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19 気弱な神様

週間1位、本当にありがとうございます! これからも皆さんに楽しんでいただけるように努力します!

 建国祭が終わったせいか、首都ニューカトラはしばらく腑抜けたような空気になっていた。


 人間が腑抜けているのはいいのだけど、それが土にまで及ぶと少々困ることになる。


 農民から作物の収穫量が落ちているという請願が会議の場に上がってきた。


 ちなみに現在の会議は石造りの会議場で行われている。役職も三年前と比べると、もうちょっと整備されている。いろんな勢力やいろんな都市や村の有力者が集まって政治を行っている。


 ただし、最終判断が巫女王であるリオーネによるものであることは変わらない。そういう意味では神権政治的な要素が獣人王国では抜けきってないのだ。


「私の力だけでは、限界があるな……」

 私とインターニュはニューカトラ近郊の畑の土を確認していた。地味が落ちている。これでは収穫量が落ちるのも当然だ。


「よい土を運んでくる必要があるの。ニューワーディーの横を流れる川があるじゃろ。あそこの下流に川の泥が堆積してできた層があるはずじゃ。それを運んでくれば、多少はどうにかなるぞ」

「ニューワーディーからさらに下流って、あまりにも遠すぎるよ。現実的じゃない」

「否定だけじゃなく、代案を出してほしいのじゃ……」


 私に拒否されて、ちょっとインターニュがむくれてしまった。



「ええと……段丘の奥にある森の土とか? あっちのほう、全然、開発が進んでないんだよね」

 実は首都のニューカトラからそう遠くない段丘上の森林地帯には領土が設定されてない。その周辺部分は王国が支配しているが、中心の森は治外法権になっている。それにはとある理由がある。


「あまり深入りすると、サトゥロスの勢力範囲とぶつかるぞ。そろそろ、侵略してやってもよいのじゃがな」


 森のほうではサトゥロスという鹿の角が生えた民族が住んでいる。都市などは作らず、森の中で気ままに暮らしている状態で、これまではあまりお互いに関わらずに生活してきた。


「サトゥロスは獣人よりはるかに肉体的に強いよ。それでに森の中に籠もられたら、まともに戦えないし……もう少し穏便に済ませたいな……」


 そもそもサトゥロスの政治組織がどうなっているかさえ、よくわかっていない。連中はいまだに牧歌的なのだ。


 もっとも、牧歌的とはいっても、弱くはない。でなければ、難民のどこかのグループが森を支配しているはずだ。そういう連中はすべてサトゥロスに追い返されて、段丘から下の砂地に住むしかなくなったというわけだ。


 侵略戦争をしかけること自体は可能だし、そういうことを主張する人間もいるが、森の中はサトゥロスの牙城だ。森に大軍を展開させることも難しく、ゲリラ戦的な攻撃を仕掛けられたら、面白くない結果になる。


 サトゥロスと同盟を結べないかという話自体は過去も今も会議の場で話として挙がっているが、国みたいなわかりやすい機構がないので、話し合うことすらまともにできていない。

 無論、サトゥロスにもいろいろいるので、獣人王国に住んでいる者もいることはいるが、なんとなく移ってきましたというだけで、とても彼らを話し合いのパイプにすることはできない。


 そのため、サトゥロスはニューカトラからごく近いところにいるものの、相互不干渉でやってきたのだ。その逆側へ、逆側へ獣人王国は勢力を広げていった。いつかは解決しないといけない問題でもあるのだが。


 とにかく農業問題は早く解決しないとな。産業の大半が農業なので、それが打撃を受けるのはよろしくない。


 そんなことを考えながら、インターニュと歩いていた。一般人にはまったく見えていないが。


 ふと、妙な気配を感じた。


 これは神の気配だ! セルロトと最初に出会った時の感覚ととても近い。

 もっとも、あの時のような禍々しいものとは違う。むしろ、気付かずに通りすぎてもおかしくないほどにさりげないものだ。まるで、最初からこの世界と一体化しているとでもいったような自然さ。


「インターニュ、このあたりに神がいるよ! 少なくとも高次の精霊的な何か!」

「むっ? しかし、どこにおるのじゃ? 周囲にそんなものは見えぬが……」

「イヌ耳だと、鼻がきいたりしないの?」

「おぬし、犬人族をバカにしとるじゃろ……。犬ほど鼻がきいたら、実生活で支障きたすぞ……。だいたい、神ににおいとかないし」


 たしかに腐ったタマゴのにおいがする神とか嫌だな。


 けど、このあたりにいるのは間違いない。


「助けてください……助けて……」

 頭上から声がする。


 見上げると、パンツがあった。


 どういうことかというと、ワンピース姿の誰かが木に引っかかっていたのだ。その結果、自分の真上にパンツがあるというなかなかショッキングな光景となった。


 人間の中にはパンツを見るとうれしい性癖の者もいるというが、真下から堂々と見ると、正直言って異形で、あまり思い留めたくないものだった……。


「あなた、もしかして神なの?」

「はい……木に頭が見事に引っかかりまして……ほんとボク、何をやってもダメですね……消えたほうがいいですね……はぁ……」

「死にたいのか、助けてほしいのか、どっちかにして。あと、頭が引っかかるって、どんだけ頭デカいの?」

「ああ、語弊がありましたね……。頭ではなく角です……」


 少し横にズレて見上げると、とてつもなく立派なヤギみたいな角を二本生やした神が引っかかっていた。それとヤギみたいな尻尾がお尻から生えている。足はほかの獣人のように人に近いものだ。見た目はこの地方に住むサトゥロスに近いが……。


「いくら、サトゥロスでもあれほどの角は生えておらぬぞ。神の仲間で間違いないじゃろう」

「そうみたいだね。ひとまず助けよう」


 私達は浮かび上がって、その子を救出した。角の割に本人は小さくて、せいぜい十二、三歳といったところか。


「ありがとうございます……。ボク、オルテンシアというこの近所の森一帯で信仰されている者です……あまりいじめないでくださいね……」

「別にいじめたりなどせんが、おぬし、なんで木に引っかかっておったのじゃ?」


「ボク、サトゥロスに信仰されていまして……彼らってお祭り好きじゃないですか。ボクもこちらで建国祭というのがあると聞いて、それで楽しみに降りてきて、木の上でお酒を飲んでました。それで落ちて引っかかって、十日間、ぶらぶらしていたんです」

 十日もか! 想像以上に悲惨な目に遭っていた……。


「それは災難だったね。じゃあ、またね――いててっ」

 インターニュにほっぺたを引っ張られた。

「何が『じゃあ、またね』じゃ。せっかくサトゥロスに信仰されてる神格がおるんじゃから、土のことでも頼め!」

 そうだった。これぞ、僥倖じゃないか。


「ねえ、オルテンシアちゃん、お姉さんたちとお話ししない?」

「お酒ありますか?」

「お供えのお酒ならあるけど」

「だったら、行きます……」


 弱々しくオルテンシアちゃんはうなずいた。

新しい神様の登場です! 次回もよろしくお願いします!

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