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邪神認定されたので、獣人王国の守護神に転職しました  作者: 森田季節
気弱な神様

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20 オルテンシア改造計画

 神殿へ帰る途中、ふと気にかかることがあったので、聞いてみた。こういうことは放っておくと、どんどん聞きづらくなっていく。


「あのね、私が住んでた大陸だとサトゥロスって、すべて男だっていう伝説だけ残ってたんだけど……。


 この子、見た目はかわいいショートボブの女の子だけど、ボクって言ってるし、でもワンピースの民族衣装らしきものを着てるし、実は性別不明のところがあるのだ。


「ああ、そういう伝説もあるらしいですね。この大陸ではサトゥロスはヤギ角の生えた民族のことを指していますから、女性のサトゥロスもいますよ」

「そっか、じゃあ、オルテンシアちゃんも女の子なんだね」

「いえ、ボクは男なんですけど」

「どういうことなの!?」


 オルテンシア君はがっくりとうなだれてしまった。

「実はボクのほこらには女物の服しか奉納されないんです……」

「それは、サトゥロスにおける特殊な信仰か何か……?」

「いえ、おそらくイヤガラセだと思います……。ボクはいじめられてますから……」

 神がいじめられてる? どういうことだ? ほかに兄の神でもいるんだろうか。

「あっ、暗くなっちゃいますね……。ごめんなさい、ボクの話は忘れてください……」

 妙に気まずい空気になったたまま、神殿についた。


「あっ、また新しい神様ですね! すぐにお茶を用意しますね!」

 リオーネ、今日も腰が低くて神様のこっちも申し訳なくなってくる。

「あのね、この子、お酒が飲みたいらしいから、奉納されてるお酒にして」

「果実酒があれば、それで……」

「果実酒でお願い、リオーネ!」


 こうして果実酒にフルーツのシロップ漬けを肴に話をすることにした。

 まず、こちらの要望を伝えておこう。

 土の栄養が足りなくなってきたので、森のほうから肥料になる枯れ葉やいい土があればください、その話をサトゥロスに橋渡しになってください――というものだ。


「残念ですが、ボクでは力不足です……」

 ものすごく寂しそうな顔でサトゥロスは言った。


「力不足ってどういうこと?」

「サトゥロスの皆さんはボクのこと、バカにしてますから……。言うことなんて絶対に聞かないですよ……」


「えっ? もしかしていじめられてるのってサトゥロスになの?」

 人間にいじめられる神なんて前代未聞だぞ。


「話せば長くなるんですが……あっ、果実酒、お代わりいただけますか?」

 すでに三杯ぐらい飲んでいたが、サトゥロスの神ならお酒もよく飲むのだろう。

「はい、どうぞ」

 私がつぐと、オルテンシア君はしゃべりだした。


「もともとボクはごく普通にサトゥロスに信仰されていました。ただ、昔からサトゥロスには豊饒ほうじょうの祭りの時にどんちゃん騒ぎする風習がありまして。あっ、普段も騒いでるんですけど、祭りの時はその三十倍ぐらい騒ぐんです」

「うん、その話は聞いてる」


「本当は森の外でも暮らしていたんですが、騒ぎすぎたせいで森以外で住むことを禁じられたんです」

 そこまでなのか……。

「で、その祭りは無礼講になるんですが、神様にも失礼なことをしていいということで、祠を荒らしまわったり、神像を池に投げ入れたりするんです」


 インターニュが「そういう祭りがある地域もあるようじゃのう」と補足説明をした。わざと神像を池に投げて、神を怒らせて雨を降らそうとする祭りなどは実在する。


「それで、だんだんとその祭りの印象がサトゥロスの中で強くなりすぎて、ボクにイヤガラセみたいなことをするのが普通という習慣に変化していったんです……」

「そういうことか!」

 それはあまりに気の毒だ……。


「なので、今ではサトゥロスの言葉で『オルテンシアみたいな奴』というのは意気地なしな奴を意味する侮蔑語ですし、若いサトゥロスにとっては神ではなくて、昔、恥ずかしい失敗をした同族のことだと誤解している者さえいるようです……。あ、お酒ください」

「飲みすぎじゃない……?」

「酔わないと気をまぎらわせないんです……」

 どんどん酒が進むけど、神が飲みすぎて死ぬことはないから飲ませておくか……。


「ボクがワンピースを着ているのも、女物の服しか奉納されないせいなんです……。これもいじめですね……」

「かなり似合っておるけどなあ」

 インターニュ、それ、フォローになってない。


「話は以上です……。全然尊崇の念を抱かれてないので、今のボクはサトゥロスに話しかけることもできません……。ほんと、何のために存在してるんですかね……。逆にバカにする対象と認識はされてるから、神として存在はできてますけど……」

 かなり暗い話だった。そして、サトゥロスとの橋渡しも絶望的だった。


 どう慰めようか考えていた。

 そしたら、全然違う感情を抱いてる奴がいた。


「おぬし、それで恥ずかしくないのか!?」

 インターニュががくがくとオルテンシア君の両肩を揺さ振る。


「あわわわ、何するんですか……」

「それでも神なのじゃろう? じゃったら、罰当たりな奴に神罰与えるぐらいのことはしてやれ!」

「だって、ボクは力もないですし……」

「自分ができない理由をすぐに考えるな!」


「ちょっと、ちょっと! 無理強いはいけないって!」

 私はインターニュを止めに入る。

「ダメじゃ! こういう気の弱い奴はどっかで強くならんといつまでも舐められるのじゃ! しかも、こいつ、明らかに不幸そうな顔しとるではないか! つまり、現状が不満なのじゃ! じゃったら戦うしかないじゃろ! 強くなれ! 自分を変えよ!」


「でも、どうしたらいいんでしょうか……」

「ニューカトラならサトゥロスの生活圏と目の鼻の先じゃから、おぬしも声を発してニューカトラの民に聞かせるぐらいのことはできるじゃろ。そこで自分が偉大な神であるということをまずニューカトラの者に伝えてやるのじゃ!」


 インターニュの作戦は、まずニューカトラでオルテンシア君の信仰を集めて強くさせるというものらしい。

 それならバカにされまくているサトゥロスのところで挽回するよりは早いかもしれない。しかも、オルテンシア君も変われるかもしれない。


「いいアイディアだよ、インターニュ」

「そうじゃ、もっとわらわを信頼せよ!」


 こうして、オルテンシア君が住人の頭に語りかけることになった。

 神が人に語るというのはなかなかの大技なので、あまり使わないのだが、今回は特別だ。


 ひとまず、ニューカトラで一番にぎわってる通りで声をかけることにした。私とインターニュも同行している。


 よし、住人がすごい神が来たぞと思うようなあいさつをかましてやれ!


「ええと、皆さん、聞こえますか? ボクはオルテンシアと申しましゅ……申します……。ごめんなさい、噛みました……。好きなものは……お酒です……。仲良くしてください。終わりです」


 私とインターニュはずっこけた。


 自己紹介か!


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