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13 邪神攻略

話が続いているので、前の話に続いて更新速めました。

 私は困惑した。このセルロトという神の信仰心、明らかに強い……。


 信仰している人間の数は知れているだろうけど、その分、それが秘密結社的なものだから、信者一人一人の力信仰心がとんでもないのだ! 素朴な信仰心を集めたものとは質的に違う!


 セルロトを追い抜いて先に進みたいのに、彼女が壁を作って、移動を妨害してくる。


「あまりうろちょろとされると、鬱陶しいですので」


 ついには体すら金縛りに遭った!

 インターニュなんかは「う、動けんうえに浮けぬ!」と墜落して沙漠の中に埋もれていた。 

 そんなバカな……。どんな信仰の力を持っているんだ……。


「罪のない民が奴隷にされようとしてるのよ! 通してよ!」

「そもそも、罪の定義とは何なのですか? それならあなたが信仰されている国家では罪悪がなかったとでも言うのですか? 神の存在とは正義を貫くものだけではないでしょう」


 それは正論だ。そもそも、私も戦争の時に信仰されることだってある。そこで人殺しは悪ですなどと言っても何も始まらない。


 だからといって、このまま黙っていていいということにはならない。

 なんとしても通してもらうからね……。


 金縛りになっている手を動かそうとする。


「無駄ですよ。こんな沙漠地帯ではあなたの信者の人口密度も限りなく小さいでしょう。誘拐された者も諦めたのか、はたまた疲れたのか、たいして今は祈れていないようですし。これが首都ニューカトラならあなたたちの勝ちだったかもしれませんが」


 セルロトは私のほうに近づくと、こちらの髪を手でもてあそぶ。


「実に美しい髪ですね。ご立派な女神ではありませんか。ただ、少し条件が悪すぎましたね」

「バ、バカにしないで……」

「信仰されていない者が侮られるのは神の世界の摂理ですよ」


 と、その時、手の自由が急にきいた気がした。


「ファルティーラよ! わらわがお前を信仰してやる! だから、そのいけすかんキツネ神をぶちのめせ!」


 インターニュが沙漠から体を起こして、両手を握り締めて祈っていた!


「神であるわらわの信仰心じゃぞ! そいつを退けるぐらいには足るじゃろう!」

「ありがとう! インターニュ!」


 私は自由のきいた手で――思いきりセルロトの胸を殴りつける。


 どっかに行け! これが獣人王国守護神の一撃だ!


 しかし、セルロトは涼しい顔をしている。


「痛くはあります。ですが、それだけですね。わたくしを排除するほどではない。この勝負、わたくしの勝ちです」


 くそっ! くそっ!! 大切な信者が奴隷にされようとしてるんだぞ! 何か方法はないのか? これでも守護神なんだろ? 獣人王国を発展させていくんだろ?


 何か方法があるはずだ。必ずあるはずだ。


 この邪神は代価によって力を得ている。邪神なら邪神なりの攻略法がある。何か、何か!


 これは守護神のプライドを懸けた戦いだ。


「ファルティーラ! これが何かの役に立つかもしれん! 使え!」

 インターニュが私に投げてよこしたのは、聖別されたナイフ。小さなナイフだが、もし人間が使えば、すぐに勇者と讃えられるだけの力を秘めている。


「ほう。それでわたくしを刺せば、たしかにわたくしの力は一時的に衰えるでしょうから、隊商を追いかけることぐらいはできるでしょうね。しかし――あなたの力でそんなことが可能でしょうか?」


 瞬時にセルロトはずっと先まで移動したかと思うと、また、私の真ん前に現れた。


 私の移動などよりはるかに速い。現時点でこの空間でセルロトと私の差はあまりにも歴然としている。


「あなたもご存じでしょう。神同士の争いとはつまるところ、民の信仰心の争いなのです。あなたご自身がどれほど気概を見せようと何も変わりません。諦めてください」


 この知ったような口をきかれるのがムカつく。


「あなたを信仰する民が奴隷になるといっても、たかが知れている数です。それで国が揺らぐわけでもなんでもない。そのうち、また民も増えますよ。今回はわたくしに勝ちを譲っていただけませんか? わたくしの敬虔な信者の勝ちということで」


 もう、こいつとは一生友達になりたくないな……。


「じゃあさ、あなた、信者が無茶苦茶な極悪人でも大嫌いな奴でもその手を貸し続けるってわけ……?」


「ええ。たとえその信者が狐人族の滅亡を企てていようとも、わたくしは力を貸すでしょう。それがわたくしセルロトの存在意義ですから」


 ごく自然な態度でセルロトは言った。邪神とはいえ、これだけ信仰されてる理由もわかる。ものすごく、この神は一貫している。筋が通っている。信仰する者も気持ちいいだろう。


 待てよ?

 この神が信仰する者を守るとしたら?


「さあ、そのナイフでどうなされますか? わたくしを刺すために努力しますか? その行動自体は止めはいたしませんが」


「ううん。もっといい方法を思いついたから、それで使う」


 私はセルロトの曇りのない瞳を見据えて、言った。


「セルロト、私は今からあなたを信仰する! だから私のために動きなさい!」


 さすがのセルロトも虚を突かれたようになった。


「信仰する? しかし、神であるあなたがいったい何の代価を?」


 私は自分の長くて美しい髪をナイフでばさっと切った。


 一気に肩にかかるぐらいまでの長さになっちゃったな。まあ、いいけど。


「女神である私の髪を捧げるわ。まさか人間の腕の血より価値が低いとは言わせないよ!」


「くっくくくく……あっははははは!」


 セルロトが声を立てて笑った。


「なるほど! その発想は考えていませんでした! わかりました! 女神ファルティーラの願いかなえましょう!」


 そう言うと、さっと荷馬車が向かった方向にセルロトは飛んでいった。


「ついてきてください!」


 私が向かったところでは、隊商も馬もすべてが金縛りになって動けなくなっていた。中には沙漠に投げ出されている者もいる。


「この者たちの自由を奪いました」


「ありがとう。邪神だけあって威力は抜群ね」

「狐人族の害になろうと、そんなことは関係ありませんからね」


 それからセルロトは荷馬車の中に入り、縛られているイヌ耳とネコ耳の住人の縄を解いた。解いたというか、セルロトが触ると、勝手に縄がほどけたのだが。


「えっ……キツネ耳の女神様……?」

 どうやら人質だった子にはセルロトの姿が見えるらしい。この神は人に姿を見せるのをあまり気にしないようだ。

「女神ファルティーラが自身の髪を代価にして、この女神セルロトに救出を願いました。それに応えた次第です」


 そして、ぱっとセルロトはかき消えた。


 無事に人質事件は解決したらしい。

国の危機、どうにかなりました。次回もよろしくお願いします!

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