11 水不足解消
まだ日間1位! ありがとうございます! 今日は体を動かそうと思って炎天下の中、50キロぐらい自転車で走りました。当たり前ですが、くたくたになりました……。
リオーネはすぐに新たな神託が降りたことを会議に知らせた。
ぞろぞろと神殿に会議のメンバーがやってきて、すぐにその内容を書き取って、開拓中の村に知らせる伝令を送る。これが一セットだ。
私たちから直接に開拓中の村に伝えることも不可能ではないが、それをやりすぎると王でもあるリオーネの価値が下がる。巫女王の権威が揺らぐようなことをすると、私の権威も揺らぎかねない。それじゃ自殺行為だ。
国が豊かで平和であれば、ちょっとばかし国王や宰相が愚かでも回る。しかし、今の状態でトップがまともに仕事ができなければ国はぐちゃぐちゃになる。そしたら、国家は瓦解する。
なので、初代国王のリオーネは責任重大なのだ。
「せっかくだから、リオーネも視察に行ったら? 私も上手くいくのを見届けるから」
「はい! この方法が成功すればほかのところにも井戸を増やせますしね」
「わらわも行くのじゃ」
インターニュは暇なのか、こういう時だいたいついてくる。
私はリオーネの乗る国王用馬車に同乗して、開拓中の村を目指した。リオーネにしか姿は見えないけど。
すでに井戸に関する通達がいっていたこともあり、村ではなかなか深い螺旋が生まれていた。大人の獣人を八人縦に並べたぐらいの深さはあるだろう。
「うん、なかなかいいかたつむりになってるね」
「本当だ、螺旋を作っているからかたつむりみたいに見えるんですね」
「そう、そういうこと!」
かたつむり式井戸とは平坦な土地を、渦を巻くように螺旋型に深く掘っていく方式の井戸のことだ。
そうなると、螺旋の終点が一番深い状態になる。
「ほら、リオーネ、螺旋の終点からさらに垂直に井戸を掘っていってるでしょ。これならすでにかなり深くまで掘ってるから水にたどりつきやすいの。もう、終点あたりが湿ってるし、余裕で湧くと思うよ」
果たして本当に水はすぐに湧いた。
「水が出たぞ!」という声が作業員のところから上がっている。
「これで村を作れる!」「水の質も悪くないぞ!」「ファルティーラ様の神託のおかげだ!」
うんうん、もっと私をたたえるがいい。すると、私の力もアップするからね。
「早速、この成功例を国の各地に伝えます! 砂地ばかりの国土を農業大国にできるかもしれません!」
リオーネもとてもうれしそうだった。国王としてあるべき姿だ。
「そうしてね。いくつも村ができれば、国の体裁も整うでしょ。そしたら住みたくなる人も増えるだろうし」
「はい、もっともっとこの獣人王国を発展させます!」
かたつむり式井戸は労働力こそかなりかかるものの、一度井戸が完成すれば、そのあとのメンテナンスなどは普通の井戸と変わらないので、開拓予定地で次々に作られた。
労働力は非常時だけ軍隊として活躍する屯田兵部隊に行わせる。今のところ、労働力不足ということはない。当初の人数だけではきつかっただろうから、人口が増えつつあるということだと思う。
「ああ、それと新しい村には要求したいものがあるのじゃ」
「インターニュ様、何でしょうか?」
「わらわとファルティーラを祀る神殿は小さくてもいいから作るように言うといてくれ」
「あなた、そういうところ、ちゃっかりしてるね……」
しかし、宗教施設も村に不可欠なものの一つではある。私がいた大陸でもどんな小さな村でも宗教施設の一つはあった。それは地域を結びつける要素の一つなのだ。
王国ができて二年も経つと、村の数もかなり増えていった。一方でニューカトラは首都らしく、いろんな店が立ち並ぶようになった。村じゃなくて間違いなく町だ。
どんな獣人にも何の差別も行わないと謳っているので、帝国やほかの国家でひどい扱いを受けていた人々もこの国に逃げこんでくるようになった。獣人王国はまだまだ拡大中だから労働力が増えて困ることはない。どんどん受け入れる。
人が増えると商売が成り立つわけで、遠方からも商人がやってきたりするようになった。旅人も東西南北の移動における中継地点として使える。
数年前までは死の土地などと揶揄されていたやせた土地が農業国家として栄えだしていた。
だが、栄えるということは、それだけトラブルも増えるということだ。
そういうことに関しては私よりインターニュのほうが情報に対して敏感だ。
「どうやら、隊商がよく村を訪れるようになっておるらしいのう」
ある日、インターニュが言った。
「そりゃ、商人の中には隊商を組むのもいるでしょう。そのほうが安全が確保されやすいし」
一人で動けば盗賊一人に財貨を取られかねないが、数人や十人ならそれに対処できる。
「安全だけならいいんじゃがの。それって、つまり軍事力も増えるということじゃからな」
何かインターニュはけげんな顔をしている。
「でも、今、獣人王国に来てる隊商って狐人族が多いでしょ。彼らも獣人だし、こっちを騙そうだなんてしないんじゃない?」
狐人族とはつまりキツネ耳の獣人のことだ。彼らは昔から大きな国家は作らずに各地を交易で移動して生活することを常としていた。
砂漠や平原に小さな交易用都市を作って、商人や旅人の便宜を図りつつ、自分たちも積極的に旅をしたりする者が多い。そんな交易型民族だ。
「わらわは予言するぞ。今から三年以内、あるいは三年以降から三十年以内のうちに隊商による事件が起こるじゃろう!」
「そんな広範囲だったら、そりゃ、何か起こりうるよ!」
三十年以内に何か起きると言ってるのと同じじゃないか。
「よいか。商人というのは素直に信用できぬものじゃ。それが獣人でも同じじゃ。とくにこの獣人王国の民は全体的にお人よしすぎる。そのうち、痛い目を見ることになるじゃろう……」
――と、何か祈りのようなものが頭に響いてきた。
これは誰かが本気で神に祈りを捧げている時に起こるものだ! 熱心な祈りは神にテレパシーとなって通じることがある。
「何か聞こえてくる!」
「わらわもじゃ!」
――た、助けて……。このまま、みんな奴隷に売り飛ばされちゃう……。せめて、私の友達だけでも、助けてください、神様……。
「大変だ! 人さらい!? よくないことが起こってる!」
そこにリオーネもあわてて神殿に入ってきた。
「大変です! 辺境のキケ村というところで、村人の大半がさらわれるという大量誘拐事件が発生しました!」
間違いなく、それだ!
「犯人は隊商を装った二十人ほどの部隊だったそうです……。キツネ耳の連中が主だったという話です!」
「こんなにすぐに当たるとは予想外じゃったわ……」
インターニュも青ざめていた。
明日は夜まで投稿できる時間がとれないので(原稿はあります)、夜にほとんど時間空けずに連続投稿します。話が動くので一気に読んでいただければ幸いです。