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12 どう見ても邪神

 情報を整理すると、以下のようになる。


 キケ村という獣人王国でも北部の端にある小さな村に狐人族の隊商がやってきた。宿泊したいということだったので、空いている家にそれぞれ泊まってもらおうかなどという話を村でしていた時だった。

 彼らがいきなり武器を持って、村人を脅しはじめた。


 村人はなす術もなく、彼らに従った。連中は労働力になりそうな若い男と若い女を選んで、手足と口を縛って、馬車に乗せて北の帝国領に向かって移動していった。


「あやつら、帝国に奴隷として売りさばく気じゃな! 帝国の獣人は近頃、獣人王国に逃げてくる者も多いからの。値段も高騰しておるという話じゃ」

 悔しそうにインターニュが言った。

 してやられた……。村がそんな目に遭うだなんて……。

 引き入れた隊商に裏切られたんじゃ、村の防御をどれだけしても無意味だ。


「すぐに手を打たないと間に合わない……。私は信仰されてない地域だと力を発揮できないから、獣人王国の外に入られたら何もできない……」

「まずは熱くなる前に地理を確認じゃな。北にある帝国までの距離は村からかなりある。じゃが、それまでに空白地帯のようなものが広がっておる」


 たしかにどこの国の主権が及んでいるか漠然とした空間が獣人王国ほどの面積で広がっている。沙漠や高い山岳地帯が主で、大きな都市は存在しない。帝国が支配地域に入れてないのも、だだっ広くて統治しようがないからだろう。


「ここにはキツネ耳の大商人カルクレートという者が力を張っておる。私設軍隊も持っておって事実上の小独立国じゃ。おそらく隊商たちはまずここに入りこむつもりじゃろう。カルクレートは金さえもらえば、そいつらを守るというからの……」


「じゃあ、そこに行きつくまでにどうにかしないとダメってことか……」


 まずはこちらから追手を差し向けられるだけの時間を神が稼ごう。


 私とインターニュは隊商を追った。

 こんな時、神だと助かる。広範囲を一気に移動できるからだ。

 私の信仰もかなり広まっているのか、昔なら考えもしなかったところまで一気に移動することができた。それだけ信仰圏内が伸びている証拠だ。


 そして沙漠を進む隊商の荷馬車に到着した。向こうも追われていることを理解しているのか、かなり早く動いている。


 私はその隊商に警告を送る。

「このような悪逆非道の行いをただちにやめて、村人を解放せよ! そうしなければ大いなる災いが貴様らに降りかかるであろう!」

「わらわは女神インターニュである! わらわを信仰する者がその中に含まれておる! すみやかにその者たちの縄を解け!」


 しかし、隊商は止まらない。キツネ耳の隊商リーダーらしき男が言った。

「獣人王国が神に守られているというのは本当みたいだな! けど、ここまで来て止まってたまるか! 獣人王国の獣人は働き者だって評判で帝国まで運べば高く売れるんだ! 今回の仕事が成功すれば大きな稼ぎになるんだよ!」


「そなたたちも獣人ではないのか? どうして獣人を捕らえて売りさばくようなことをする?」

「猫人族の国ではこれまで殺し合いがなかったのか? そんなことはないだろう? 人は家族であろうと殺し合うのさ。近い種族だから守ってやるだなんて発想は無意味だね! だから我々狐人族はお金を信じることにしたのさ! お金なら絶対に裏切ることもないからな!」

「なるほどのう、一理あるのじゃ」

「納得してどうするのよ!」


 くそっ! 止まる気は皆無か! ここまでひどいことをしてる奴が人に言われただけで止まることはないだろうけど。

 ならば、こちらも実力行使に出るしかない。


「お前たちの行く手を阻んでやる」


 砂嵐を連中の真ん前から起こした。

 小さな砂の粒が連中と荷馬車にばちばちばちと吹きつける。


「お前たちが止まらぬ限り、やまぬからな! 進めば進むほど強くなるぞ!」


 しかし、敵もこの程度でどうにかなるほど弱くはなかった。


「なるほど、神には神の力を使うしかないな!」

 そう言うと、連中は手を奇妙な形に組みながら、変な呪文のようなものを唱えだした。


「なんだ、これ?」

「わらわにもわからん!」


 やがて、呪文がやんだ。


 私たちの前にキツネ耳の少女が姿を見せた。軽そうな羽衣のようなものをまとっている。


 宙に浮かんでいるし、間違いない。私たちの同類だ。


「おやおや、私のかわいい子供たちが邪神に苦しめられていますね。守ってあげなくては」


 すると、光の幕のようなものができて、隊商に吹き付ける砂嵐をとどめた。


「あなたは何者!?」

「人に尋ねる前に自分から名乗ったらどうです? とはいえ、あなたの名前がファルティーラということぐらいは存じ上げていますが。ファルティーラとインタですね」

「なんで、わらわの名前だけ省略するのじゃ!」


「わたくしの名前はセルロト。狐人族の隊商のうちで秘密裏に信仰されている神です。信者は秘密結社に入り、そこで祈祷の呪文を学ぶのですよ。結社の規約は面倒ですが、その分、ピンチになれば必ずほかのメンバーが助けてくれます。隊商間の相互扶助組織のようなものですね」


「いかにも商人の間で信仰されていそうだ……」


 セルロトは涼しい顔をしている。まるでこっちなど相手ではないと思っているようだ。


「わたくしセルロトは信じた者の願いを必ずかなえるとされているのです。ただし、相応の代価はいただきますがね。さあ、信者よ。代価を支払いなさい」


 隊商のリーダー格はナイフを取り出すと自分の腕に深い傷を入れた。当然、血が流れてくる。

「セルロト様! これが私の代価です! なんなら腕一本捧げてもかまいません!」


 無茶苦茶だ……。明らかに邪神のたぐいじゃないか……。


「わかりました。あなたの覚悟は知りましたので、助けてあげましょう」


 荷馬車の馬に変化が起きた。足が筋肉隆々とふくれあがったのだ。


「これなら速く走れるでしょう」


 馬は沙漠をものともせず、まるで荷物を置いていったように駆けていく。


 しまった! 逃げられる!


 追いかけようとしたが、行く手をセルロトにふさがれる。


「ここから先は通れませんよ」

次話もすぐに更新します。

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