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邪神認定されたので、獣人王国の守護神に転職しました  作者: 森田季節
邪神認定の神、王国の守護神になる。
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1 守護神の初仕事

 リオーネは感動したのか、涙まで目にためていた。そして、その涙はすぐにぽたぽたと垂れはじめた。


「ありがとうございます! 私、生まれてきて今日が一番うれしいかもしれません! 神様に会えるだなんて!」


「そうね。私も実のところ、実体化ができるとは思っていなかったわ。こんなの信仰心が現代と比べ物にならないほど厚く、かつ熱かった二千年ぐらい前のことだと思ってたのに……」


 当時、まだ人々は神をとことん本気で信じていた。なので、神が直接、人と話すことなども珍しくなかった。


 それが弱まると、神を本気で信じている聖職者や巫女に対して、神託や啓示を与えるのがやっとになり、さらに弱まると、せいぜい飢饉や洪水のスケールを小さくとどめるとか、対症療法みたいなことしかできなくなった。


 そうなると、いよいよ神様のことをガチで信じる人もほぼいなくなり、最近では信仰する人間の少なかった神がどんどん消滅しているぐらいだ。


 なのに、リオーネの心が清らかで、誠意に満ちていたために、私は千五百年ぶりぐらいにはっきりと姿を見せることができた。


「はっきりと言うわ。あなたの心はこの国のあらゆる宝石より美しく輝いている。どうか、その心が濁らないように気をつけなさい。神は人の信仰心が弱くなると、ぱたっと力も発揮できなくなるものだから」


「はい、わかりました、女神ファルティーラ様!」

 元気に笑うリオーネ。しかし、すぐに顔が曇る。


「あの……申し訳ないのですが、この集落には女神様をお祀りする立派な神殿もお堂もありません……。罰当たりなことをお許しください……」


「なんだ、そんなことか。それなら問題ないわ。神が求めるのは信仰心だから。もちろん信仰心の結果、立派な神殿を造ったなら意味もあるけど、それが富を誇示するためのものだったり、権勢を知らしめすためのものだったりしたのなら、本当に何の効果も発揮しないから」


 正直、捨てられていた身からすれば、拾って洗ってもらえただけでもありがたい。


「あなたは育ち盛りでしょ。今日はもう夜だし、寝なさい。明日、あなたのために力を使ってあげるわ」


「ありがとうございます、女神様!」

「ああ、せっかくだからファルティーラと呼びなさい。あなたが神名を知っていることが、周囲にも説得力を持つかもしれないから」

「わかりました、ファルティーラ様!」


 こうして、リオーネはベッドに入って眠った。


 リオーネが眠ると、私は集落の調査に出かけることにした。実体があると、こういう時、便利だ。

 なお、見られたくない相手には見られないようにできるので、リオーネ以外に目撃されることはない。


 適当な住人の枕元に立って、記憶を読み取る。


 彼らはここから百五十エルタナほど離れたところに住んでいた獣人たちだ。なお、百五十エルタナは徒歩四日ほどの距離だ。

 そこには獣人の小さな独立国が点在していたが、ガルム帝国という人間の大国家に侵略されて次々に滅ぼされていった。彼らは住める場所を探して、この痩せた辺境の土地まで逃げてきたらしい。


 もともと住んでる人間もほとんどおらず、ここだけが彼らにとって定住の許された土地だった。


 だが、近くにある山の恵みは知れており、土の質も砂っぽくて、まともな作物は育たない。交易できるような布製品や金属加工品を作る技術だって持ち合わせていない。

 結果、寒村という表現が見事にあてはまるほどに貧しい生活を続けている。


 栄養状態も悪いから疫病でも入ってきた途端、大半の住人が発症して、滅ぶだろうな。


 そんなことはさせない。少なくともリオーネという信者は守らないと。


 今度は土地を移動する。

 歩かなくても、私は高速で周囲を空中浮遊できる。ただし、信仰心によってその移動範囲は決まる。


 さっき、リオーネが洗ってくれた水を考えても、水もろくなものじゃないな。地下深くには水源があるかもしれないが、そういう深い井戸を掘る技術も持ってないようだ。


 三十分ほど歩いたところで段丘にぶつかった。ごつごつした石の壁みたいになっている。今のところは移動できるのはこのあたりまでだ。


 よし、まずはここからどうにかしてあげよう。



 翌朝。

 まだ朝四時半時ぐらいに起きたリオーネは早速私の神像に向かって、手を組んで祈った。

 

「どうか、私達をお守りください……」

「うん、そのつもりよ」

 私はすぐに彼女の前にまた姿を現す。

「わあああ! ファルティーラ様!」


「それにしても早起きね。まだ空は暗いぐらいだけど」

「これぐらいの時間から水汲みにいかないといけないんです……。このへんはろくな水が出ないんで……」

「わかったわ。それを解決してあげましょう」

「えっ? 神の奇跡をお起こしになられるんですか!?」

 リオーネの耳がぴんと立った。ネコ耳獣人の中でも耳がけっこう長い種族らしい。


「奇跡というほどのことじゃないな。どっちかというと神の叡智? 鍬や鋤を持っていってね」


 私はリオーネを段丘の岩肌にまで連れていった。


「ここに何があるんでしょうか……?」

「このあたりを岩を取り除いて、よく掘って御覧なさい」


 私が手を貸すこともできるけど、やりすぎると人間の信仰心って急激に下がるので、手を貸しすぎないのが重要だ。

 たとえば貴族に産まれて贅沢ができる人間は、それがものすごく幸せだとは考えない。満ち足りるとなんとも思わなくなるのが人間だからな。


「えいっ! えいっ!」

 細い腕で頑張ってリオーネは石や土をどけていく。

「大変だろうけど、お日様が高くのぼるまでには必ず終わるわ。努力しなさい」

 一時間半ほど、それが続いただろうか。

 すると――


 透き通ったきれいな湧水がごぽごぽと勢いよく出てきたのだ。


「すごいっ! こんな澄んだ水がここにあったんですね!」


 リオーネが歓声をあげた。

 それから手で水をすくって飲む。

「すごくおいしいです! 土っぽさもまったくありません!」


「段丘の下にはね、湧き水が集まってくるのよ。その水脈を見つければ、水は比較的簡単に得られるの。しかも自然の力で濾過ろかされた、おいしい水がね」


 これで、水の問題は解消されただろう。

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