ってはいけない。

・自分や仲間のためにウソをついてはいけない。

・いけないことはいけない。

===


「自分や仲間のためにウソをついてはいけない。」というのはウソ自体を完璧に禁止した場合、どう考えても社会生活がぎくしゃくするからだ。

 嫌いな人間に会って、「お前のことが嫌いだ」と発言することは正しいこととは言えない。なので利己的なウソでなければいいということにする。じゃあ、何が利己的であって、何が利他的なのかという議論になりそうだけど、そのへんは空気を読んで考えてもらおう。


 暴力の禁止もこういう書き方にしたのは暴力を完全否定したら、戦争を仕掛けられた時、理屈の上では滅ぼされるしかないからだ。


 それと、もうちょっと精神的なものも入れておこう。


===

・傲慢になってはいけない。

・いたわりの心を持っていないといけない。

・ほかの種族だからといって差別してはいけない。

===


 獣人王国はいろんな獣人で成り立っているので、そこで争いが起こるとシャレにならなくなる。この規定はちゃんと入れておこう。


 あとは何か抜けてないかな。姦淫の禁止とかか? いや、そういうのは「いけないことはいけない。」という項目で包括できているから大丈夫だろう。それより、ちゃんと尊敬のまなざしをこっちに注いでもらうように注意を加えておくか。

 それと、リオーネのためにもう一つ入れておこう。


===

・神を敬わないといけない。

・神を祀る巫女に従わないといけない。

===


 こんなのでいいんだろうか……。ハルトミット王国時代の記憶とかかなりうろ覚えなんだよな……。やればやるほどわからなくなってくる。

 項目が十個あるから、「ファルティーラの十戒」と呼ぼう。思ったよりそれっぽいだろう。


 さて、律法? に関する部分はこんなものでよいとして、次の箇所に進もう。

 インターニュのワーディー王国時代からある経典を見せてもらうか。これは参考になるんじゃないか。


===

狗の神は千の夜にも目を光らせ声高に叫ぶだろう。邪まな者あらば正しき剣によって撃ち滅ぼさん。凡ての淵源からの定命にて宿縁なり。若し悪がげようとも、翼なくともおおとりのように舞い上がり、憤怒の声を上げ、その爪で切り裂かん。

===


 思ったよりも難解だな……。そんなにたいしたことは言ってないのに、偉いように見える。こういう見せかけも大事なのか。

 とにかく信仰すればご利益があるということが書いてある。そうか、自分の価値をちゃんと書かないといけないんだな。


===

神は言った。私を祀れば何かといいことがあります。だから、祀りましょう。

===


 そのまま過ぎるかな……。

 すごく頭が悪そうだ。もう、これはリオーネに脚色してもらおう……。というか、リオーネに全部任せたくなってきた。

 私がやるとしたら、リオーネが書かないようなことを書くべきだ。たとえば、リオーネは自分自身を偉く表現しない気がする。リオーネを讃えることを加えておこうか。


===

神は言った。私が支配していた国が信仰を忘れ、よその国に攻め滅ぼされた結果、私も邪神とされ、土地を長くさまようことになった。かつては守護する国を光で包んでいたその力も、信じる者がなくなり、暗闇を照らす蝋燭の灯かりよりも小さくなった。

だが、そんな私の像を国を追われた一人の猫人族の娘が拾った。娘は貧しかったが、強い慈悲の心を持っていた。私の像をきれいに洗い、そして祈ったのだ。その途端、私の力はみるみるうちに復活し、娘の土地を守るほどまでになった。そして、私は娘リオーネを巫女にし、土地を守り広げることのできる言葉を教える存在になったのである。

私は獣人の心が美しいことを知っている。私は獣人達の守護神になろう。獣人の王国がいつまでも栄えるように手を貸そう。

===


 こんなものでいいかな。


 これで民衆のリオーネに対する信頼も強くなるだろう。それはイコールで神である私に対する信仰が強くなることにも結びつくし、いいことずくめだ。



 私は経典で自分が担当する部分をリオーネに提出した。


「はい、これを元に経典を作ってね」


「ありがとうございます、だ、旦那様……」


 また旦那って言ったな。

「いっそ、『巫女を妻として認めた』って入れておこうか?」

 私に関する性別が直接書いてなければ違和感なく誤魔化せそうだ。

「いいえ……。それはけっこうです……。あんまり直接的に書くと恥ずかしいですし……」

 そこはリオーネに任せるか。


 一か月後。リオーネとその部下に当たる巫女や聖職者達の手によって、経典がおおかた編纂された。

 私だけでなく、インターニュやセルロト、オルテンシア君の内容も含まれていた。


 これで無事に経典ができるなと思ったのだけど――


「旦那様、お仕事です」

 リオーネが大量の紙の束を持ってきた。


「これは、何? もう編纂は終わったんだよね?」

「まだ旦那様及びほかの神々のチェック作業が終わっていませんから。内容に誤りがないか、ご確認ください!」

「え、これを全部読むの……?」

「はい、お願いします! 神様公認というところが重要ですから!」

 元気よくリオーネは答えた。


 そのあと、数日の間、私はチェック作業にあけくれることになった。

 ほかの神も目を通すことを強いられて、かなり疲れたようだった。


 本って、書きっぱなしってわけにはいかないんだな……。


 その後、『ファルティーラ経典』は無事に上梓され、王国の各地域にも書き写されて広まっていった。


 これで、やっと私の宗教的基盤も整ってきたかな。少なくとも国教だと堂々と言えると思う。


 しかし、整えないといけないものはまだまだ残っているのだ。


 二週間ほど後、神が集まっているところに、またリオーネが飲み物を持って、入ってきた。


「皆さん、今度は祭祀について定めていただきたいんですが」

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