10 村を増やそう
ニューカトラ獣人王国になったからといって、突然立派なお城が立つわけでもなく、突然人口が百倍になるわけでもなく、ニューカトラ村――一応首都ということになった――での寄合会議ですべてを決定するというシステムは受け継がれた。
その会議を元に巫女王という立場にあるリオーネが最終判断を下す。ただし、会議が変なことになりそうな場合は、私が会議のメンバーに直接託宣を出したりして誘導する。
あまり関わりすぎるべきではないのかもしれないけど、人間は完全無欠ではない。明らかに破滅の道を選ぼうとしていると判断できた場合はストップするしかない。
政治のメンバーはニューカトラ村の人たち及び、新たに入ってきた現ニューワーディー村の主要メンバーで構成されている。その他、まとまった数の人たちが国民として受け入れてほしいとやってきた場合は、その代表者を会議に入れたりする。
会議はひとまずはこれでいい。まだ、せいぜい複数の村が集まっているという程度の規模の国家だからだ。
それと軍隊についても整備が始まった。
もちろん、国家規模からして、純粋な職業軍人を置くことは不可能だ。軍人に俸給を払う余裕がないしね。しかし、軍事力が不要ということは絶対にありえない。ニューカトラを狙う国家や勢力は今後増えてくるだろうから、そういう連中と戦う力はいる。
神の力でどうにかできないのかと言われそうだが、神が自分の力を直接行使して人間その他の命を奪うことは禁じられているのだ。神は生み出すことに関することには割とゆるいが、相手をいきなり殺すみたいなことは原則できない。
原則ということは反則もあるということだが……。つまり、自然災害を起こして間接的に殺すような神はいないことはない。推奨できないけど。
でないと、この世界の人間はすべて神の奴隷みたいな立場にいたはずだ。なので、人間との戦いには人間が出向くのが基本になる。
そこで私は託宣でいくつか、戦争に関する案を出した。
一つ、一定年齢以上の民衆は簡単な軍事訓練を行ってはどうか?
高いところから石を投げるだけでも戦争では威力を持つし、槍を持って突っこめば十分な脅威になる。逃げる場合でも、潜伏方法などを知っていれば役に立つ。
一つ、軍隊は置くが、平時は農業主体で、戦時中だけ兵士となるというスタイルはどうか?
これはもともと私がいた王国で行われていた屯田兵制度だ。とくに辺境地域の開拓と防備をまとめてやれるので、効率がいい。
一つ、事前に村の周囲などを本格的に城のように改造して、少数の兵士でも防御に成果が上がるようにしてはどうか?
高い城壁で村を囲むことなど到底できないが、それでも穴を掘り、塁壁を作るだけでも防御性能は格段にアップする。
畑も増えて、ニューカトラという村の規模自体がかなり広がっている。それにともなって、濠なども新規で作っていかないといけないが、逆に言えば、しっかり濠を作っていけば、本格的な城塞都市にしていくことも夢じゃない。
ニューカトラ獣人王国は会議のすえ、全部の案を採用することにした。私の意見は片っ端から取り入れるスタイルでいくらしい。
国家の体裁は徐々に整いつつある。
まず、人口がどんどん増えている。今まで寒村しかなかったところに、形だけでも国家を名のるものが生まれたので、話を聞きつけた獣人がかなり入ってきたのだ。
中にはネコ耳、イヌ耳以外の獣人もいた。ウサ耳とキツネ耳だ。そのほか、クマ耳の者やシカの角が生えている者もいた。
「獣人の種類って多いんだね」
ある日、私はインターニュに感想を述べた。
私の大陸では獣人の存在は知られていたが、こんなに多種多様に暮らしているとは思っていなかった。
「この大陸では昔から、獣人がそれなりに平和に暮らしておったのじゃ。なかにはほかの大陸で迫害されて移り住んできたという伝説を持つ種族もおるのう。一回集まってくると、われもわれもとやってきたという点ではこの獣人王国と同じじゃ」
インターニュはよく私の神殿でくつろいでいる。その時もそうだった。リオーネは仕事中で席をはずしている。
「なるほどね。ある意味、ちょうどいいかもしれない。人口が増えれば国力も高まるわけだし。獣人に門戸を開いていると宣伝ができれば、遠くから獣人も来てくれるかもしれない」
現在、ニューカトラとニューワーディー以外にも村を作ろうという動きもある。村が増えれば、国家らしさはさらに強まる。
「そうじゃの。しかし、今、それで問題が起きておるのじゃ」
インターニュは難しい顔になる。
「いったい、何?」
「水不足じゃよ」
「あっ、そういえば……」
「ニューカトラは湧き水を引けておるし、ニューワーディーは川が近くにあるが、ほかのところはどこも水で困っておる。いい水がなければ結局首都ニューカトラに住もうとするしのう」
これはゆゆしき事態だ。水がないと新たな村を作ることもできない。
「人口も増えてきたが、井戸職人の数はまだほとんどおらんようでのう……。垂直にかなり深く掘らんと良質の水にはありつけん……」
インターニュも国をどう富ませるか考えているようだ。
そういえば、私の故郷だったハルトミット王国に深く掘る技術がなくても作れる井戸があったような……。
「よし、ちょっとやってみよう」
私はそのやり方を神殿の壁に刻んだ。
神殿が汚れるけど、その分、ここに描けば誰も忘れないだろう。
「ただいま帰りました」
巫女王のリオーネが神殿に戻ってきた。
「リオーネ、このやり方を開拓部隊に広めてくれない? 人手はいるけどいい井戸が作れるかもしれない」
「わかりました……だ、旦那様……」
今、私に向かって旦那様って言わなかったか……?
たしかに神婚の儀をやったので夫婦と言えなくもないのだが、この場合私が夫なのだろうか……。
「す、すいません……ファルティーラ様に戻します……」
「いや、そこはリオーネが呼びたいように呼んでくれればいいよ……」
「お前ら、なんでガチの新婚夫婦みたいな空気出しとるんじゃ」
インターニュがあきれていた。
「と、とにかく、この『かたつむり型井戸』を試してみて! 労力は大変だけど、意義はあるはずだから!」
「わ、わかりました……だ、旦那様……」
まさか人間の女性に旦那様と言われると、こんな変な気分になるとは……。神様長くやってても新しい発見があるな……。
次回は夜の更新予定です!