9 村から国にします
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インターニュに大笑いされた。
「お前のう、神が娘一人のことを気にかけすぎではないのか? それではまるで母親じゃぞ」
「だって……リオーネに拾ってもらえなかったら今の私はないんだから……。それだけリオーネは特別なのよ……。本当に本当に特別なんだから……」
私はぎゅっと守るようにリオーネを抱きしめた。
「ファルティーラ様……?」
リオーネもちょっと戸惑っている。しまった、やりすぎたか。
「はぁ……お熱いことじゃの。お前自身が乙女すぎるわ」
「むしろ、インターニュが産めよ増やせよって発想が強すぎるのよ。穢れのなさを重視するのは神として普通だし」
「じゃあ、巫女が神と結婚する神婚の儀でもやればよいのではないか? 普通はそういう場合の神って男神ってことが多いが……儀礼的な面も強いし、別に女同士でもよいじゃろう」
さらっと、とんでもないことをインターニュは言った。
「えええ! そんなケッコンカッコカリ的なことは……」
私の頭が真っ白になる。まさか、神がこんなにテンパることになるとは……。
「いや、そんなに不思議なことではないじゃろ。むしろ、そういう儀式をやっておくほうが、その巫女の地位も上昇するし、今後の政治的展開を考えても確実にプラスじゃと思うぞ」
政治的展開――ああ、そっちの内容と絡めて言ってるのか。
「インターニュ、あなたって、なんだかんだで先が読めてるね」
「これでもワーディー王国を三百年守ってきたのじゃぞ。ガルム帝国という粗暴な連中に負けてしもうたが、もう一度計画的に手を打てればあの帝国も滅ぼせる。わらわはお前と一緒に獣人の大国家を作るつもりじゃぞ。そのためにここに来たのじゃ」
これは頼もしい言葉をいただいた。
そう、自分たちを信仰する人々を富ませ栄えさせるのは、神にとって自分のためでもある。そうすることで信仰される地域だって広がるのだから、ウィン・ウィンの関係なのだ。
「わかった。じゃあ、私、リオーネと神婚の儀を行うよ」
「え、え、え、え、え……。あの……ファルティーラ様……」
あっ、さっきからずっとリオーネを抱きしめたままだった……。
「あ~、もちろん嫌だったら、形式的にもそういうのはやめておくけど……。巫女との精神的な距離感が広がったら、いいことはないし……」
リオーネは命の恩人みたいなものだから嫌がることは極力したくない。
「そうじゃぞ。気になる男がいたら、わらわに教えよ。明るい家庭を築くことを約束してやろう」
「いえ……単純に結婚という言葉にびっくりしただけで……決してファルティーラ様のことを避けてるわけじゃないんです……。それはわかってください……」
インターニュが「なんて純情な娘じゃ」と言っていた。そうなのだ。純情だからあまりもてあそぶようなことはしてはいけないのだ。
「あっ、それと……実は神婚の儀によって、もっと大きな変化がリオーネに起こるんだけど、そっちの説明もしておくね。それが嫌ならやっぱりやめておいてもらうしかない」
「変化? 体が成長するとかですか?」
むしろ、まったく成長しなくなるのだけど、それは解除可能だから説明は後回し。
「どっちかというと、世俗的な立場がまったく違ってくる」
「この村だか国だかわからんところのトップが年寄りのままでは求心力がないのじゃよ」
やはり、インターニュは私がしようとしていることをわかっているな。
私はできるだけゆっくりとリオーネに自分の計画を語った。
リオーネ自身に考える時間がとれるようにだ。
私はリオーネが幸せになれると思って、言ってはいる。でも、結局は幸せかどうかはその人個人が決めることだ。
間違いなく、リオーネの生活は激変してしまうし、それは彼女がもともと考えていたこととは全然違うだろう。だから、私には説明義務がある。私は邪神じゃない。とことん純真ではないが、ちゃんとした女神だ。
話を真剣に聞いたリオーネは最後に一言、「やります」と言った。
それから、自分も女神になったみたいに、曇りのない笑みで笑った。
「きっと、ファルティーラ様の神像を拾ったところから私の人生はそういうふうに決められてたんですよ。不安はないです」
「わかった。じゃあ、この計画を関係者各位にも伝えておくね。これに関しては私がほかの人のところにも神託を投げておくか。インターニュも手伝ってね」
「この『国』が強くなることはわらわにとってもプラスじゃからの」
●
二週間ほどで話はまとまった。
そして、警備などで出ている者を除いて大半の村人が広場に集められた。
そこで古老がいつものように出てくる。
「わしはこれまでニューカトラの村を守ってきた。じゃが、もうだいぶ年じゃし、これから発展していくニューカトラの指導者としては向いておらん。そこで新しい指導者を選ぶつもりじゃ」
村人がざわつく。それも当然だ。
「次の指導者は、ファルティーラ様の声を聴き、村に長らく貢献してきた巫女リオーネにする!」
まったく考えていなかった者もいたのか、混乱が走る。
「明日、巫女リオーネはファルティーラ様に仕える者であることをはっきりと示すために、神婚の儀を行う。それをもって、リオーネを指導者とし、同時に国王と定める。国名は『ニューカトラ獣人王国』じゃ!」
王国という響きに胸が高鳴っている者もかなりいるようだ。顔を見ればわかる。
「少し前までここは小さな寒村じゃった。まともな村の名前もなかった。じゃが、もはやその勢力範囲はニューワーディーを含め、大きく広がっておる。これを村と呼ぶのは無理がある。そこで、国と名乗ることにしたのじゃ。猫人族も犬人族も国民として一層精進してほしい!」
古老の言葉に民衆が盛り上がる。国にしますという発言はやはり威力が大きかった。
どうやら、船出は順調らしいな。あとはこのニューカトラ獣人王国がどうなっていくかだ。
翌日、神殿の中にて、リオーネと私の神婚の儀が行われた。
儀式自体はとてもシンプルだ。台に置かれている指輪をリオーネがはめて、「ファルティーラ様第一の下僕として生きることを誓います!」と宣言する。それが、儀式のほぼすべてだ。
だけど、リオーネにはそれなりに大きな変化が起こる。
「なんだか、体が温かいです……」
「それは女神の加護。正式な巫女になった証明みたいなもの。巫女を降りるまでは、あなたは老いることもないでしょう。それが嫌だったら、また要相談ってことで」
「え、老いない?」
「ふん、不老不死ってこと。もっとも、私のいた国だと長くても五年ぐらいで巫女をやめて、みんな普通の結婚してたから、一種の伝説だと思われてたみたいだけどね。あなたも巫女ではあるけど。自分の人生は自分で決めなさい」
神は提案はするが、決定まではさせない。それをやると、人間の存在意義は消えてしまう。過保護がいきすぎると子供が上手く育たないようなものだ。
「できることなら……いつまでもファルティーラ様のおそばに仕えたいです」
今日から国王にもなるのに、やっぱりリオーネは澄んだ瞳をしていた。
そして、私の手をそっと握った。
「よろしくお願いします……」
「うん、よろしく、新国王様」
この日からニューカトラ獣人王国はスタートした。
明日から出張なので、昼に更新が難しいため、早朝と夜の更新を目指します!