18 パレードと誓い
週間1位本当にうれしいです! これからも努力します!
「ところで、ファルさんはこの国では珍しく獣人ではない方ですね~」
司会の人に話を振られた。
「ええと……実は私、ほかの大陸の出身なんです……。それで数年前にこっちの大陸に移ってきました……」
ウソは言っていない。
ぶっちゃけ人間に対して神が明らかなウソをつくということはあまりしたくない。
「では、皆さん、ここで何かアピールポイントがあればよろしくお願いします!」
「そうですね、獣人王国の発展に向けて、これからも頑張ってください」(私)
「もっと、インターニュの神殿にたくさんの供物を捧げるべきであるな」(インターニュ)
「セルロトの神殿もよろしくお願いいたします。ただし、獣の死体を捧げるようなことは腐敗の原因にもなるので、すぐにお片付けください。アブラゲという異大陸伝来らしい食べ物を所望します」(セルロト)
私以外の神がちっとも自重しない件について。
観衆から「奉納する~!」という野太い声が聞こえてきた。
「いや~、本当に神になりきっていらっしゃいますね! エントリーナンバー8番の皆さんでした! ありがとうございました!」
控え室でインターニュが「これ、もしかして実体化して男達に奉納をせびればいくらでも貢がせることができるのではないか?」とか言い出した。ダメに決まってるだろ。
「わたくしに名案があります。信仰証明符というものを発売するのです。そして十枚買った人間は、神の化身を名乗るわたくしたちと握手ができるというシステムにするのです。これ、売れませんかね? きっと儲かると思いますよ」
「そこの商業の神、ちょっと黙ろうか」
そのあと、私達はぶっちぎりで優勝して、獣人王国最高の美少女三人組という栄誉をいただきました。
なお、優勝者の肖像画は国の画家によって写実的に描かれた後、神殿に奉納されるらしい――って、それって自分の絵が神殿に飾られるってことじゃん!
「まあ、供物を増やすようにアナウンスする機会があってよかったわい」
「ですね。こうやって多人数に支持されるのも悪くはないです」
この神たちには、多少は遠慮という概念を教えないと厄介なことになりそうだ。
さて、次第に日も暮れてきた。
「そろそろ、パレードの時間じゃな」
「パレード?」
「巫女王がニューカトラの目抜き通りを大きな台車に乗って練り歩くのじゃ」
「へえ、そんなこともするのか。本当にお祭りのこと聞いてなかったんだよね」
「じゃから、お前も乗ってやれ」
にやっとインターニュが笑った。
「お前がおってこその巫女王リオーネじゃろうが。ほかの者に見えぬように姿を隠してリオーネの横についておいてやれ」
「そっか、わかった!」
インターニュの言うとおりだ。リオーネの存在意義は私が横にいるかどうかで変わってしまう。私にはリオーネの価値を高める義務がある。
「ああ、それとじゃが、今日がお前とリオーネにとっては何の日に当たるかも考えておくようにな。リオーネがお前にあまり建国祭について言っておらんかったのも、きっとそれが理由じゃ」
「??? どういうこと?」
「鈍い奴じゃな! お前はこの国の守護神であると同時に何じゃ?」
それで自分はやっと意味がわかった。
「もしかして、リオーネが建国記念祭のこと、あまり私に事前に言わなかったのもこれが理由……?」
「あてつけになるのも変だし、自発的に気付いてほしいってあの娘は言っておった気もするが、どうじゃったかの。きっと、何かの記憶とわらわが混同しておるのじゃろう」
本当に忘れるところだった。
「行ってくる!」
神殿の前には台車の上で待機しているリオーネがいた。
「ごめん、遅くなったね!」
「あっ、ファルティーラ様、来てくださったのですか」
目が合った瞬間、リオーネがとても安心したような顔になった。何も言っていなかったけれど、私を待っていたんだ。
「パレード、私もリオーネのそばにいるよ。もちろん、ほかのみんなには見えないようにしてる」
リオーネの後ろにはお付きの見習い巫女が何人もいるが、彼女達には私の姿は見えていない。当然、ほかの一般人にも。
そして、パレードは始まった。
「巫女王様!」「巫女王様!」「巫女王様万歳!」
国民が王を讃える。そう、ボロボロでバラバラだった獣人の難民達はこのリオーネを核にして再び集まったのだ。賢明な若き巫女の指導者という「顔」は、獣人に夢と希望を見せるのに十分な力を持っていた。
わずか三年前まで獣人達は小さな集落で細々と暮らしていた。そこには連帯という意識も、同じ国民だという意識も、何もなかった。それをまとめたのはリオーネの力だ。リオーネだけの功績ではないけど、リオーネも本当に努力した。
国内にいくつもの村を新たに作り、灌漑を指導し、道を作った。貨幣についてはいろんな地域から巡ってきたものがごちゃごちゃに流通してるけど、これも近いうちに作られるだろう。
「実は、今回のお祭り、国民からたくさん要望があって実現したんです。お祭りをすることで獣人を救ってくれた神様達を讃えたいと」
高いところから見たので、はっきりとわかった。屋根の上に「慈悲のファルティーラ様」「勇気のインターニュ様」「ありがとうございます」「我々はこれからも力強く生きていきます」といった文字が書かれている。
これは建国を祝うだけじゃなくて、私達神々への感謝を告げるものでもあるんだ。
「ありがとう」
私はそっと、リオーネの手に手をかぶせた。
「それから、よくやったね、リオーネ。あなたは素晴らしい王だよ。獣人王国はこれからも発展する」
「いえ、私はファルティーラ様の声に従ったまでです」
リオーネは謙遜して、きっとそう答える。それはわかっていた。
王としてのリオーネはそう答える。
だから、後ろからそっと抱きしめて、言った。
「結婚三周年だね。旦那としていい格好はできたかな?」
「お、覚えててくれたんですね……」
リオーネの言葉はちょっと涙ぐんでいた。
「これからもよろしくね」
「はい、喜んで……」
ずっとリオーネが国王として務めを果たせたのは、彼女が真面目なだけが理由じゃない。
神婚の儀を行った私のことを、パートナーとして信じてくれていたからだ。夫婦、先輩と後輩、親友――関係性の言葉はこの際何でもいい。私と共に歩いていこうとリオーネはあの日から誓って、ついてきてくれたのだ。
そんな健気な奥さんを私はねぎらってあげる必要がある。
「つらかったら、旦那役に言うんだよ。国王を続けるなんて、普通に考えて大変に決まってるんだから。しかも、まだまだ国が幼くて制度が固まってないことばかり。試行錯誤で決めていかないといけないことばかり。人間一人で背負えることじゃないんだから」
「大丈夫です。ファルティーラ様に出会った日から、これは運命だと思ってますから」
歓声が大きいから、私とリオーネの声は民衆には聞こえない。聞く意味もない。これは夫婦の間の会話だからだ。
「うん。でも、旦那に甘えるのも妻の仕事なんだよ」
「じゃあ……あとで膝枕してもらってもいいですか……? もう、ずっと長い間、してもらってなくて、だけど、なぜか夢でたまにお母さんが出てきて……」
リオーネの両親は彼女が若い頃に戦争が元で亡くなっている。私はそのことを、いつか、ちょろっと聞いただけだ。そのことで彼女はまともに泣き言を言ったこともない。
そこまで健気だと疲れるよ。私はリオーネのよりどころになりたい。
「いくらでもしてあげるよ」
パレードは混乱もなく、終わった。私とインターニュの神殿でも国の発展を祈る儀式が行われた。当然、私がいた大陸のものとは似ても似つかない。それでも心はこもっていた。
その日、私の膝でリオーネは眠った。
いつも、懸命な感じのリオーネだけど、寝顔はもっと安らかでやわらかだった。
ゆっくりと休んでね。
私は神託を宝石商のところに出して、巫女王に神婚三年を祝う指輪を献上するようにと伝えた。
これが私からのささやかな結婚三周年記念のプレゼントです。