16 建国祭
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近頃、ニューカトラの町がかなりにぎやかになっている。
着実に人口は増えているのだけれど、そういうにぎやかさとは違うのだ。もっと、こう華々しい感じのものなのだ。
わからないので、リオーネに尋ねてみた。
「ああ、それはお祭りですよ」
「お祭り?」
「はい、建国記念祭を今年から建国記念日にやろうと思いまして!」
そういえば、お祭りという概念を私は失念していた……。神様なのにそれはどうよと思う。
でも、国ができたばかりの頃はそんな余裕もあまりないわけだから、そこは許してほしい。大きな権力者が広大な土地を征服して作った国というのではなくて、ちょっとした村が国を名のったところからスタートしているのだし。
「現在、ニューカトラの人口は三千五百人ほどと言われています。大都市とはまだ言えないですけど、お祭りをやるぐらいには充分かなと」
「えっ、そんなに増えてたの?」
たしか私が村に来た頃は、ちょっとした集落ってレベルだったはずなのに。増えている印象はあったけど、そこまでとは……。
「あ~。村の面積自体が外部に拡大してますから、それで人が増えたのがわかりづらいのかもしれませんね。農地も多いのでそんなに人でごみごみしてませんし」
そうか、都市面積のほうも外へ、外へと伸びてるもんなあ。旧集落と今のニューカトラの町では、もしかすると十倍ぐらいの違いがあるかもしれない。
「このあたりの地域はどこも作物がとれずに苦しんでましたからね。そこでこのニューカトラだけがたくさん作物を生産してるわけですから、人が集まってくるのも自然な流れですね」
「うん。私も手伝った甲斐があるってものだよ」
現在では何十種類という作物が広い畑に植えられてるし、二毛作や三毛作をやっている畑もある。中には大陸でも珍しいものもある。
たとえば、ラディッシュは野生の物を私の力で改良した結果、小指みたいなサイズだったのが、太腿みたいな太さにまで成長するようになった。ビッグ・ラディッシュとして旅人に驚かれているぐらいだ。
水のほうも都市の中に湧き水の水路を引く工事を行っていった結果、きれいな水の町にできている。
もちろん私のような神側の頑張りだけじゃない。リオーネも政治に全力で取り組んでいる。その名前は「英明な巫女の王」として獣人王国の外部にまで伝わっているという。その噂を聞いて、やってくる商人の数も増えてきた。
リオーネはもともと働き者だったけれど、それが上手くかみ合っている。
現時点ではニューカトラ獣人王国は理想的に成長していると言っていい。
「なので、そろそろお祭りもぱぁ~っと開こうかなと思っているんです。だ、旦那様を讃えるイベントもやりますから……」
「別に無理して旦那様って言わなくていいよ……」
いまだにリオーネはファルティーラ様と呼ぶ合間に旦那様と言おうとする。
「私は巫女王ですから……。つまり、神の妻なんですから、そ、その自覚を持ちたいなと……」
「それ、形式的なものだよ? 女同士なんだし、違和感あるならファルティーラでいいよ?」
「違います……形式的だからこそ、形式をおろそかにしちゃいけないんです……。巫女王がそこを適当にしたら、ほかの巫女にも示しがつきません……」
「なるほど……。わかった。リオーネなりの挑戦なら止めはしないよ」
「はい、努力します! それで……ファルティーラ様も、旦那様として、機会があったら妻をねぎらっていただけるとうれしいなとか……。私も丸三年やってきましたから……」
「ん? 何かほしい物でもあるの?」
「い、いえ……。物ではないんです! やっぱり今のは忘れてください!」
そこにインターニュとセルロトがやってきた。同僚といえば同僚なので、この神殿でよく集まる。
「見回り終了じゃ。今日もとくに問題なしじゃな」
「へえ、町の巡回をしてるのか。あなたたち、偉いね」
「いいや、お供えがちゃんと置かれておるかのチェックじゃぞ」
「偉いって言って損した!」
この神はマイペースすぎる。
「なんでじゃ。奉納された物の量で信心をはかることもできるじゃろ。大切な仕事じゃぞ。置いてあったお菓子、なかなか美味かったのう」
すぐにお菓子の話をされたので説得力がない。
「わたくしの祭壇にもお供えがありました。しかも、たいそう美味なものでしたよ。異国のもののようですが。アブラゲと言いましたかね。香ばしさと豆の味が重層的に絡み合って素晴らしかったです」
セルロトは少しうっとりしているから、よほどおいしかったのだろう。まったく聞いたことのない食べ物だ。
今のところ、セルロト信仰もそんなに邪悪なことにもなってないようで、商業の神様ぐらいのゆるい位置づけになっている。これ以降もそんな感じでお願いします。
「建国祭は盛大に行われそうじゃの。よいことじゃ、よいことじゃ」
「インターニュは知ってたんだね。私、知らされてなかったんだけど」
「そ、そうか……。まあ、祭りなど人間が自然発生的にはじめるものじゃからよいじゃろう……」
何かインターニュが隠しているようだけど、別にいいか。どうせしょうもないことだろう。
「おふた方、せっかくですし、お祭り当日は人に紛れて町をそぞろ歩くことといたしませんか?」
セルロトがなかなかいい提案をしてきた。
「そうだね。人間のお祭りなんてすごく久々だし」
●
お祭り当日、私達、神三人は人間の姿に実体化した。といっても、いつもと顔を変えたわけでもないので、そのまま誰にでも見えるようにしただけなのだが。
神の顔など見た途端にわかる人間など存在しないので、ばれることもありえない。これでまわるとしよう。
「国によっては神がうろつく時は顔を見られないように仮面をかぶるところもあるというが、わらわたちはこれでよいかのう」
「仮面かぶるほうが目立つでしょ。このままでいいって」
「お昼から想像以上ににぎやかですね。こんなに出店が出ているとは」
たしかに通りの両側には、いつもの店舗はもちろんのこと、そうじゃないところにもいろんな屋台やバザーが並んでいた。町人や農家が祭りの日だけ店を出すことにしたらしい。
「街並みも整備されてきたな。石造りの建物が増えた印象あるし」
「それはわらわを信仰するワーディー王国の者達のおかげじゃな。ワーディー王国は石造りの建物が多かったからの」
インターニュが胸を張っているが、実際そうなのだろう。
難民になってからは大きな石切り場を作ってる場合でもなかっただろうし、集落の近くに石が取れる場所もなくて、元々ニューワーディーにも石の建物は全然なかった。
けれど、ニューカトラ獣人王国に併合されて、石を産する土地も国土に入ったことで、再び昔の技術が生かせるようになったのだ。
インターニュが言うには軽石の凝灰岩がとれる小さな谷が見つかったという。国土が広くなってきて、景色のきれいな渓谷みたいなところも勢力範囲に入ったなと思ったのだけど、ワーディー王国の民からすると、それ以上の価値があったらしい。
結果として、首都ニューカトラの重要な建物には石造りのものが増えてきた。都市としての風格もかなり出ている。
「ほんとにちょっと手を貸しただけで、こんなにいい町になるんだね。故郷で最初に町ができた頃のこと、思い出しちゃった」
若い町には規模の大きいだけの町とは違う華やかさがある。見ていて、なんとも気分がいい。ついつい感傷的な気分になってきてしまった。
――と、やけに視線を集めているのを感じた。
おかしいな……。神だとばれるわけがないのだけど……。
「うわあ、すごい美少女だぞ……」
そんな声が聞こえてきた。
ちょっとシリアスに振ったので、ほのぼのしたことを書きました。今日も2回更新目指します。夜の更新予定です。