17 お祭り満喫
週間1位ありがとうございます! これからも努力します!
「うわあ、すごい美少女だぞ……」
そんな声が聞こえてきた。
振り向くと、獣人じゃない人間の若者数人がこっちを見ていた。
「マジで三人とも美しすぎる……」「俺、イヌ耳の子が一番好みだな……」「俺は人間の子かな……」「じゃあ、キツネ耳の子は俺がいただくことにする」「まあ、全員かわいすぎるんだけどな」
なにやらしょうもない話をしているな。
「あれ? インターニュ、普通の人間の住人ってそんなにいたっけ?」
「祭りなのじゃから、遠方からも来るじゃろう。北には帝国があるし、南にはラフィエット王国もあるじゃろ」
なるほど。祭りだから、いろんなところから人が来てるんだな。
「しかし、三人とも神々しいよな……」「うん、あの美しさは神レベルだって」「神確定」
ある意味、ばれてる!
「声かけることすら無理だな……」「諦めよう……」「ていうか、ニューカトラって美少女率高くね?」「マジでラフィエットから引越そうかな……」
そんなことを言いつつ、男達は消えていった。
「どうやら、顔で神とばれなくても見た目で目立ってしまうようですね。これはこれでよいですが」
そう言っているセルロトの前に貴公子風のネコ耳の男が「お嬢さん、もしよろしければ、一緒に歩きませんか?」とナンパしていた。なお、獣人の種族が違うとしても恋愛感情などはごく普通に抱くことはある。その場合、生まれてきた子供はどちらかの親のものになるらしい。右耳がウサ耳で左耳がネコ耳みたいな生まれ方はしない。
「それぐらいなら、よいですが」
OKしちゃってるよ、この神!
「本当ですか! 屋台おごりますよ!」
「いえ、そんなものより、もっと大きな代価を支払っていただきた――」
私はあわててセルロトの手をとった。
「ごめんなさい! 私達、この子と回ることになってるから!」
ふう、危なかった、危なかった……。
「人間と歩くのは禁止! それと、何を代価で求めようとしてた?」
「お祭りを一緒に回る程度なら二つの目をいただくぐらいで」
「重すぎるでしょ!」
「神と語らいながら祭りを見物するのですから、安いものではないですか?」
割と素でセルロトは言っていた。この子にとって、人間の命とか存在ってその程度の価値らしい。そういう考え方も神もいる。
「あなたのことは、念のため、今後も監視していくから……」
そんなことをやっている後ろでは、インターニュが串焼きの店でなにやら話していた。
「なあ? 今日は財布を忘れてしもうてのう。これ、一本、神へのお供えみたいな意味合いで譲ってくれんかのう? わらわの一生のお願いじゃ~」
「こらこらこら! 店の迷惑になるでしょ!」
私はインターニュのイヌ耳を引っ張った。
「痛い痛い痛い! 耳を引っ張るのはやめよ!」
「あなたねえ、そういうのは供物で食べなさいよ!」
「おぬしは祭りの楽しみを何もわかっておらんのう。こういうのは祭りの時に食べるから美味いのじゃろうが」
「いや、あなたが全力で祭りを謳歌してどうするのよ……」
この調子だとそのうち身バレするぞ……。
「本来、祭りとは人が楽しむものではなく、人が神を楽しませるために奉納するものですから、インさんのおっしゃること自体は妥当です」
「うむうむ、セルロトはわかっておるのう。しかし、インさんっていうのはなんじゃ! 前はインタまでは言っておったじゃろ! なんでさらに省略が進んでおるのじゃー!」
このメンバーで動くの、想像以上に面倒くさいな……。
そのあとも私達は祭りの中を移動したが、とくに男子から熱視線を浴びた。やっぱり神様って容姿的にも目立つんだな……。長らく祭りの中を歩くなんてことしてなかったからな……。
「こんなにも注目集めるとは思ってなかったよ……」
神様は耳がいいので、「さっきの子、マジかわいい」みたいな声がかなり聞こえてくる。
「神が注目されて何が悪い。堂々としておればよいのじゃ」
「別に人間が少々騒ごうと微笑ましいではないですか」
ほかの神は案外と気にしていないらしい。私が神経質すぎるのだろうか。
だけど、こういう人間に近い目線で町を見るというのもいいかもな。祭りだから浮かれてるのもあるだろうけど、みんな幸せそうな顔をしている。
この祭りをやっている人の大半は、ほんの数年前まで未来が見えないような環境で生きていた。大半が暗い顔をしていたはずだ。
それがこんなに笑って、祭りを楽しめている。
私は神として正しいことをやれている。これからも、この獣人王国の人々が笑顔でいられるような国づくりを目指そう。
いや、正確には「国づくりを見守ろう」だな。やるのはあくまでもリオーネをはじめとする獣人のみんなだ。
――と、垂れたイヌ耳の女の子が私達の前に走ってやってきた。女の子といっても二十歳ぐらいの年恰好だけど。
「すいません! もしお時間がございましたら、皆さんに是非来ていただきたいのですが! お時間はそんなにとらせませんから!」
なんだ、なんだ? 女性だからナンパではないようだけど……。
「ふむ、よかろう。わらわは祝祭を骨の髄まで楽しむつもりじゃ」
「それでは、わたくしもご一緒しましょうか」
この二人の神といると多数決で負けてしまう。私もよくわからないまま、連れていかれることになった。
向かった先は仮設の舞台の後ろだ。
「あの、いったい、これ何なの?」
連れてきた垂れたイヌ耳の子に聞く。
「コンテストです」
何のだ?
よくわからないまま、私達が舞台の上に上がる番になった。
上がった途端、とんでもない大歓声が起きた。それと、これまでにないほどの強烈な視線。舞台の上からは、数百人はいるんじゃないかという観客がこちらを見つめているのがよく見渡せた。
おいおいおい、これ、衆人環視もいいところだぞ……。
ちらっと後ろの看板を見た。
<まちかど美人コンテスト>
これまで浴びた視線の集大成みたいなことになってる!
「はい、エントリーナンバー8番は三人組のこの方達です。候補を探していた女性スタッフも思わず目が釘付けになったそうです。では、順番にお名前を伺っていきましょうか」
司会者が話を進めてくる。ここはひとまず偽名で答えるしかないな……。
私はひとまず「ファルです……」と答えておいた。「神様のファルティーラです」とは紹介できないからな。
「わたくしはセルロトです」
「インターニュじゃ」
おい! 神名を名乗るな!
「なるほど! 女神の名を名乗れるほどに美しさに自信がおありということですね!」
よかった、無難に解釈された……。